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知らない言葉=プロの価値

こんにちは、日伊通訳マッシ(@massi3112

Foodex Japanに出展しにきた、イタリアのハムやサラミの生産者に日伊通訳を担当させていただいた時の話。
展示会中に色々なことやエピソードがあったが、話したい内容はビジネスディナーのことである。

その日は和食の名店でのディナーだった。イタリア側の社長とその奥様、日本側の社長とその部下3人の計6人の通訳だ。
奥様は和食に非常に興味があって、出てくる料理に関するありとあらゆる質問をされた。もちろんメインはビジネスの通訳であるから、企業同士の通訳もしないといけない。複雑な言葉の行き交いの中で、なんとか通訳していた。

ハム、サラミをカットし、抗菌からパッケージまでのプロセスの話になった。もちろん事前準備はしていったが、菌や機械の話が出て、イタリア語でもギリギリ理解が追いつくレベルの高度な話の内容になった。さらに奥様の、和食の質問である。とても大変な状況の中、必死に言葉に食らいついていた。
とうとう、イタリア語でも微妙なニュアンスの言葉が出た。類語が何個か思いつきはするが、どれもしっくりこない。
僕は社長に、1分間くださいと言って、電子辞書で調べた。快く待ってくれた社長らのおかげで、無事に意味合いに合致する言葉が見つかり、その場をなんとか乗り越えたのである。

帰りのタクシーの中で、わからないことに対する僕の行動を褒められた。わからないことを恥じたり隠したりするのではなく、認めて調べる。その姿勢に感動したと言う。彼は今まで、通訳者に「もうここからは通訳できません、わかりません」と言われたり、勝手に言葉をカットされて会話が噛み合わなくなったりした経験があるらしい。その苦い経験があるからこそ、褒めてくれたのだ。

僕にとっては当たり前のことであったから、びっくりしたが嬉しかった。
プロの通訳者としては、わからないことをわからないままにしておく方が余計に恥ずかしい。とことん調べ、追求することが重要なのだ。どの世界にも完璧な通訳者はいない。欠点が無いように準備していくけど、現場では何が起こるかわからない。突然の言葉の壁にぶつかった時には、すぐに壁を壊し前に進めるように、常にそのための道具は待っていなくちゃいけないのだ。

大きな壁を無事に突破した僕は、いつものように、味もわからない冷めた高級料理を口に入れて飲み込んだ。通訳中の食事問題の壁も、いつかは越えられる日が来るのであろうか。

Massi

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