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僕とイタリア大使のラブストーリー

こんにちは、日伊通訳マッシ(@massi3112

今日は久しぶりに通訳現場の話をしようと思う。

大型イベントで監督と舞台設計士の日伊通訳を担当させていただいた。依頼があったのは「イベント通訳」のはずだった。だが、3週間で毎日、変更があったり連絡が遅かったりしていたため、通訳以上の仕事をしてしまった。通訳が通訳以上の仕事をしてしまうのはよくある話だから、報酬と実際の働きを考えていては割に合わない。だが、確実に僕を成長させてくれるはずだ。そう自分に言い聞かせながら、無我夢中で働いた。

あるレセプションで当日に知らせがあったのは、今日はイタリア大使も参加するからスピーチの通訳もお願いします、とのことだった。軽く言うが、通訳中にそういうお知らせをもらうとプレッシャーの中のプレッシャーは爆発寸前になる。もちろん、スピーチの内容はまだわからない。
僕の爆発寸前、煮えたぎった心の内を知る由もない人々を、少し恨めしく思った。

2週間の疲れもあり、あと1週間頑張れば終わると思っていたところで、「イタリア大使のスピーチ通訳」の雷鳴が轟き、僕を殺そうとした。雷に打たれないようにするには、建物の中に避難するが鉄則だが、僕の置かれた環境はまるで砂漠、周囲に隠れる建物など無いに等しい。黙って落雷されるしか無いのだ。

舞台での監督の通訳は無事終わり、レセプション会場に着いた。
なんと、イタリア大使がまだ到着されてないらしい。僕は雷に打たれる前に、豪雨にさらされた。なんと心臓に悪いお知らせばかりなのだろう。雨に打たれ雷鳴轟く中、レセプションの通訳は始まってしまった。マイクを持ち150人の前で通訳しながら、イタリア大使のことしか頭になかった。心境的には災害レベルの中、早く愛するあの人に助けに来て欲しい、僕は遠距離恋愛のような気持ちになってた。

イタリア大使が到着した時は、「好きな人に会えるんだ!」と言わんばかりの最高の表情を彼に向けていたと思う。
彼は僕を見て「おぉ、マッシ!」と言った。何より嬉しかった!感動の再会に浸る間もなく、スピーチまで数分間のタイムリミットだったが、あんなに豪雨雷鳴の悪環境だった僕の心は、少しずつ落ち着いていた。
打ち合わせをする時間はなかったが、「マッシには何回も通訳してもらったから、大体いつもの流れで行こう。決まり文句も多いけど、頭と最後だけ違う。」と優しく教えてくれた。5分のスピーチだったのに、長く感じた。だが、通訳を進めていくにつれ、僕の心は平穏を取り戻していった。

最後にまたまた。皆さんの前で僕の事を褒められた。もちろん例のごとく、自分への褒め言葉も通訳しないといけなかった。なかなか慣れない内容だが、今日ぐらい良いのではないか。このサバイバルを耐え抜き、愛する待ち人と会えたのだから。いつしか、僕の心は晴天、花が咲いていた。

通訳現場だけではなく、現場で働くにはこのようなサバイバルをしている人が多いだろう。どんな無人島でも、希望を捨てずに戦い抜こう。
そんな僕も、明日は大阪でサバイバル案件がある。

Massi

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