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AI・人工知能EXPOに行ってきた

こんな主観まみれな感想がやたら伸びてしまったので、ちょっと真面目にAI・人工知能EXPOの感想を書いてみる。

■全体の印象

来場者はスーツ姿が多く、年齢は30-50代といったところ。6-70代と思しき人もいるが、ボケ防止AIを探しているのか、老後の資金をAIに投資するのか、ただの展示会マニアなのかはわからない。
来場者は業種のカードを下げており、「製造」「通信・IT」が6割程度、残りは金融・社会インフラ・医療・専門家・その他だった。見た目で学生とわかる人はほとんどおらず、他のレポートにある通り商談がメインと考えていい。

ブースの展示内容が似通っているのは、大きいブースが「AIでこんな事できます」「こういう事例・実績があります」「こんな悩みはありませんか?」「こんな製品・ツール・サービスがあります」と幕の内弁当的に紹介しているためだ。内容はカメラによる画像・顔認識とか、問い合わせにAIが回答しますとか、簡単にデータ分析できるツールとか、紙書類をAIで自動取り込みとか、AI開発の要件定義・PoC・実装・導入及び運用支援まで全部やりますとか、そういう話。中小ブースは特定分野に特化している内容だが、目立つブースがこんな調子なので印象に残ってしまう。

基調講演(有料)は参加していないのでわからないが、いかにも人が呼べそうなメンツを揃えました感がある。松尾教授の多忙ぶりが心配になるし、ABEJAの岡田社長は本来こういうイベントに登壇する人であって、先月のABEJA SIXで自分と対談したのが未だに信じられない。
公開セミナー(無料)はAIを提案・提供する側の登壇者が多かったが、AIを導入・活用する側であるユーザー側の人が多いと来場者の関心を引ける思った。

ユーザー側の展示といえば、武蔵精密工業の大きなブースがあったが、スペースの大半はスクリーンとロボットのデモスペースに割かれており、具体的な内容の展示は大学との共同研究とハードウェアの展示ぐらいだった。
自社の取り組みについてもっとアピールしてもいいと思うが、なにか事情があるのだろうか。製造業にありがちな秘密主義かもしれないが、ドヤる分には構わないと思う。

「誰でもAI・機械学習・データ分析ができます」的なツールは増えており、定番のDataRobot以外にもGRID社のReNom、ギリア、クロスコンパス、キーエンスなどで展示されていた。この手のツールも普及が進んで、競争が激しくなっている感がある。気になる価格だが、やっぱり千葉や埼玉のマンションとか、高級外車ぐらいするのだろうか?怖くて聞けなかったが。なお、「AWSとかGCPとかAzureでも似たようなこと出来るのでは?」とツッコんではいけない、世の中には宗教上の理由でクラウドが使えない人もいるのだ。

それにしても「AI・人工知能」なのに、入場するために名刺2枚と紙のアンケートに回答して、クビからカードぶら下げるのはギャグなのだろうか。
ブースでも毎回紙のアンケート用紙に記入したり、名刺をそのまま渡したり(担当者がなにかメモしてた)、スマホのカメラで名刺を撮影したりで、未来感が皆無なのだ。一応バーコードリーダーで読み取る方法もあるが、読み取り機が有料レンタルなので、金持ってるブースでしか使われてない。
同社の展示会における共通ルールなので仕方ないし、来場者の年齢層に配慮した結果だが、なんか情けない。

■SIerにおけるAI

大手独立系SIerも大きなブースを構えており、「AIに強いです感」をアピールしていた。よく見ると他社の製品やツールの展示ばかりで、自社開発と思われるのは小型の人型ロボットな気もするのだが、SIerの人から「顧客の要望にすべて答えるのが我々の仕事であって、どこの製品かどうかは関係ないのだ」と怒られそうな気がした。
ある意味それは正しいし、それが求められているのも事実だが、存在意義について考えさせれる。ココらへんは面倒なのでスルーしつつ、NTTブースはコンパニオンのお姉さんが寒そうで大変だなと思った。

■AIを使う意義

OCRで手書きの帳票や伝票を簡単に処理します的な展示があるが、そもそも紙書類やFAXを無くす選択肢はないのだろうか。子供が公園で砂遊びしてたら、ショベルカーとダンプを持ち込んでくるオーバーキルな光景にも見える。一般企業の事情やニーズを汲み取った結果であり、紙書類もFAXも使い続けたいし、なによりビジネスとしてお金になるという点ではド正論火の玉ストレートなので、外野の我々がモノを言える立場ではないが。
AI開発ツールも「Excelを操作するようAIを作れます」ではなく、「ExcelでAIが作れます」ぐらいにしないと普及しないんだろう。

■来場者が抱く悩み

実際各社のブースを見た来場者は「どこの会社も同じことが出来るなら、どの会社に依頼すれば良いのか?」と悩むだろう。手段はともかく提案だけならどこでも出来るわけで、明確な実績を出せる会社が強いと思う。実績や事例がある会社でも、開発は下請けでプロジェクトマネジメントに特化しているのかもしれない。
発注先を間違えると経験を積むためのモルモット扱いされる可能性もあるわけで、そうやってAIの幻滅期が加速するかもしれない。

■オフショアと人材育成

ベトナムのオフショア開発と、社員への人材育成・トレーニングが中小規模のブースで結構目につく。インドでも中国でもなく、親日国としてベトナムを強調しているのだろう。技能実習制度やインフレを考えると、いつまでこれが通じるかわからないが。
エンジニアの採用が困難なので内部人材の育成にシフトするのも当然だが、これはこれでまともなカリキュラムを提供できるのか、ただの教科書丸パクリかがわからないので、開発依頼と同じくギャンブルになりがちである。プログラミングスクールみたいに玉石混交だろうし、正直不安しかない。人材不足が問題視されているが、人材派遣会社や人売りSIerから、この手のトレーニングを受講した大量のAI人材が供給されるのだろうか?
手っ取り早く金になりそうで参入企業も今後増えそうですが、どうなんですかねぇ……。

■中国っぽさがない中国企業のブース

オフショア開発におけるベトナムブースは民族衣装でアピールしていたが、センスタイムやファーウェイなどの中国企業は至って普通の展示だった。
あえて中国企業をアピールしても、来場者にとってAIのイメージはないだろうから、逆効果と判断したのか。
あと、ファーウェイはアンケートに答えるとサーモボトルがもらえるらしく、地味に宣伝予算をもってそう。

■ダメなブースの悪い見本

展示会でのあるあるだが、ダメなブースはある。よくあるのがスペースに対して係員が多すぎるというパターン。陣内智則のコントじゃあるまいし、準備段階で気付いてほしい。あとは係員同士で喋ってたり、スマホいじってたり、背中向けて来場者を無視してたり、明らかにやる気なかったり、ラブドールより仕事してないヤツは来週にもAIに置き換わるのではなかろうか。

■コミュニティ活動

コンペを開催するSIGNATEなど、AI関係者のコミュニティもあった。
コンペといえばKaggleだが、多分来場者は知らないだろうし、説明してもアメリカの話だから関係ないかもしれない。
あと、某ブースでユーザー登録無料だからといって、その場で登録を勧めてくるのは引いてしまう。
AI関連のコミュニティと言えば他にもあるけど、いい話を聞かないのはなぜなのか?人材や案件紹介の手数料で小銭稼ぎしたいのが、透けて見えるからだろうか。

■AI漫才

あるブースでは芸人による「AI漫才」が行われていた。最初は社員がやっているかと思い、パワハラ案件かと誤解してすいません。だが、展示会場の広くて天井が高く周りがうるさい環境では、ヘッドセットをつけていても漫才をするには場所が悪いし、何よりAI・人工知能EXPOの客層に合わない。落語家が変な場所で噺をさせられて困惑するのと似ている。
とはいえ、こうした変わった取り組みを実行する姿勢は立派だと思うし、仮に同じ内容を提案しても速攻で却下されるであろう弊社とは比べたらよっぽどスゴイ(以前自社セミナーで似たことをやろうとしたら止められた)。普通の貸し会議室で行われるセミナーで、空気をほぐす前振りとしてやるなら良いと思う。

■出店費用とコストパフォマンス

展示会の出展費用は最小スペース(カタログスタンドと長机にデモ用PCがおけるくらい)でも、諸々含めて1-200万円くらいかかる。そこそこ大きくて見栄えのよいブースだと1000万円程度、パニオンのチャンネェが並び、カイデーなスクリーンでバーンとやって、デモ機がズラーっとなれば数千万円ぐらいかかる。
その成果が一部上場企業の情報収集おじさんの名刺の束なのだが、費用対効果としてはどうなのか?そこらへん広報の立場ではないので、わからないが。

■展示会の存在意義

ではそんな情報収集おじさんが多数集まる展示会の存在意義はなんなのか?
恐らくこれを読んでいる人の多くは、自分でネットや書籍からAIに関する情報を集めて理解できる人だろう。だが展示会という物理的な環境で、信頼できる有名企業が出展し、係員が懇切丁寧に説明やデモを行ってくれないと理解できない人もいる。
それでも自発的に展示会場に来るだけマシなわけで、世間には自分の会社に呼びつけて「AIと機械学習の違いはなにか」などを延々説明させて「勉強になりました」とタダ働きさせる会社も多い。無駄にポジティブに捉えれば、こうした展示会があるおかげで、我々にとって無駄な仕事が減ってくれる可能性もあるわけだ。

■来年の話

来年も開催は決定しており、既にスペースはかなり成約済みになっていた。そして「ブロックチェーンEXPO」も同時開催されるので、その頃にはAI・人工知能だけでなく、ブロックチェーンも導入事例や実績も増えているのだろうか。

主催者様へ:来年の基調講演オファーをお待ちしています。


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