ダイエット? ダイエット!

   体重計を買った。正確にはクレジットカードのポイントを体重計と交換したのだが、体重だけでなく体脂肪率も内臓脂肪も測ることができるというすごいものである。

 これまで私は体重計を持っていなかった。ゴミ減量のためか大きなゴミ袋を体重計に乗せて測っている職場があるので、通りがかったとき辺りを見回して、誰もいないときにそっとその体重計に乗っていたのである。びっくりするような数字になっていたことはなかったし、衣類も身に着けていて正確な体重ではないということで、とりあえず計っているだけだった。

 体重のことを気にかけることがなかったのは、私が子供のころからずっと痩せていたからである。理想の体重の数値には健康的な体重の他に、重い順に美容体重・シンデレラ体重・モデル体重というものが女子の間で知られている。私はモデル体重くらいの時期も長かったけど、あれはもう病人の体型である。シンデレラ体重というのはもう少し重いけど、胸やお尻といったふくよかであってほしいところだけふくよかであの数値というのが医学的に可能なのか疑問だ。中には奇跡的にそういう体型になっている人もいるのかもしれないけど。とにかく痩せていたころの私は着る物で必死に体型をカバーしていた。

 思春期のころから私はずっと胃腸が弱いのに悩まされていて、太りたいと思っても太ることができなかった。何か嫌なことや心配事があるとすぐ胃がしくしくと痛み始め、とんでもなく辛いことがあると胃痙攣を起こしてしまうのである。そうすると、というかそもそも嫌なことや心配事があるんだから食欲どころの話ではない。しかも腸も弱くてすぐ下痢をするので(お食事中の方すみません)、たくさん食べても食べ物は空しく私の胃腸を通過するだけなのであった。

 しかし7年前に神戸に引っ越して、ついに体重を少し増やすことができた。神戸という町の水が合ったのか環境が変わったのがよかったのか、それまでずっと悩んできた湿疹が何もせずに治るわ鬱っぽかった気分が晴れ渡るわ頭がスッキリして研究ができるようになるわで、気がつけば胃が痛くなるということもなくなっていたのである。胃痛がなくなると健康になったのか、最終的にそれまでの体重よりも5 kg ぐらい太った。しかし元々が異常なほどのガリガリだったので、5キロ太っても痩せていた。

 体脂肪計も測れる体重計を手に入れてから、私はおもちゃを買ってもらった子供のような気分だった。大食いしたり油でこってりしたものを食べたりしたら直ちに数字に反映されるのがおもしろくて仕方がなかった。ポテチ1袋や生クリームたっぷりのロールケーキなどでは飽き足らず、それまで入ったことのないラーメン屋に一人で入って、ただでさえこってりした豚骨ラーメンにバターが2切れ乗っているようなのを食べてみたりした(このときは素晴らしく数値がアップした)。

 そんなことをしていると、あっという間に体重が増えてしまった。ほとんどの人が体重を減らそうと手に入れる体重計で増やしてどうする。太った原因は体重計だけではない、夏以降、会う人会う人に「どうしたん? 何か表情がすっきりしたやん」「明るなったわ、恋人でもできたんちゃう」と言われる。思い起こしてみれば神戸時代も終盤になるとよく胃が痛くなったのだけど、夏からは毎日穏やかな気分でただの一度も胃が痛くなったことはない。自炊するおかずも高級なお店のお料理もジャンクなおやつも何もかもおいしくてしかたない。

 ガリガリだったころと比べると実に10 kg 近く太ったことになる。それでも医学的にはまだまだ問題ないらしいけど、10㎏という数字はなにか恐ろしい。いままで経験したことのないような体重なので、なんとなく身体が重いような気もする。重く感じるということは、健康であってもやはり自分自身にとっては適正な体重とはいえないのではないか。ダイエットという言葉が生まれて初めて頭に浮かんだ。

 とりあえずいまは自分が何を食べたかをおやつなども含めて克明に記録することにしている。問題があれば食べるものを減らしたり変えたりしていくつもりである。そして体重計遊びもやめることに決めたのであった。

ありがとうございます。