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Violets

少し前に写真家として仕事を受けることを辞めた。

それは挫折と呼べるものだ。

ただ、今の視界はとてもクリアで、
やりたかったことを手放したことで出会った自分のことを思いもかけず気に入っている。

僕は元々美容師としてキャリアをスタートして、
海外でやったりメイクアップを学んだりしながら20代を過ごし
30代になってから写真の魅力に取り憑かれた。

instagramを始めるのが早かったので
先行者利益的に写真の仕事をたくさん頂くことができた。

しかしそれらの仕事は自分がやりたいジャンルではないこともあって、
気乗りしないことも多かった。

依頼に対して気持ちで応えれていないので
上がりの写真も良くなかった。
しかしそれを納品できるレベルに持ち上げる必要があるので、
誤魔化すスキルは向上した。

正直それは体力と精神の両方を疲弊させるものだった。4,5時間の撮影をやると、
ヘトヘトだった。

でも僕は写真作家になりたかったので、
いつかこの先に作家になれる扉の鍵があるはずと信じていた。

月に3,4回は写真の仕事があって、
月の半分は美容師の仕事をしていた。

美容師の仕事は基本的に新規のお客様は取らず(そもそも集客もしていない)
顧客のみ。
写真の仕事を受けるスケジュールを確保するためだ。

そんな中、
今年の夏くらいによく写真を撮っているさきちゃんという娘から頼まれて
普段顧客向けにやっている髪質改善を施術した。

仕上がりにものすごく感動してくれた。

そのあと新規のお客様を徐々に受け始めて髪質改善を施術すると、
今までの髪質改善やトリートメントは何だったのか、、ととにかくたくさんのお客様が感動してくれた。

僕にとっては普段から、普通にやっていたことだ。
17歳で美容師の仕事に出会って、
コツコツ進化と深化をさせながら、約20年やってきた。

今僕がやっている施術はレベルの高いことだったようで、
それにはじめて気付いた。

何より、僕は美容の仕事では、あまり疲れないのだ。
なんというか、淡々とできる。

僕は村上龍という作家が好きなのだが
彼の言葉を思い出した。

「結局、その仕事に向いてる人が仕事をやるときって、淡々とやると思うんです。
醍醐味、とかじゃなくて、淡々とやる。
辛いとか苦しいとか、これがすごいとか言っているうちは、まだ僕はアマチュアだと思う。
淡々とやるんですよ。」

まさに僕にとって美容の仕事がそうで、
写真の仕事は、苦しいときもあるし、思いっきりへこむこともあったし(僕がへこむって想像がつかない人も多いと思うけど)、畳んでた羽根を広げたくなるくらい上機嫌のときもあって、
ああ、あれはアマチュア的だったんだな、と思った。

この出来事が決定的で、
写真の仕事を辞めようと思った。
僕は向いていないのだ。

それよりも自分に向いている仕事で、
たくさんの誰かを幸せにできるなら、
それをやるべきだ、と思ったのだ。

思いっきり遠回りをして、初めに選んだ仕事に戻ってきた。
これは自分にとって大きなギフトだった。
普通に続けていたなら手にできなかった、
遠回りをしたから手にできたギフトだ。

挫折をして、遠回りをしたからこういう自分に出会えた。
これが本当の自分なのかもしれない。

これから写真は完全に趣味というか、心気ままに向き合おうと思っている。

数学者の岡潔さんの本でこんな一節がある。

「よく人から数学をやって何になるのかと聞かれるが、私は春の野に咲くスミレはただスミレらしく咲いているだけでいいと思っている。

咲くことがどんなに良いことであろうとなかろうと、
それはスミレのあずかり知らないことだ。」


僕の写真も、
春の野に咲くスミレのように、
季節がやってきたら気ままに咲いて、
好きな人にだけ愛でられれば良い。

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