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書籍「これからのデータサイエンスビジネス」を執筆した理由

2019年2月某日、松本健太郎氏よりTwitterのDMが届く。

「一緒にデータサイエンスの本を書きませんか?」

私はすぐに理解した「ドッキリだな」と。

これは書籍「未来IT図解 これからのデータサイエンスビジネス」が、発売されるまでの軌跡である。


なにより松本氏は策士である。
世が世ならカルタゴを率いて、第二次ポエニ戦争でローマを苦しめているような策士だ。
過去に私を「新刊を献本します」というエサで呼び寄せて、その場でインタビューをセッティングして、ITmediaの連載記事にしてしまう策士である(私はノーギャラだったが、献本がギャラ代わりらしい)。
3億光年譲ってドッキリでなかったとしても、ゴーストライターの依頼だと思っていたし、書籍が発売されるまで疑っていたのも事実である。

だが策士松本氏は出版社の名前を出して安心させる。
なんとインプレスグループのMdN社であり、シリーズ化されている「未来IT図解シリーズ」の最新刊だと言うのだ。
だがそれだけでは信用できない。
「インプレス」ではなく「イソプレス」ではないのか?
なによりエイプリフールには「PCうぉっち」をやっている会社である。
神保町のMdNオフィスで打ち合わせを行うことになったが、やはり打ち合わせ当日まで「実は神保町ではなく(小学生並みの下ネタなので自粛)ではないか?」と疑っていた。

打ち合わせに向かうと、どうやらMdNは神保町に実在するらしく、会議室に担当編集のS氏が同席した。
「S氏」と書くと星新一先生のショートショートで酷い目に遭いそうだが、編集者はイニシャルで出すのが慣習っぽいので業界人な振る舞いをしてみる。
本筋とは関係ないが、S氏が男前なので「イケメン編集S氏」としておこう。

そもそも依頼された経緯だが、当初松本氏が全部書く予定だったが、複数の執筆を抱えており、私に白羽の矢が立ったらしい。
「やはりゴーストライターなのでは?」という疑念がMAXに高まったのはいうまでもない。
何の実績のない怪しげなマスクマンに天下のMdNが執筆依頼を出すなど、MAXコーヒー並みに甘い考えなのだ(千葉県民にしか伝わらないローカルネタ)。

しかしここは策士である。
松本氏は既にイケメン編集S氏を籠絡しており、私の執筆は既成事実と化していた。
「松本氏は北朝鮮の喜び組と通じており、S氏にハニートラップを仕掛けたのでは?」と疑ったのは言うまでもない。
「神保町と警視庁のある桜田門はすぐ近くだし、下手すると防衛省のある市ヶ谷に駆け込んだほうがいいのではないか?」「執筆を断ろうものならペディグリーチャムを前にした空腹の猫のように、地上の楽園(自称)へまっしぐらではないか」という思考が0.02秒で駆け巡る。

私の答えは一つしかなかった。
「ぜひやらせて下さい」と。

いざ書けなくても逃亡すればなんとかなるだろう。
脱北者ならぬ脱神者(神保町だけに)である。
こう表記すると新興宗教の施設から逃げ出した元信者のようだが、喜び組を動かせる策士松本氏であれば、新興宗教ともつながっているのも自然の流れである。
そうなればイケメン編集S氏はハニートラップによる篭絡ではなく、洗脳された可能性も考えられる。
ここで「洗脳編集S氏」にリネームされたのは、言うまでもない。
こうして「絶対に逃げられない執筆」を迎えた私は、サムライブルーな顔面蒼白となり、脳内にはワールドカップ予選の「オエーオーエーオーエーオエー」という例のBGMが流れてきた。
サッカー知識はゼロなのに、潜在意識が引き出されるあたりに走馬灯の原理を体感した夜だった。

こうして執筆が始まったが、なにしろ書籍の執筆など初体験である。
ITmediaで連載はしていたが、あくまで4-5000文字程度の短い文章である(それでも原稿用紙10枚ぐらいはあるのだが)。
話は変わるが、ITmediaの連載は当初「1500-2000文字程度」と依頼されていた。
しかし調子に乗って初回の「AI開発ミステリー」で5000文字を越えてしまい、なまじそれが人気になってしまったので後に引けなくなった経緯がある。
画像もよく無断転載されるが、個人的には私が出典元と明記すれば自由に使ってもらって構わない。
その後の連載でも同じ文章量を書かざる得なくなり、あまつさえ「いらすとや」による図解も人気になってしまった。
月刊連載と言えども、ネタ出しから調査をして、文章にまとめてイラストも創るのは、なかなかどうして大変なのだ。
ここまでやっているのに、ギャラがどんぐり4個なのは割に合わないのではないか?
どんぐりを駅前のコンビニで飲んだくれている山本さんに渡して"白い粉"と交換してもらい、”白い粉”を歌舞伎町に持ち込めば日本円と交換できるものの、なかなか面倒である。
アメリカドラマ並みのタフネゴシエーターのように、原稿料を交渉したいものだ。

話は戻って、執筆に不安を抱える私をきちんとフォローするのは、さすが出版社と編集者である。
本の内容や方針をまとめながら、細かくスケジュールを提示して、定期的にアイデア出しなどにも協力してくれるという。
「これからのデータサイエンスビジネス」という主語デカ案件では、一体何を書けば良いのかわからなかったが、ひとまず安心である。
物事進めるには、指針となる地図が重要なのだ。
地図がなければワンピースのルフィも出港前に海賊王をあきらめて打ち切りになってるし、徳川埋蔵金が見つからなかったのも地図がなかったからに違いない。
私の中で「洗脳編集S氏」が「有能編集S氏」に変わった瞬間である。
子供の頃に読んだ漫画に出てくる編集者は人間のクズか犯罪者予備軍だったが、大人になって知り合った編集者はみなさん立派なのである(ITmediaのM氏も敏腕編集者である)。
もっとも漫画とIT・Web媒体では編集者の質も変わってくるので、将来マンガ原作者になったらクソショボ編集者にあたるかもしれない。
そんなのミジンコみたいな奴と関わるのは嫌なので、武闘派で知られる秋田書店の編集者と仕事をしたいものである。

というわけで大枠が決まって執筆を始めたものの、ネタを出して大まかな内容をまとめるだけでも大変だった。
一応普段は”自称”AIベンチャー社員なので、仕事もしなければならない。
これまでの経験や関わった案件での出来事などをまとめながら、箇条書きでも内容をまとめていく。
この作業は文章を書く能力だけでなく、インプット(体験・書籍・人から聞くなど)も必要だし、何よりわかりやすく伝えなければならない。

そして重要なのは「面白いこと」である。
既存のAI・データサイエンス本でよくあることだが、AIの歴史について説明したり(他の本で読んだ)、自社の商品や事例を自慢したり(パンフレットでやれ)、未来を語ったり(ジョン・タイターか)するのが総じてつまらない。
技術書に面白さを求めないが、ビジネス書ならギャグを入れろとは言わんが、読みやすくする工夫を入れるべきである。
そもそも人類の98.7%は興味がないAI・データサイエンスを知ってもらうなら、心にひっかかる「フック」を仕掛けるべきではないのか?
どこの会社とは言わないが、大手電機メーカーの偉い人が書いたAI・IoT本はあまりのつまらなさと社員による自演レビュー疑惑も相まって、ダメなAI本の典型例である
お前らは永遠に次をインスパイアしながら、木を気になってろ。

というわけで、面白さを追加したいが文章でふざけたネタを仕組むわけにはいかない。
なにせITmediaの連載でも、ネタを入れると「文章が冗長」「意味がわからない」とカットされるのがオチである(編集された文章はずっと読みやすくなるので、さすがは有能編集者である)。
そこで目を付けたのはイラストだった。

普段ITmediaの連載では「いらすとや」を使っているが、あれだけ豊富なイラストでも限界はある。
だが今回は未来IT図解シリーズを手掛けるプロのイラストレーター様がいる。
私がイラストを合成して大まかラフイメージを作ると、それをイラストレーター様がシリーズのテイストに合わせた素敵な一枚絵に仕上げてくれるのだ。
あくまでラフイメージなので、面倒な権利関係は無視して、好きな画像を組み合わせて、己のリビドー全開でフルスロットルにできる。
インターネット黎明期におけるアイコラ職人や、ニコニコ動画初期のMAD動画製作者の気持ちがわかった気がする。
こうして私の作った画像は、女神転生の悪魔合体ではベルゼブブかマーラ様か外道スライムの三択になりそうな出来栄えだったが、出版物としてのイラストは大天使ミカエルの如く神々しく、プロの技をこの目でしかと受け取った次第である。

余談だがこのイラストは松本氏と有能編集S氏には大変好評で、「原稿読んで爆笑した」「椅子から転げ落ちた」という感想をいただいた。
松本氏が「椅子から転げ落ちた」と表現するあたり、六代目桂文枝(桂三枝)の「新婚さんいらっしゃい」をイメージしているのだろう。
大阪人らしいチョイスである。
もっとも権利関係でそのままだと懲役1万年と2000年は食らうレベルなので、比較的安全なものをジュンク堂のトークイベントで披露するに留まっている。
いわば「原液」のようなものだが、これはコカ・コーラの原液並みに厳重管理しなければならない。
それでもコンプライアンスやポリコネやエセフェミやクソ左翼などのワードが飛び交う(私はそのような発言はしていないが)昨今、好き勝手な思想信条をぶちまけて原稿を書く我々は、ナチスドイツの弾圧に反抗するレジスタンスみたいなものである。
それでも地下活動なので表に出せず、MdNというフィルターを通してマイルドになった出版物が書店に並ぶのだが。

PART1では現状の問題点挙げているが、あっさり書けたのはSIerに対する指摘である。
ここらへんは色々経験もあるのでいくらでも書けるし、ページ数が足りないほどである。
まったくもって実名を出して告発できないのは残念だが、あくどい会社はどこにでもあるのだ。
この仕事をしてると名古屋が嫌いになるというのが、私の定説である。
また、経団連を構成する歴史と伝統の大企業の時代遅れっぷりについてもあっさり書けた。
以前在籍していた歴史と伝統の大会社における経験もあり、執筆のために色々思い出したら頭痛がしてきたので、印税にバファリン代を追加請求したいところである。
あとは執筆に使った喫茶店代とファミレス代を貰えれば、言うことはないのだが。
正直なところ、この時期は会社で暇だったので、仕事の合間にネタをメモしたりもしていた。

こうしてPART1がまとまった頃、会社でエラい人(エロい人ではない)に呼び出される。
「仕事の合間にネタを考えてメモしていたのがバレたのか?偽造工作は完璧だったのになぜだ!?そもそも社内ルールはガバガバだし、エラい人は外出ばかりでオフィスにいないので、誰かが密告したのか?」と動揺したのはいうまでもない。
最悪のパターンは書籍の執筆だけでなく、マスクドアナライズとしての活動がバレることである。

だが安心してほしい、クビを告げられただけだ。

「HAHAHA、スティーブ!明日からハローワークがお前の職場だな!」と、脳内アメリカ人のジョンが呼びかける。
それ以前に一体なぜ私がスティーブなのか?ジョブズは嫌いだぞ、ウォズにしてくれ。
詳細は語れないが、ともかくクビになったものの、マスクドアナライズはバレていない。
そもそも社員をホイホイクビにする時点で問題だし、多少なりともAI・データサイエンス業界で知名度がある(当時の私は知る由もなかったが)マスクドアナライズを把握してないのもどうかと思った。
曲がりなりにも正社員の私を、ガンプラで作り終わったランナーのように躊躇なく捨てるのはいかがなものか。
最近やたらと暇だったのは、クビにするための布石だったのだろうか。
策士と言えば松本氏だったが、身近なところにも策士がいたのである。
もっともこちらはリストラ請負人的な側面なので、異世界に幼女として転生して兵器のテストをしながら魔法部隊の将校になり、戦線を生き抜いて欲しいのだが、物体Xはどこにいるのだろう。

もちろん不当解雇で弁護士を立てて徹底抗戦を挑む策もあるが、結局は次の仕事を探すことになった。
そこらへんの詳細は別のnoteにまとめているので、こちらを参照してほしい。

こうしてルビコン川を渡って、背水の陣となり、残された武器は神風特攻オンリーとなった私は、仕事を探しながらの執筆となった。
多いは1日に3社訪問して、移動の合間にネタを考えて、時間があればドトール・ベローチェ・マックに入り浸り、カフェインを摂取しながらキーボードを叩いて原稿を書く。
ちなみに上記3店を選ぶのは、安くて店舗数が多いからである。
おかげで値段と客の民度が正比例することを痛感して、「いつかルノアールで仕事してやるぞ」という原動力になった。
どうしても電源やWi-Fiが必要なときはタリーズかスタバに駆け込むが、セレブな空気とセキリティ皆無なWi-Fiで全然落ち着かない。
自前のスマホでテザリングも出来るが、ケチってデータ通信量が少ない契約にしたので、それはそれで気になってしまう。
ネットによる下調べは欠かせないのは、AI・データサイエンス分野で下手なことを書くと、鬼の首を取ったように騒ぐ連中が多いからだ。
これは身を持って経験しているので、慎重になった。
もっとも発売後の反響を見ると、騒いでいるのはネットで無料で読める記事に対してイチャモンつけてマウントを取りたい、三次請け中小零細ITで働くはてなブックマークが情報源の中年ITエンジニアだけという疑惑がでてくるのだが、それは別の話である。

こうして有能編集S氏が提示したスケジュールを守りながら、なんとかPART1の原稿が出来上がった。
そしてこの頃、ある疑問が湧き上がる。

有能編集S氏は原稿をチェックしているのだろうか?

もっともS氏は進捗報告の度に「ここが面白い」「この表現がいいですね」とやる気を引き出す有能采配を発揮しており、チェックしているのは事実である。
だが「商業出版でこの内容はええんか?」と作者が若干引く部分でも「いいですね!」とOKをだすのである。
今話題のNettflixドラマ「全裸監督」のモデルとなった村西とおる監督ばりに、こちらが何を書いても「ナイスですね」のコール&レスポンスなのだ。
後から文化大革命やポルポトのごとく修正されるのではと不安になったが、ほぼそのまま出版されているので、温和なイケメンかと思いきや実はチョイワルな一面を見せつつ、ストーリが展開したら実は半グレだったという漫画ゴラク的な展開なのだ。
もっとも、イメージイラストにハリー・ポッターを使うと「海外版権は難しい」と却下し、PART3の執筆時には「NHKはまずいですね」と指摘しているので、一応越えてはいけないラインもあるようだ。
私の中で「有能編集S氏」が「有能アウトロー編集S氏」に変わったのは、この頃である。

次に私が執筆したPART3は、いわば将来への提言という内容である。
あのビルゲイツですらIT業界で未来を語れば後年ネタにされるわけで、自身が執筆した本は「ビル・ゲイツ 未来を語る」の1冊だけだった気がする(記憶違いかもしれないが調べるのが面倒なのでそのまま)。

PART1の現状に対する問題点はいくらでもあるので比較的スムーズに進んだが、将来への提言となると難しい。
「下手なことを書くと叩かれるのでは」とビビっていたが、これも発売後に「他人に文句つけるだけの奴は、金を払って本を読まない」という現実がわかったので、そこまで警戒することはなかった。
有能アウトロー編集S氏がまとめた指針はあれど、中身は自分が考えなければならないのだ。
普段からTwitterで情報発信しながら定期的にITmediaで長文を書くため、ネタを書き留めたり、セミナーに参加したり、面白トークを保存していたので、なんとか形にしていった。
こういうのは常日頃から考えておかないと書けないわけで、世間に対してAI・データサイエンスにおける提言を考えていた行いが評価されたのだろう。
真面目な提言となったPART3を読んでおけば、リクルートも内定辞退のデータを販売しなかったかもしれないと悔やまれる。
原稿の修正はかなりギリギリまでやっており、8月27日の発売日でも7月末頃まで手を加えたので、セブンペイ辺りまではぶちこめた。
もっともこれを書いている9月上旬には、セブンペイはとっくに開発中止となり、みんな忘れ去っているのだが。
こうも動きの早いIT業界で本を出すのは大変なので、読者は作者に対する敬意を持ち合わせるべきだろう。
ただし、AIポエム本を出版してるお前とお前はお前は別だ。
ハーバードやMITを卒業して、シリコンバレーで起業して、GAFAに買収されて、現在はエンジェル投資家みたいな奴がいるが、お前はラノベの主人公か。
異世界から地球にやってきて、チート無双してるつもりか?
リアルで属性が多すぎな人物は胡散臭いが、そこらへん策士松本氏も同じ意見らしい。
東京都メキシコ区在住のマスクマンが言うのだから、説得力ばつ牛ンである。

それはさておき、四苦八苦しながらPART3の執筆も何とか進めた。
なぜか原稿には「サンドウィッチマン」「山田うどん」「テンコジタッグ」「DASH村とTOKIO」「チコちゃんに叱られる」「第三次世界大戦だ」というワードが飛び交っており、一体私は何の本を書いているのかわからなくなったほどだ。
この頃は仕事探しと原稿の締切だけでなく、イベント登壇や準備もあって、やたら忙しかったからだろう。
この頃の日記は「〇〇社で面談」「マックでMdN原稿」「喫茶店でITmediaの原稿」「ファミレスでイベントの資料作成」という単語が並ぶ。
さらに当時の日記に「弁護士事務所」というワードがあるのだが、これはクビになった会社について相談していたからだ。
もっとも「裁判で争うより次の仕事探したほうが良いですよ」というアドバイスだったので、30分3000円の相談料にしては微妙な結果である。

こうして原稿は完成したものの、次は怒涛の修正ラッシュである。
数ヶ月前に自分で書いた原稿なのに、恐ろしく読みにくいし、何を伝えたいのかわからない。
もしも自分が読者としてコレに1700円を払ったら、0.02秒でメルカリを起動する自信がある。
本文はともかくイラストの出来は素晴らしく、著作権だけでなく肖像権や名誉毀損まで本気を出したセルゲイ・ブブカ並に飛び越えているが、きちんと「未来IT図解シリーズ」に準拠したお子様にも安心なイラストになっているのである。
もっとも、本が出版された頃には「アンパンチが暴力的」と話題になっていたので、博愛主義を通り越したメルヘンおファンタジーなプリンセスに、本書が目を付けられないのを祈るばかりである。

原稿執筆段階でも修正はラーメン次郎の如くマシマシで繰り返しており、原稿を印刷してはボールペンで修正してPCに反映する作業を何度もやっていた。
印税に印刷代を追加して欲しいところだが、領収書を捨ててしまったので今となっては請求できない。
これが国会議員だったら、コピー用紙を積み上げたら富士山なみの高さになる金額を請求できるだろう。
ヤフーの副社長が東京都副知事になったし、グレートサスケという覆面議員の前例もあるので、次の目標は政治家だろうか。
もっともグレートサスケは議員落選後に「ムーの太陽」を結成しており、バラモン兄弟に神輿を担がせるのはどうかと思うので、 やはり身の丈に合わない立場を目指すべきではないだろう。

こうして修正箇所を有能アウトロー編集S氏に送りつけるのだが、原稿のあらゆる部分を修正しており、下手すると別物なレベルでビフォー・アフターなのだ。
もしも自分が編集者なら「お前はもっと考えてから文章を書けと」とごんぎつねから国語をやり直しさせているが、有能アウトロー編集者であるS氏は手際よく修正して新しい原稿データを送ってくれた。
なお、松本氏の修正はピンポントかつ的確で量も少なく、ここでも策士ぶりを発揮していた(もっとも出版後に金額が違うと指摘されていたが)。

この頃は名実ともにフリーランス(半無職)になったのだが、原稿修正と合わせて別の仕事も複数抱えており、やはり忙しかった。
そのせいかどうかは全く不明だが、キンタマーニ高原(コンプライアンスに配慮した表現)が謎の痛みに襲われて、色々な病気を懸念したものの取り急ぎ大事には至らなかった。
この頃はやたら病院に行くことが多く、フリーランス(半無職)における健康の重要性を実感した次第である。

なんとか納得できる形になり、あとは発売されるのを待つばかりである。
しかしこれまで何冊も書籍を出版した策士松本氏と有能アウトロー編集のS氏がここで終わるわけがない。
販売促進のためにプロモーションを仕掛けるのである。
いわば四半期ごとにテレビでよくある、新ドラマの番宣みたいなものだ。
ちなみに番宣でバラエティ番組に出演すると、露骨に態度が悪い女優は……ん?モニタに写った人影はなんだろう?

もっとも私のTwitterでも8月は新刊の露骨なプロモーションばかりで、忙しさも相まって明らかに失速していた。
その数字は如実に現れており、ツイートインプレッションに対するフォロワー増加数はリーマンショック並に急降下していた。
これでは中の人が入れ替わったと疑われても言い訳できないレベルであり、昨今のキズナアイ分裂騒動に端を発するVTuber界の騒動を暗示しているのではなかろうか。

プロモーションのため、ジュンク堂のトークイベントを開催し、丸善における筆者オススメの書籍を選ぶという施策を実施することになった。
トークイベントといえど一人1000円(ドリンク付き)の有料イベントである。
合法ビジネスを手掛けるジュンク堂で出されるドリンクは普通のドリンクなわけで、スタミナが回復するわけではない。
つまりトークの部分でお値段以上のニトリな価値を提供しなければならず、
丸善のオススメ書籍で似鳥昭雄社長の自伝「運は創るもの 私の履歴書」を入れようか迷ったぐらいに、同氏の過去は面白い。
なにせ自伝では5ページ間隔で児童虐待・警察・裏口入学・ヤクザ・横領・不祥事・骨肉の争い・遺産相続などが展開しており、汚いシェイクスピアとしか言いようがない。
おそらく日経の「私の履歴書」で、削除された部分をぶちこんだのだろう。
同じ「私の履歴書」でも生命保険会社の社長は水で薄めた水のような清涼感だったので、日経新聞という存在がまったくもってよくわからない。
そりゃAI研究者に全然関係ない日本人を入れた相関図を書くわけだ。

何の話か忘れたが、丸善のオススメ書籍は絶版本は対象外だったので、「アントニオ猪木自伝」「カリスマ 中内功とダイエーの戦後」「ナニワ金融道」を入れらなかったのが残念だった。
そのうちITmediaの連載で「データサイエンティストのキャリアはアントニオ猪木に学べ」「ダイエーにみるAIビジネスの凋落」「ナニワ金融道で読むデータの重要性」とかやるのもありだが、このネタが通るかは微妙である。

というわけでジュンク堂のトークイベント(1時間)のためにせっせとスライドを作り、打ち合わせをしていると、ここで問題が起こる。
イベントの参加申込は電話なのである。

IT業界にいると忘れがちだが、世間一般において社会人の連絡手段は電話が主流なのである(以下に伝書鳩、狼煙、石版、モールス信号が続く)。
私もほんの数ヶ月前に会社員していた頃、某社の工場から「AI開発の注文書をFAXで送ったら確認してね」と電話が来ていた。
お前は夢の力じゃないのか?
「Slack使ってる人間は魔女裁判にかけられる」的な世の中を変えるべく出版した本なのに、皮肉な話である。
ジュンク堂は大好きで本も買っているが、レジが1階だけなのと申込が電話なのは勘弁してほしい。
それでも必死のプロモーションの結果、30数名に参加いただき、多くの方に書籍を買ってもらえたのは感謝感激あべ静江である。
電話申込でなければ、会場を東京ドームに変更するぐらい申込みがあったろうに。
もっともTwitterでイベントの宣伝ばかりしていたので、知名度に反してフォロワー数3桁前半くらいなクソつまらない企業公式アカウントみたいになっていたのは反省しきりである。

こうして発売までの流れを追っていく中で、読者諸氏が気になるのは「印税」の二文字であろう。
ここまで1万字に迫る文量を読んできた猛者に向けて、「国民健康保険料で消えるぐらいの金額」とだけ伝えておく。
そもそも共著なので折半となり、金額自体はそれほどでもない。
天下のインプレスグループとMdNいえども出版不況には抗えないし、それでも初版を一定の部数出せたのは策士松本氏の実績と有能アウトロー編集者のS氏の尽力あってのことである。

ここまで読んだら出版に至るまでの道程が伝わったわけで、苦労に免じてAmazonのリンクから購入して(何冊でも可)、重版に協力してほしい。
アフィリエイトはないので、腱鞘炎になるまで思う存分クリックできる。
今なら文中のイラストがダウンロードできるので、プレゼンや煽り目的で活用して欲しい。
煽り運転は違法だが、煽りプレゼンは合法なので、どんどんやってほしい。

noteのタイトルは

書籍「これからのデータサイエンスビジネス」を執筆した理由

だが、それに言及しているのか怪しい。
そういえばジュンク堂のトークイベントも「タイトルと内容が違うのでは?」とツッコまれたほどだ。

そこで執筆した理由を振り返ると、「既存のAI・データサイエンスビジネス本がつまらないから」である。
定期的にTwitterで書評をアップしているが、あくまでこれは「面白い」「役に立つ」と感じた本を紹介しているにすぎない。
その裏には「処分するエネルギーが無駄」「資源ゴミの方が価値がある」「紙にインクをランダムに垂らした物体」と呼びたくなる本もある。
もちろん本書を買った人が同様に酷評するかもしれないが、お金を出した以上は意見する権利があるので、作者は文句など言えない(マスクド個人の意見なので松本氏のPART2はこの限りではない)。
それでも立ち読みだけで「つまらない」と言われればムカつくが。

こうした意気込みは帯や本書の冒頭部分を読んでもらえればわかるだろう。
なお、本書(松本氏が担当したPART2以外)にはやたらプロレスネタが混じっており、猪木問答、橋本真也、EVIL、トリプルH、飛龍革命などが詰まっている。
メジャーになりきれない反骨精神の現れかもしれない。
差別化という意味では、データサイエンスの本で「サザエさん」「島耕作」が出てくるのも本書ぐらいだろう。

技術書なら真面目に解説するべきであり、余計な装飾はいらない。
だがビジネス書なら工夫や差別化が求められるのではないか?
これだけAI・データサイエンスビジネス本が出版されているならなおさらである。
多くの人にAI・データサイエンスに関心を持ってもらうべく、間口を広げる努力を怠ってはならない。
私のTwitterもnoteの他の記事もITmediaも、根底にはそれがある。
この矜持でITmediaで記事を書いているのだから、どんぐり4個の原稿料を見直していただければ、望外の喜びである。
もっとも知名度ある媒体を使って芸能人やYoutuberが解説すればいいわけでもないので、難しいところである。
マンガで説明するのも有用だが、上手くいくかは未知数である(そういえば松本氏も「AIの遺電子」で知られる山田胡瓜氏と似たような本を出版したような)。

この業界で働く中で実感するのは、「IT技術は最高だが、IT業界は最悪」という現実である。
そうした業界の底辺で不満を持ってる人が、ITmediaの記事に対してはてなブックマークのコメントで好き勝手に人の記事を批判するのだろう(記事を褒めてくれるのはからあげさんぐらいだ)。
やはり、はてぶで貶される精神的苦痛を鑑みると、原稿料は……さすがにしつこいな。
それこそ会社をクビになっても同じ業界で働くのは、それだけ魅力があるからかもしれない。
もっと面白く、もっと楽しく、もっとエキサイティングに仕事をするには、どうすればいいのか?
IT業界に限らず、働く人全ての道標になる一冊を目指したのが本書なのかもしれない。

ここまで読んでくれたら、何も言わずに買ってほしい。
本が売れなければ「フリーランス(半無職)」が、「フリーランス(ガチ無職)」になり、路頭に迷うからである。
将来Twitterで「あの人は今」的な扱いをされないためにも、協力してほしいだけだ。

最後に本記事は「独立すると恥も外聞もなく、こんな事ができるんだな」と実感しながら、東京都メキシコ区のマクドナルドで執筆されたものである。

内容において筆者の妄想が多分に含まれているが、一部はノンフィクションであることを付記しておく。


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