座り心地が最悪な椅子があるカフェに20年以上通っている謎
カフェ経営で最も大切なのは椅子の座り心地である
持論なんですが、カフェを経営していく上で大切なことは、珈琲の美味しさはもちろんですが、それ以上に居心地の良さだと思うんです。
居心地の良さを演出するさまざまな要素はあるでしょうが、テーブルと椅子は、身体に密着するという点で、重要だと僕は考えています。
テーブルは、高さと安定感が大切ですね。
僕はカフェでパソコンで文章を作成するので、テーブルの高さは低すぎても高すぎてもダメで、やはり心地の良い高さがあると思うのです。
ファーストフード店にありがちな、テーブルがガタガタして不安定なのは論外ですね。
ただテーブルへのこだわりは、一般的には椅子の座り心地が良いかどうかのあとにくるものかなと思います。だから、カフェでもっとも重要なのは、椅子の座り心地ということになります。
僕の家の近所に、半年ほど前、自家焙煎のこだわりの珈琲を入れてくれるオシャレなカフェがオープンしたので、さっそく行ってみると、椅子が悪かったんです。
座っているとお尻が痛くなるんですよね。
こだわりの珈琲だからちょっと高い値段だけど、そこはぜんぜん気になりません。だって美味しいから。
でも、お尻が痛いのが許せなかったんです。
結局、僕は一度しかそのカフェには行きませんでした。
その前をよく通ったので何気に観察していたんだけれども、そのカフェは、人が入らなくなって苦戦していたようでした。マフィンと珈琲のおトクなセットなど、いろいろキャンペーンをしていましたが、最近とうとうつぶれてしまいました。
僕は、そのカフェの前を通るたびに、
「椅子だよ」
とテレパシーを送り続けましたが、届かなかったみたいです。
椅子が最悪なのに20年以上通っているカフェ
これだけ椅子にはこだわっている僕が今回紹介したいカフェがあります。かれこれ20年以上通っているカフェです。
20年って凄いですよね。
札幌に住んでいない時でも、札幌に行く度には必ず行きました。
僕にとっては東京からでもハワイからでも、わざわざ行きたいカフェなんです。
しかし、そのカフェは椅子が最悪。
その椅子に座ると骨が痛むんです。
お尻の痛さを通り越して、骨まで痛むのですから凄い椅子です。
最悪なのは椅子だけでなく、トイレは今だに、ぼっとん式だし、基本的に店内は人と会話しちゃいけないし、18時に閉店するという強気の経営、そして立地も悪い。
まあ立地が悪いとはいっても、一応は、札幌の有名なアーケード商店街である狸小路にあります。
そのいちばん外れの7丁目です。
ちなみにこちらが観光客で賑わう狸小路4丁目のアーケードは、電光掲示板がついていて立派です。
一方こちらが狸小路7丁目のアーケードです。
手抜きが凄い。もう、人もあまり歩いていません。
そしてここが20年通い続けているカフェです。
COFFEE&MUSICウイーン
創業は1959年、昭和34年、なんとオープンしてからもう半世紀以上経っているんです。
全国の根強いファンから愛され続けています。
このカフェは、名曲喫茶です。
名曲喫茶というのは、今では残っているところが少なくなりましたが、クラシック音楽を専門に聴く喫茶店のことをいいます。
1950年代は、オーディオやレコードが高価だった時代で、自宅で良い音で音楽を楽しむことができなかったので、名曲喫茶がたくさん生まれたのです。
このウイーンも、当時は開店前から行列ができ、終日満員だったようです。
僕が通い続ける最大の理由は、このカフェには御本尊が安置されているのです。
それでは入ってみましょう。なんと地下におります。
このように地下におります。アジトという感じです。
中に入ると・・・
問題の椅子が前方に向かって設置されています。
奥に見えるのが御本尊です。
喫茶ウィーンのご本尊
Mclntosh XR290
450万するスピーカーです。
アンプもスピーカー同様、マッキントッシュの真空管アンプです。
地下ということもあってか、スピーカーから流れる音は美しすぎて、ダイレクトに心に響きます。
今回は、店内に入るとモーツァルトの交響曲40番が流れていました。
「指揮者は誰なんだろう?」
音楽が胸に響いてきて、もう泣きそうです。
スピーカーに向かって右側の席、問題の椅子(ソファ?)に座ります。
ああ、座り心地が悪い。悪すぎる。
もう、半世紀以上も、多くの人たちに座られてきた椅子です。
クッションもスプリングも蒸発してしまったかのようで、ただ木の枠に禿げた布切れをかぶせた椅子となっています。
背もたれにより掛かると木が背中に当たり、「そうだ、これだ」と心の中でつぶやく。
苦行からの解脱
そして、修行がはじまるのです。
ああ、音がいい。最高に音がいい。
ああ、座り心地が悪い、尾てい骨痛い。
音がいい、感動する。涙出そう。
背中痛い。
苦痛と快楽を交互に与えられることで、この苦痛に耐えているからこそ感動が深いのだと思えてくるから不思議です。
もはや修行僧のような気分です。
すると、そこに酸味と苦味のバランスのとれた珈琲が運ばれてきます。
口に含んだ珈琲は、ガツンとした苦味のあとの酸味、そして鼻の奥で香ばしさが広がります。
その状態で、交響曲40番のメロディーが全身を包み、モーツァルトの悲しみが心に流れ込んできます。
おお!モーツァルト!
至福です。解脱です。悟ります。
コーヒーの利尿作用により、トイレに行きます。
ここは古い建物のせいか、今時めずらしい、ぼっとん式トイレです。
その吸い込まれそうな暗い穴を見て、子供の頃実家にあったトイレを思い出します。
そして、毎回こう思うのです。
カフェウイーンは、これでいい。
やっぱり椅子はあれじゃなきゃ駄目だ。
僕にとってはこの世を去るまで通い続けたい喫茶店です。
※残念ながら「名曲喫茶ウィーン」は2017年12月30日に店主が高齢のために閉店しました。
1959年12月24日に開店して以来58年間、多くの人達に名曲とお尻の痛さを届けてくれた喫茶ウィーンに心から感謝を捧げたいと思います。
今までありがとうございました。
お疲れ様でした。
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