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おばあさんは、月が好きです。
夕方になると、縁側に行って空を見上げます。
今日は西の方に細い三日月が沈もうとしています。
「きれいだねぇ」
おばあさんも目を三日月のように細めます。
「えぇ、とても」
私は答えました。
三日月のすぐ下に、星が輝いています。


「昔から月を見るのが好きでねぇ」
「えぇ、そうでしたね」
私は答えます。
そして遠い記憶を蘇らせます。
ずっと昔…ずっとずっと昔…

私がまだ、ただの人形で、動く事ができなかった頃…
おばあさんはまだ小さな子どもで、おばあさんのおばあさんのお膝に座るのが大好きでした。
夕方によく二人で縁側に座って月を見ていたことを覚えています。
ずっとずっと、遠い記憶…

「昔…私はよくおばあちゃんの膝の上で月を見ていたねぇ」
誰にともなく、おばあさんはぽつりと言いました。
「由美ちゃん、あの頃のおばあさんにそっくりですよ」
私は言いました。
おばあさんはおかしそうに笑います。
「そうかい、嬉しいねぇ」
おばあさんは立ち上がって言いました。
「さて、寒くなってきたね。
暖かい部屋に戻ろうか」
「えぇ、そうですね」
私も立ち上がります。
「華や、お茶を淹れておくれ」
「はい、分かりました」
「今日はとても気分がいいよ」
おばあさんはそういうととっておきのお菓子を準備し始めました。
ゆっくりと夜が更けていきます。

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