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都会に疲れた心を癒やすベートーヴェン交響曲第6番「田園」

東京田町のタワーマンションに住んでいた頃、バルコニーに出て絶景の東京湾を見おろしながら、何か満たされない感情を持っていました。

その頃は、本が次々とヒットして、人を雇って事業を拡大して、休む間もなく全国を駆け巡っていました。仕事も充実していて、物質的にも恵まれていました。

でも、何かが足りないのです。

何が足りないのだろう?

そんなとき、ベートーヴェンの交響曲第6番「田園」を聴いて、何を自分は求めているのか知りました。

それは、土と緑でした。

まさに、田園を求めていたのです。

そして、強引に休みをとって、家族で実家の北海道むかわ町に向かいました。
7月くらいだったかな。

新千歳空港からJRで、二両編成のディーゼル車に乗って、懐かしいエンジン音と振動を体に感じながら、車窓の外に観た緑の大地はどこまでも輝いていました。むかわ町の実家につくと、出迎えてくれた両親は、庭でジンギスカンの用意をしていました。

芝生の上に大の字で寝ると、わけもなく涙が流れてきました。

そのとき、ずっとリフレインしてたのが、田園交響曲の第2楽章でした。

この6番目の交響曲は、ベートーヴェン38歳のときに作曲した自然讃歌の曲です。

交響曲第6番「田園」は5楽章で構成されています。

「田園(Pastorale)」という標題をつけただけでなく、各楽章にも描写的な標題が付けられています。

第1楽章「田舎に到着したときの晴れやかな気分」
第2楽章「小川のほとりの情景」
第3楽章「田舎の人々の楽しい集い」
第4楽章「雷雨、嵐」
第5楽章「牧歌 嵐のあとの喜ばしい感謝に満ちた気分」

田園風景を音楽で描写したように思われるかもしれませんが、ベートーヴェンはこの曲についてこんなコメントを残しています。

「この交響曲は絵画的な描写を表現したものではない。人々の心の中に起こる田園での喜びの感情を描いたものだ。」

と語っています。

だから、この曲を聴くと、いつの日か、自然のなかで体験した喜びや癒やされた感覚が蘇ってくるのです。

作家のロマンロランがこんなことを言ってます。

「第2楽章の終わりに出てくる小鳥のさえずりを聴くとき、私は涙を禁じ得ない。なぜなら、そのとき、ベートーヴェンはもはや音が聴こえなかったからだ」

この頃のベートーヴェンは、もう聴力を失っていたんですね。

ベートーヴェンが実際にインスピレーションを得たといわれているウィーンの公園に行ったときに、ロマン・ロランの言葉を思い出して、胸が一杯になりました。

聴力を失っても不屈の精神で、作曲し続けたベートーヴェンを尊敬します。

田園の名盤は、これさえあれば、ほかもういらないというほど、長年不動の1位です。

ブルーノー・ワルター指揮コロンビア交響楽団、1958年の録音です。
ワルターは、ベートーヴェンが田園で体験した感動をそのまま、伝えてきます。何よりも、ベートーヴェンが自然を司った神に対する感謝をこの曲込めていることをよく表現していると思います。

もう一枚、ワルター盤に慣れてから聴くと、びっくりするクライバー&バイエルン国立管による「田園」です。
録音の少ないクライバーの貴重な録音で、1983年11月7日のコンサートがライブ録音されました。
とても速いテンポです。
でも、感情がしっかりとのっています。
意外とベートーヴェンはせかせかしていたようなので、等身大のベートーヴェン像をあらわしているかもしれません。

新しい録音で2012年ですがパーヴォ・ヤルヴィ指揮ドイツ・カ ンマーフィルハーモニー・ブレーメンの演奏を載せておきます。
すっきりさっぱりする田園です。


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