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JUNK FILM by TOEIを楽しく観る方法vol:08 「悲しい色やねん」

どんな文化にも「賞味期限」というものがあります。70年代ボンクラ達の心を熱くさせ女性とか賢そうな人からは敬遠された東映実録路線の映画の数々。しかし、時代は流れ日本経済もその陰画ともいうべきヤクザ経済も拡大の一途を辿ります。「貧乏臭さ」に徹底した拒否感を持ち始めた金ぴかの80年代。もう貧乏臭いアパートで働かせているスケの帰りをボンヤリ待ってるチンピラの姿なんて、時代から取り残されてしまったようになってしまった感もあり、今までとは違った切り口でヤクザを取り上げた作品が増えてきたと思います。

小林信彦さんの「唐獅子株式会社」(東映がやっさん主演で映画化した件をクール過ぎる視点できめ細かく記述した「天才伝説 横山やすし」も必読!)や、江口寿史さんの「ストップ!ひばりくん」、つかこうへいさんの「二代目はクリスチャン」などなど、ヤクザの持つ「威圧感」をタテにとってそれを崩す事で物語を転がしてゆくような作品が次々と生まれていきました。

そんな中、全く東映臭のしない森田芳光監督が東映に乗り込み、小林信彦原作で撮ったのが本作「悲しい色やねん」。そう、上田正樹さんのヒット曲「悲しい色やね」が主題歌になっています。しかし、「悲しい色やね」のウエットかつドメスティックな魅力に「そのまま酔ってしまって大丈夫か?」と不安になるような、ヤクザ映画の脱構築っぷり。かつての東映のあのヤクザ映画を愛するものとしては・・・結構楽しめてしまうんだから困ったもんだ!?

主演の仲村トオルの下手くそな関西弁にもめげず、現在最盛期を迎えている石田ゆり子さんのたどたどしい演技にもめげず、森尾由美のキンキン声にもめげず、物語を眺めていると突如目を疑うような小林薫の超ダウナーな寝たきりのような組長が出現。妙にオシャレな内装や、若頭・・・と言いつつ明らかに女性を侍らかしていて・・・。妙に貫禄のある女性(劇中は飽くまで男扱い)は江波杏子サン!うーん、その発想は無かった!江波さんの美味しいシーケンスはバッチリ女装姿でも用意されてます。と、この時点で森田芳光監督の悪ふざけスレスレな「ヤクザ映画を解体してやろう」との計算に気付くのであります。しかし、飽くまでもヤクザ映画として演じてた髙嶋政宏さんもよくがんばった。報われないですが・・・。

そんな混沌とした映画の中で、藤谷美和子さんが全てを持って行ってしまいました。正直、実際の作品よりも奇行の方でしか知らなかったですが、見事に自己主張の強い「変な女」を演じています。藤谷さんがいなかったら途中下車していたことでしょう。

この時代の邦画ってほとんど観ていないし、今後語られることもそう多くはなさそうですが、たまに出会いがしらのホームランのような役者さんに出会えるのはうれしいですね。そういえば、「ウルトラマンタロウ」の北島隊員も見事に哀愁の漂うヤクザ役を好演していたのも、怪獣がすっかり出現しなくなって自暴自棄になっていつの間にか・・・なんてあらぬ妄想をしてしまいます。

しかし、この映画単品だけではたぶんそんなに面白くないんだろうな、というのも事実。それまでの東映の役者・スタッフの努力と会社上層部の飽くなき商魂が結集した数々のヤクザ映画を踏み台にしたからこそ光っているのだと思います。やはりラストシーンのとってつけた仲村トオルの涙と上田正樹さんの熱唱が白々しく感じるのでありました・・・。


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