BLACKPINK(블랙핑크)「Kill This Love」


画像1


 4月13日、コーチェラフェスでのブラックピンクのライヴを観た。この日のライヴでは、去年観た来日公演とは比べものにならない壮大さを築き、圧倒的な熱量を生みだしていた。凄腕のサポートバンドを従え、ジス、ジェニー、ロゼ、リサの4人は高いパフォーマンス能力をこれでもかと見せつける。同性からの支持が高いグループだけあって、女性の歓声が目立っていたが、そこに女性以外の歓声も混ざるところは、日本よりもガールクラッシュな存在が幅広く受けいれられやすいアメリカだからこそだと思った。彼女たちのコーチェラライヴは、韓国ポップ・ミュージック史の金字塔として、後世に語り継がれるだろう。

 ライヴを観たあと、あらためて彼女たちの最新ミニ・アルバム「Kill This Love」を聴いた。リリース日に聴いたときも思ったが、本格的に欧米のポップ・ミュージック・シーンで活動するためのプロセスとしては、非常によく出来た作品だ。能動的な強い女性像を打ちだし、それを助長するかのようにサウンドもアグレッシヴさが際立つ。リード曲“Kill This Love”のMVも、彼女たちの挑発的な立ち居振る舞いを前面に出している。なかでもジェニーの目つきには、時代を射抜くための貪欲さと野心がうかがえた。“As If It's Your Last”のMVで見られた可愛らしい笑顔はどこへやらと思わせるほどの凛々しさが、筆者の心奥深くにまで突き刺さった。ここまで隙のないイメージの構築には、そうそうお目にかかれない。

 収録曲で耳に残ったのは“Kill This Love”だ。強烈なキックと低音をバックに、シャープなブラス・サウンドが鳴り響くそれは、2018年のコーチェラでビヨンセが披露したパフォーマンスへの返答に聞こえる。このときのビヨンセも、黒人文化に対するリスペクトを示す意味で、大々的にブラス・バンドを取りいれていたからだ。こうした連想を容易にさせるサウンドは、ガールクラッシュなブラックピンクというイメージをより強固にすると同時に、フェミニズムと密接な現在のポップ・カルチャーに深くコミットできる。
 “Kick It”も秀逸な曲だ。フューチャーベースとバブルガム・ポップ特有の青々しさが折り重なり、清々しい高揚感を生みだしている。サビを見失うほど目まぐるしく展開が変わるため、典型的なポップ・ソングとは言えないが、そうした実験性に惹かれた。主体的になろうと決意する者を描いた歌詞も強力な自己肯定で溢れ、強い女性像をしっかり示している。

 「Kill This Love」は、オーバープロデュース気味に思えるほど、どう見られるか?という意識が細部にまで行き届いている。その巧さには筆者も驚嘆するが、一方でこの過剰さはどこまでいくのだろう?という懸念も抱いてしまう。たとえば、コーチェラライヴでの彼女たちは文字どおり完璧だったが、完璧すぎるとも言える。痩せすぎに思えるほど脂肪をそぎ落とし、エディ・スリマンが好むスレンダーなボディー・ラインを見せつけていたからだ(ちなみにリサは、エディ・スリマンのセリーヌを纏って『Dazed&Confused』のグラビアに登場している)。こうした見せ方を、ナタリー・ヌーテンブームやベッツィー・テスケなど多くのカーヴィー・モデルが活躍する現在において、逆張りに近い形で目立つためのプロデュースとして楽しむこともできるだろう。だが、筆者は楽しめなかった。このまま過剰さを突き詰めればどこかで破綻するのではないか?という想いに、どうしてもとらわれてしまうのだ。そんな危うさを無視してまで、「Kill This Love」を手放しで称賛するほどの盲目さは持ちあわせていない。



サポートよろしくお願いいたします。