マンションの名前

 昔、ロイヤルマンションという名前のマンションに住んでいた。

 ロイヤル。皇族ですかと突っ込みたくなる名前である。ロイヤルマンションは当時としてはお洒落なデザイナーズマンションだった。渡り廊下があって、川の向こうの町までよく見えた。下の階に住んでたウエノさんは元気かなあと今も思い出すくらい楽しく暮らしていたが、マンション名を書くのは恥ずかしかった。

 パークハイムという名前のマンションに住んでいたこともある。都会のマンションにしては近所同士仲良しで、引っ越していく人のためにたこ焼きパーティーをするような、住みやすいところだった。でも名前がパークハイムである。パークという英語とハイムというドイツ語がくっついている。森と泉に囲まれたブルーシャトウかい。ちょっと頭のよくなさそうな感じが嫌だった。

 いま住んでいるマンションの名前は個人情報的にここに書けませんが、これも相当である。私が住んだマンションのうち歴代一二を争うと思う。できるだけ使いたくないが、住所を書くときに「マンション名まで正確に」などと言われることがある。つらい。

 しかし、このマンションにはそう長くいないつもりである。立ち退きで焦っていたとかいろいろあって、自分の生活スタイルにまったくそぐわないところを選んでしまった。今度は立ち退きではないから気長に物件を捜しているけど、うちに来てくれた人の中には「早く引っ越さないと病むよ」などと本気で心配してくれる人もいる。

 この日曜日にも、心配して下さっている方の一人がmessageでいろいろアドバイスをくださった。私の好みや生活をよくご存じで、この辺りの土地勘もある方なので頼りになる。

 とはいえ、半年以上住んでいると、なんとなく愛着も出てきて、引っ越しが現実味を帯びてくるとちょっとためらってしまう。「近所のチワワに異常に懐かれてるんです」「チワワの問題ではない!」たしかにそうなんだけど。

 第一候補は、やはりマンション名が気になっていた。たとえばパインフォレストとかいうマンションなら、オーナーさんが松林さんというのかななどと予想が付く。でも何を意味してるのかわからないのは心配だ。宗教的な意味があったり思想的な言葉だったら嫌だと思う。オーナーがそういう人だったら安心して住めない。

 でもそもそもどうしてマンションの名前ってこうなんだろう。もっとシンプルに、その土地に関係する伝統的で雅な和歌や漢詩から選べばいいのに。

 そうぼやきながらも、候補はだんだん絞られてきた。あと気になるのはチワワだけだ。このチワワがどういうわけか、私を見つけると必死の形相で追いすがってくるのである。かがんで頭を撫でてあげると少し落ち着くのだが、何か私に物言いたげなのである。

ありがとうございます。