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ベリッシマ乗船記 7/28/2023 2日目

2日目、終日航海日。
早くも部屋は上写真のように乱雑に汚染されていた。写ってないが、天井スレスレに洗濯ロープが部屋を横断し、アースカラーのババアのパンツがはためいている。

今回旅行に行く前、私は自分に誓ったことが2つあった。
一、子供に対して感情任せに怒らない。
一、夫に対してイライラしない。
普段から導火線が短く、子供達にすぐ怒鳴り取らしたり、日々遅くまで働いて生活を支えてくれている夫に、デカいくしゃみをされただけでイライラしてしまう心の狭い自分。それをこの旅では封印すると固く誓った。
そしてその誓いは早くも2日目にして破られた。
自分以外の家族が誰も起きない。
私ひとり6時に起きた途端、朝日に煌めく大海原が丸窓から目に飛び込んでくる。そんな非日常の極みに興奮して、家族とこのエモい体験を分かち合おうと一同を起こそうとするのだが、どんなに大声を張り上げても奴らうんともすんとも言わない。心を無にして諦め、乾いた洗濯物を畳んだり、残りの洗濯物をさながら妖怪小豆とぎのごとく背を丸めシャワー室で洗ったりするしみったれた作業をこなしているうちに、8時過ぎ。堪忍袋の尾が切れて大声をあげ家族を叩き起こした時点で誓いはすでに破られている。
怒りの特急列車はもうエンドレスである。
いい加減起きろと怒り散らし、やっと全員起きたかと思いきや、今度は11歳長女の準備が長い!お手伝いやテストの好成績で得られるお小遣いの収入のほとんどをプチプラコスメに全振りするほど化粧が好きな長女は、小学校に行く時はメイクをしないという約束を守っている反動か、ここぞという時のメイクがやばいのだ。そのここぞという時が今回のベリッシマ。今回更に異様な女子力を発揮して、ぎゅうぎゅうづめでチェジュ島に運ばれると私にデマを聞かされていながらも、おしゃれする気概を諦めず、彼女の荷物は大量の女子力グッズで大変なことになっていた。
日焼け絶対NGをモットーに生きている彼女は起きてから洗顔のあとパックをし、自分はブルベの春だからこの色は似合わない、ママは骨格ウェーブのナントカだから今着ているそのワンピースは太ってみえるよ等、張り手ではっ倒したくなるようなたわごとばかりのたまいながら化粧水、保湿クリーム、日焼け止めを塗りたくり、マスカラにアイライナーを仕込み出す。そしてそんな長女を尻目に、お寝坊さんの夫が寝起きのシャワーと洒落込みだし、役立たず折りたたみ洗濯機に当然のようにパンツを放り込み洗濯物を無駄に増やすという最悪の流れ。この時点で9時を過ぎている。
これで怒りが込み上げないわけがなく、かくして私は2日目だけでも誓いを3回は破っていた。怒りを抑えようと何度窓から景色を見て心を落ち着かせようとしたか。
ちなみに、バルコニー無しオーシャンビュールームのこの丸い窓。これが本当にエモい仕様であったことを是非伝えたい。
この窓は出窓のようになっていて、窓に沿って女子供ならひとり、三角座りで収まれるヌックのような空間になっている。背もたれ部分にヌックの壁際が当たって多少痛むが心配無用、そこに枕を当てがうと最高の空間が爆誕する。
どこまでも続く海を眺めながらヌックに座り、カーテンを引いてしまうと出来上がる完全個室!非日常を味わえるクルーズ船とはいえ、狭い部屋に家族4人がひしめき合うのは、意外なストレスを感じることもあったが、そんな時にこの特別個室にこもって景色を眺めるのは最高な瞬間の一つだった。


怒りを鎮めるサンクチュアリ。5階だから海面も近く感じる

ともあれ、やっと遅めの朝食に向かうことができた。
ビュッフェレストランの席で、オレンジやキウイフルーツを貪り食べる次女を横にMSCアプリを眺めながら家族と今日一日の相談。
前日参加できなかった避難訓練をこなしてからの予定である。
終日航海日なので混雑が予想されるプールはお昼過ぎに行くとして、長女希望のボーリング、昼食後プールに行ってから夫はジムでひとっ走り、夕食はビュッフェではなく今夜はレストランの方に行くことになった。
私としては二人まとめてキッズクラブに放り込んで、おひとりさま時間を満喫したかったのだが、レゴに全く興味がない姉妹の心はキッズクラブに全く興味を示さず、自分達を厄介払いしたいだけなのではと疑いまで持たれて、船内新聞に記載された数々のイベントを読み上げても聞き流されるだけだった。

ボーリングは終日航海日だから混んでいるかと思いきや、すぐに遊べた。ドル表記の罠で多分2ゲーム4000円くらいしたのだが、お支払いはクルーズカードをピッとすれば完了で、後は登録されたクレジットカードに請求されるため支払いのハードルが恐ろしく低い。ビーチサンダルで来ていた娘のために靴のレンタルも必要だったが、普段ケチな夫もドル表記の罠にまんまとかかり気前良く追加で支払っていた。
ボーリング自体はクルーズ船が揺れているため、めちゃくちゃ難易度が上がっていた。キメ顔で投じた渾身の一球が普通に真っ直ぐに向かっていくのに、最後の最後でありえない曲がり方をして端っこにゴールインするのが、なにこの魔球と逆に楽しく、大人も子供も終始笑いっぱなし。8投連続でガーターの末っ子を見かねて、クルーズスタッフがガーター防止レーンを立ててくれた。
余談だが、このボーリングコーナーには4Dシネマ、VR迷路、レーシングマシーンが設置されて子供心をガッチリ掴んでくる。昔観たディズニーアニメのピノキオに出てくる悪者の作った遊園地みたいである。
各々結構いい値段するのだが、ファンパスというチケットシステムがあり、値段は失念したが初回多めに支払うと数十ドル分多めに遊ぶことができる。
我々は財布の紐を締めてボーリングだけで済まそうと思ったが、5日めの終日航海日にねだられて、レーシングマシーン以外の全てを網羅してしまった。特にVR迷路は都会のゲーセンに行った事がない田舎っぺ姉妹が見事にハマり、2回づつ遊んでしまうという豪遊っぷり。。ファンパス買っとけばよかったと後悔したので、一回遊ぶ前によくよく考える事をお勧めします。

そしてプール。
風呂場程度の大きさと聞かされていた次女だったが、ベリッシマに乗る時点でウォータースライダーを発見して、ベリッシマの凄さに気づいてはいたものの、やはり実際にアクアパークに行くと迫力が違ったようで大歓声ではしゃぎ回り、親としては感無量の瞬間だった。
長女は日焼け止めにラッシュガード、さらにサンバイザー付き上着で、そんなに日焼け嫌ならもう帰れやという母のツッコミをよそに楽しんでいた。特に楽しかったのはやはりスライダー。着水の瞬間、どちらがよりキメ顔で着水できるかという謎の遊びで1時間以上は遊んだと思う。
これまた余談だが、アクアパークではスライダーを楽しむためには年齢確認のバンドを発行してもらわなければならない。7才以上、身長120センチがボーダーラインだ。初回時、バンド発行の列に夫に並んでもらったのだが、私は、早生まれ6歳児はおそらくスライダーは許可されないだろうと思い次女に滑り台は来年楽しもう、今日は滑り台できなくてもプールでいっぱい遊うねと話をしていた。しかし予想に反してクルーには特に何も言われずに、身長確認のみでスライダー許可のバンドを長女に続き次女もゲットでき、拍子抜けした。
なんだやっぱり早生まれだから7才扱いなのね、と得心するも、5日目の終日航海日にプールに行って再度バンドを発行してもらうため今度は私が列に並んだら、初回とは別のクルーで、年齢もしっかり尋ねられてしまった。
「シックスイヤーズ、、、」と小声で答えると「ああん?」と返され、これはまずい、しかし嘘はつけないと「オーモストセブンイヤーズ、、、」ほとんど7才ですぅと言い直したところ、無言でモニターで調べられ、サラリとスライダーは無しで、この辺だけで遊んでね、と言い渡されてしまったのだった。まあ初回は見逃してもらえたからいいか、と引き下がった。普段訳の分からない所で強がりを発揮する次女が、「べつにいいよ、あたし、すべりだい、アレ?こんなもんかって思ったもん。思ったより楽しくなかったもん」というような事を言ってスライダーを貶めていたのが少し哀れだった。

夕食は予定していた通りレストランへ。いくつかあるレストランのうち、クルーズカードに指定されている時間帯に、指定レストランへ行く。その日のドレスコードは忘れてしまったが、我が家は全く頓着せずに適当なカジュアルフォーマルで向かったが、もう少しお洒落を楽しんでも良かったなと今思い返して後悔している。
レストランに向かう人々はビュッフェとは打って変わった華やかな雰囲気で、着物姿の方や目にも鮮やかなロングドレスの婦人はとても格好良く、何より楽しそうだった。
我が家といえば可もなく不可もなく、無難にまとまってこじんまりとテーブルにつき、Twitterで得た「レストラン初回利用時にチップを渡すべし」という知識を頼りに10ドル札が入ったポチ袋を握りしめて、渡すタイミングを先ほどから伺い続けている。
最初は私がチップを渡そうと思っていたのだが、渡す時の説明が思い浮かばず夫にチップを渡す大役を押し付けた。
ここで問題が。
外国人あるあるなのかもしれないが、レストランの店員ほとんどが同じ顔に見えてしまい、誰が自分のテーブル担当だったか分からなくなる罠である。加えて、見ず知らずの他人に金銭を押し付けるという滅多にお目にかからない異文化に小市民の夫婦はすっかり怖気付いていた。
「誰に渡したらいいか分からん、、、」「あのメガネの人やって」「メガネ2人おる、、、」とヒソヒソとやり合ったのち、おそらくこの人やろうという人物に当たりをつけて必死に目配せをする。
やってきたクルーは注文を聞き入れる態勢に入ってくれたのでやはり正解だったようだが胸を撫で下ろしている暇はない。夫よ、今こそ渡すのだ、チップを!と今度は夫に目配せするも、タイミングを図りかねてアワアワしている。まるで大縄跳びに入るタイミングが永遠に分からない小学生だ。
何度かの逡巡の後、ついに夫が意を決してチップを渡した!
クルーは胸に手を当てて、私に?と嬉しそうにジェスチャーをした後、とてもいい笑顔で受け取ってくれたのだった。チップのことに終始してしまったが、料理はとても美味しかった。

それはそうと今回の旅で痛感したのだが、私のイライラの最たる原因は「家族のやりたい事が一致しない」であった。そして学習した事が、「自分だけ楽しめればそれでいい」だった。
何日めの出来事だったか忘れたが、夕方前、最高の天気に誘われて屋上に涼みに行こうと家族を誘った。しかし夫はジムに行くと言い、長女は部屋で少し寝たい、次女はパパがジムから戻ってからプールに連れて行ってもらうから部屋で待つ、と家族てんでバラバラの行動をとりたがるため、私一人で屋上に行った時のこと。見上げると晴天の大空に虹が二重でかかっていて、大海原に映える虹と波のシンフォニーは夢幻のような景色で、これは家族で分かち合いたい景色だと急いで部屋に向かうも、16階から5階へ戻るのはエレベーターの待ち時間もあり思いの外時間がかかった。そして子供を伴って再び屋上に戻ったときにはすでに虹は消えていた。
がっかりした思いと共に悟った。
虹のかかる景色を見た時、家族を呼びに行かずにプールサイドのバーに行き有料でいいから洒落たカクテルを頼んでひとり、屋上の手すりにもたれながら空を見上げていたらどんなに最高だったろう。
そりゃあ家族と一緒に感動を分かち合うのは素晴らしいことだけど、正直このクルーズ船、息を吐くように映えしかない瞬間を提供してくる。そんな船に乗っているのだから、いくらでも分かち合いのチャンスはあり、そのうちの一瞬を自分のためだけに独り占めしても誰も文句は言わないのだ。
部屋に戻れば洗濯物は干されているが、タオルは全てふかふかの新しいものに取り替えられているし、ベッドもきちんと整えられている。この旅行の間だけは、日々の喧騒を記憶の隅に押しやって、起きてこない家族は無理に怒鳴って起こさず放っておき、ひとりビュッフェに行ってもいいし、朝ストレッチに参加してもいいし、景色を見にラウンジに行ってもいい。それが、多分私にとっての正しい楽しみ方だ。
そう吹っ切れてからは朝起こすイライラにも悩まされなくなったが、この悟りを得るまでに3日ほどかかったのが悔やまれる。
そんなこんなで2日めの旅行記を終わります。



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