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5th Album "Awakening:Sleeping" 対談~宮本菜津子×鈴木亜沙美~

2022年8月初頭、私は神戸に居た。「マスドレ新譜出すねんけど、アディー、何か書いてくれへん?」なっちゃんこと宮本菜津子からそう言われたのは、それより3ヶ月ほど前の東京にて。その時からやりたいと決めていたフィールドワークだった。今のなっちゃんが日々の寝起きをし心身を生かす景色の中に私も立つことで、今作ができた背景や向かおうとする先は何処なのかを感じ取りたかったからだ。何か書く=対談という形に決まり、そうであれば尚更。神戸へ向かう道すがら、私は彼女と音楽をやっていた時のことを思い出していた。かつての、マスドレ活動停止期の出来事だ。今から10年前、なっちゃんと私は奇しくもほぼ同じタイミングで、それぞれ自分のバンドで動くことができなくなる。当時私は"マスドレの宮本菜津子"を一方的に好いているだけの身だったが、ちょうど彼女がソロライブをしに私の住んでいた札幌へやって来るというので、思いきって共通の知人を介し「一緒に演奏したい」という熱烈なラブレターを送って…それで縁が繋がった。あの時なっちゃんと交わした言葉や音楽こそが私たちをそれぞれの次に向かうべき場所へ運んでくれたと思っているし、自分の人生においてそれはとても誇らしい。なっちゃんとの演奏は”今どのように生きているか”をとことん対話することで核心に触れられる。今回もきっとそうに違いない。というか、私が今そうしたくてたまらないー。現住し故郷でもある海辺の街で、新譜の発表を目前に控えた彼女は朗らかに笑って待っていてくれた。それから半月後、無事4年ぶりのリリースを果たし彼女たちはイギリスのフェス・ArcTanGentに出演するため早々と日本から旅立つ。新譜に対する人々の反応やArcTanGentでのマスドレの様子をSNS等で見ながら、私は過去作~今作までを聴き、彼女の帰国を待っていた。そして迎えた約束の対談日は、霧雨にけぶる8月終わりの東京。

これが、私たちで話した『Awakening:Sleeping』についてである。

(鈴木亜沙美)


■リリース13日後の感想

鈴木亜沙美(以下 ”アディー”):じゃ、ご挨拶しましょうか~。

宮本菜津子(以下 “菜津子”):ご挨拶?どういうご挨拶?

アディー:「ピロピロ~、なつこだよー」?

菜津子:ピロピロー、なつこです。

二人:(笑)こんにちは~~!

アディー:こんにちは。 なっちゃんがちょっとマスドレをできなかった時の、お友達の鈴木亜沙美あだ名アディーです。まあ今日はお話を、いろいろ座談的な感じで伺っていけたらと思うんですが。

​菜津子:はーい。

アディー:まず5枚目のアルバム『Awakening:Sleeping』、リリースおめでとうございます。

菜津子:ありがとうございます。ありがとうございます。本当にありがとうございます。

アディー:今日で、一週間はもう経ったよね?8月17日だもんね?

菜津子:そう。で、今日30日やから13日?でも13日か、2週間は経ってないなぁ。まだそんなもんか。

アディー:いやいや、おめでとうございます。

菜津子:ありがとう。…嬉しい。

アディー:そのリリース直後からバタバタとイギリス(ArcTanGentに出演)へ。

菜津子:うん、行って。

アディー:動きっぱなしみたいな感じだったと思うんだけど。

菜津子:動きっぱなしやね。

アディー:で、 iTunes Store(日本)のオルタナティブトップアルバム1位。

菜津子:そうそう!そうやねん、 びっくりした。

アディー:わぁ~!と思ったよ。

菜津子:わたしらも、うわぁあ~ってなった。ちょうどイギリスに出発して、タイでトランジットやってんけど。タイでのトランジット中に通知が来て、チャートインのお知らせみたいなのが来んねんけどそれが載ってて。過去最高更新みたいなのが載ってて、みんなでやったあああああ〜!ってなって。

アディー:いや~~、おめでとう。

菜津子:ヤバないヤバない!? みたいな。

アディー:Spotifyとかでもいい感じに。

菜津子:そやなー。

アディー:13日経って、まあ早々と国外には行ってたわけなんだけど。そういう反響も見えつつ…その、身近な反響とか印象的な声はありましたか?

菜津子:あのねえ……すごく、評判が良い。はははは(笑)

アディー:そりゃそうよ!

菜津子:これは思っていた以上というか、何て言ったらええんかな? 普段ちょっと界隈が違うところの人からもわざわざ連絡来たりとか。そういう現象って前のアルバムの時は無かってんけど。

アディー:あー、すぐ!みたいなのは?

菜津子:…は、無かった。

アディー:うんうん。

菜津子:で、(『Awakening:Sleeping』を)出すまでみんながこのアルバムをどう受け取ってくれるのかがほんまにわからなかったから。その、自分らはめちゃくちゃ一番、一番好きなん、できた!みたいな感じで。はよ聴いてほしいな、みたいな感じやったけど、なんかそれが結構近いニュアンスでみんなに…

アディー:あ~、なるほどね。

菜津子:”受け取ってもらえたらいいな”って思うニュアンスで伝わってる感じが。まあまだわからんけどね。日もそんなに経ってへんし、わからんけど…想像してたよりみんながこう、スン、と受け入れてくれているような印象がある。

アディー:スッと、ちゃんと伝わったみたいな。

菜津子:そうそう、そうそう。

アディー:まあ繰り返し聴いて(第一印象とは)違う趣きを感じたりとかってリスナーだったら勿論あるとは思うんだけど。…そうか、じゃあそれは率直に言って、嬉しい?

菜津子:嬉しい嬉しい。自分が好きやと、一番好きやと思えるアルバムできたなあって思ったのが、伝わるってめちゃくちゃ嬉しいやん。

アディー:めちゃくちゃ嬉しいよね!だって両思いみたいなことだもんね。

菜津子:そうそうそう!もしこれで、”なんかマスドレ思ってたのとちゃうなー”と言われても別によかってんけど。

アディー:意外な反応もあるかもしれないし、それはそれで面白いしね。

菜津子:そうそうそう!それでもいいと思ってたけど、なんか、思いの外(ほか)…

アディー:ストレートに?

菜津子:うん。ほんまになんか、同業者からもわざわざ連絡来るっていう。…すごい、嬉しいなあって思った。

アディー:”こーれはヤバいの作ったね!”みたいなもうハイテンションな感じとか、しみじみ、みたいなのとか、様々?

菜津子:周りの反応が、ってこと?あのねえ…様々、かな。あーでも人にもよるけど、“ヤバいね!”とか、”めっちゃでっかいなあ”みたいな。規模?スケール感みたいなのが、でかい!っていうふうに言ってくれる人が多かった。

アディー:うんうん。元々マスドレ知ってて、とか、自分の好きなもの繋がりで(情報が)スッと入ってきて知って、”あ~、好き好き、良い良い”とかじゃなくて、今作はたまたまの出会いでも ”す、すげえの居た…!”みたいなさ。全く知らなかった、遠いところに居た人でもちゃんと衝撃として、バーン!と感じるんじゃないかなあと思いますね。

菜津子:そうやといいなあって思ってたから。すごい、うん…有り難いなあって。

アディー:そうだよね。

菜津子:そういう気持ちが大きい。今。

アディー:今作のリリース前に神戸で喋った時、4年前の4th『No New World』から自分たちで(インディペンデントに)やり始めて、その時はじわじわとした広がり方だった、って話ししたやん?でも着実に届いていった実感を得られたから、今回はある程度下地が出来ている状態で…その、初動というかリリースしてからの反応が早いんじゃないか?っていうのは、なっちゃん言ってたもんね。

菜津子:そう。まさに、って感じ。

アディー:或いはそれ(予想)よりも、さらに?

菜津子:そやなー、さらに、かもしれん…。アディーと話した時って、リリースの準備は全部済んでたやん?サブスクの登録とか。で、今ってサブスクにおける、所謂どのプレイリストに入るか?によって再生回数の伸び方も変わったりすると思うねんけど、そのプレイリストに入るか入らへんかってリリースの直前にならないとわからへんし、されてから入れてもらえることもあるし。

アディー:そうだよね。

菜津子:嬉しかったのが、Big in JapanっていうSpotifyのプレイリストがあってそれのカバーに選んでもらえたんやけど、

アディー:うん、見たよ。

菜津子:なんか、そのプレイリストが海外リスナーに向けてのもの、みたいな感じやって、

アディー:”今これが日本でアツい!”みたいな趣のね?

菜津子:そうそう。そこに選んでもらえて、且つカバーとかまでやらせてもらえて…なんて言うんかな、自分らが”そう在りたいな”っていう位置にちゃんと認識してもらえてる、のかしら!っていうのもあって。

アディー:うんうんうん。

菜津子:だから想像していたよりもスピードとか影響の大きさは…さらに、かもしれない。

アディー:(拍手)

菜津子:あははは…いやもう、有り難い限りよ。

アディー:いやあ、でもこれは私リリース前にも喋ったけど…「これ(今作)にピンと来ない奴にはちょっと、言ってやったほうがいいよ?」って。

菜津子:「センス無えなあ!」って(笑)

アディー:センス無えなあ!って。「まあ言わないけどね」みたいな話をしたけど…

二人:(笑)

アディー:でも、そんな心配も要らないんじゃないですか?

菜津子:せやなー。なんか、そうなのかもって、思った。

アディー:まあでもこれからね!もっとこう、単純に ”好き好き!かっこいい!”とかじゃなくて、考察的なものだったり、また違ったテンションの反響もこれから聞こえてくると思うから…

菜津子:たしかに。楽しみ。

アディー:そういうのも今後拾い上げて、感性に落とし込んで。

菜津子:そうやな。それがまた糧になりますゆえ。

アディー:そうですね。じゃ、まずはリリース後13日目の…

菜津子:感想というか、

アディー:反響というか。嬉しいですね。

菜津子:嬉しい。


■制作、バンドの変化

アディー:さて。じゃあ制作の話とか、一人のマスドレファンとして私が感じたこと等も織り交ぜて訊いていきたいんですけども。

菜津子:はい。

アディー:まず私が聴かせてもらったのは今月の初めで、会ってその…思いは伝えたんですけど、

菜津子:そうですな。

アディー:第一印象はなんか、”腰が据わった感じになったね”みたいなことを伝えたんだけど、その後もずっと繰り返し聴いていて。…普通に、”演奏良いな”って思ったの。

菜津子:お~~!嬉しい。

アディー:ほら録り方もさ?いろいろあるし。あれは基本的にはみんなで、せーの!で録ってるの?

菜津子:そうやね。せーの!で録ってる。同じスタジオで。

アディー:”アンプをあっちに入れて…”(各パートのマイクにそれぞれの音が音被りしない為の間仕切りや機材配置の様子)とかはあるにせよ、同時に、直にコミュニケーションが取れる状態で?

菜津子:そうそうそう。バラ録りはしてない。

アディー:それは1st以来ずっとかな?

菜津子:ずっとやね。

アディー:そうだよね。マスドレがその録り方であるというのは非常にしっくり来るし、腑に落ちる。マスドレならそうだよね、って思う。

菜津子:その~、縦(=リズム、タイミングの正確さ)とかもさ、バチバチには合ってないと思うねん。どう言ったらええんかな?

アディー:わかるよ、言いたいこと。

菜津子:なんか、それが良さやと思ってんねん、マスドレの。それぞれのノリのほんまにちょっとしたズレみたいなのがさ、前後にあるとさ…

アディー:グルーヴだよね?

菜津子:そうそうそう!ほんまにそれ。うねるやん?

アディー:うんうん。それは楽曲の息遣いである、として普段から演奏していて。で、今回それをそのまま…レコーディングだと何かいつもとちょっと違っちゃった的なことも無く、演奏して、録れた?

菜津子:そうやね。

アディー:ああ、その感じがすごいしますよねえ。…えーと一応今日は過去作4枚、全部持ってきたんだけど(CDをテーブルに並べ始める)、

菜津子:おおお、ヤバ!あははは!

アディー:せっかくなので順に並べていきましょうね~。最新作はまだ無いですけど。

菜津子:最新作はまだ出てないんですよ。

アディー:フィジカルはね。10月7日だもんね?

菜津子:うん。

アディー:これ改めて4枚全部聴いたんですよ。でさ、今、縦の話になったじゃない?マスドレの。

菜津子:うんうん。

アディー:基本的に、せーの!で録るやり方は変わっていないとして…

菜津子:変わってないね~。

アディー:縦の合ってなさとかは、過去作にもそれぞれ、その時期その時期のがあると思うんだけど。にしても今作は、演奏良いよ!なんか偉そうだけどさ(笑)

菜津子:いやいや!めっちゃ嬉しい。

アディー:あのね、”心がひとつだな”って感じがすごいしたのよ。今までで一番。修正とかもほとんどしてなさそうに思うし。

菜津子:せやな。演奏の、パンチイン(=レコーディングテイク中の修正したい一部分だけ録り直す方法)とかはな、あるけど…まあそれもほとんど無い。うち(マスドレ)は。

アディー:うんうん。前作から4年の間に起こったバンドの変化や成長が全部演奏に出てるよね。バンドの運営とかも、まあ4年前も自分たちでやってたわけだけど、今はそのことに対してより自覚的であると思うし、

菜津子:そうやなあ。

アディー:なんか(悪い意味で)慣れちゃったりとか、疲れちゃったりとかによるバンドのテンション、モチベーションの低下も全然感じないし、

菜津子:無いなあ。

アディー:結実してきたんじゃない?全部ひっくるめて、全部意味わかる感じがする。この作品で。

菜津子:はいはいはい…うわあ、嬉しい。

​アディー:本当に、本当に良い作品。

菜津子:…嬉しい。わたしこういうふうに、アディーみたいに(過去作を)聴いてへんけど、

アディー:まあ聴かないよね!自分のって。

二人:(笑)

菜津子:でも、こうやってパッと見る(過去作4枚を)だけで思い出すじゃない?やっぱ。で、なんやろなあ…音楽として、いや全部音楽やねんけど、やっぱ最初の1枚目とか最初のメンバーとの関係性とか、”バンドがやりたい”とかいう、その衝動みたいな。みんなのなんか…行き場の無いさ、エネルギーぶつけ合ってたのが多分この時(1stアルバムを指差しながら)で。

アディー:詰まってますよね。

菜津子:そうそうそう。

​アディー:それがかっこいい、っていうのはあるけれど。

菜津子:せやねん!でもこれって、音楽的じゃないというか。良いねんで?良いねんけど、わたしは多分このアルバム(4thを指差して)からやっと自覚してやってると思うねん。

アディー:ああ…すごい、わかる。

菜津子:ここまでは(3rdアルバム以前)やっぱね、まだ途中というか。やっとここ(3rd)でちょっとわかり始めたかも?っていう時やったけど、ちえみちゃん辞めたりとかもあったし、

アディー:その後バンドとしては間が開いて…

菜津子:止まったりとかもあったし。間があって、で、ここに(4th)いくじゃない?

​アディー:この間なんと、8年?

菜津子:8年か。8年ねー、すごいねえ(笑)その間にアディーとも出会ってるっていう。

アディー:そうそう、そうなんだけど。

菜津子:音楽としては止まってはないやん?でもマスドレとしての活動は止まってて。その8年の間に自分が経験したこととか……んー、今もう”マスドレが自分の人生”みたいな感じやからさ。最初からそういう自覚はあったけど、なんて言うか、ほんとにいよいよ(現メンバーの)二人は人生のパートナーやし。そういう自覚とか、それが音楽としてちゃんと昇華されていってる感覚が生まれたのはやっぱり、おぐ(小倉直也)が入ってからの…

アディー:うんうんうん。

菜津子:4thの前におぐと一緒にソロを作ったりもしてるから、それは大きいかなって思ってて。おぐも言ってた。”なつやんのソロを一緒に作ったのは大きかった”って。だから4thでやっと自覚した上で、もう一段階!が、今回のような気がすんの。

アディー:たしかに、そうね~。ずっとマスドレ見てきてる人からしてみたら納得だろうし、今作から入ったとか音しか知らないよって人たちにも、ちゃんと説得力として…音で絶対伝わってると思うなあ。

菜津子:いや~、伝わってるといいなあ。

アディー:伝わっている、でしょう!!

菜津子:(笑)

アディー:おぐさんの話が出たから。あのー、こないだすごい良いエピソードを話してくれたじゃん?”俺が一番マスドレのことを絶対かっこよくできると思っているから”っていう。

菜津子:俺だ俺だ俺だー!って(笑)ふふふ。

アディー:感動したよ、私は。そんなヒーロー居る!?と思って。

菜津子:ちえみちゃんが脱退した後ね、”俺しか居ないと思ってた”って。

アディー:いいねえ~。

菜津子:そういうことをな、真っ直ぐに言えちゃうところがあの子の凄さであり魅力よね。

アディー:いい感じに言えちゃって、尚且つ見てたら納得できるのがおぐさんの良いところだし。いさこん(吉野功)さんはいさこんさんで、まあこれもこの前話したけど。2ndから参加していて、4thまでにも勿論変化を感じるんだけど、、、あの、”マスドレの亡霊に忖度していたんじゃないか?”っていう…

菜津子:その話ね!すーごい良い表現やなって思った。その言葉聞いた時。

アディー:私も自分で思ったわ。

菜津子:あははは(笑)

アディー:やっぱマスドレの1stの時、”えれぇモンが出てきたな”って衝撃が当時のシーンに走ったと思うし。で、いさこんさんは2枚目から参加することになり…やっぱり、マスドレらしさとか過去のマスドレ像に長らく忖度していたのだろうか?と。マスドレ当事者でありながらね。でも今作には全くそれを感じません。

菜津子:うんうん。

アディー:っていうのがほんとね。個人的に、ドラマーとしても感動した。

菜津子:それほんま本人に言うてあげて欲しい。いつか。

アディー:照れちゃうな(笑)いつか、僭越ながらね。

菜津子:…言うて欲しいな、それは。

アディー:話をまとめると。一人一人が…立ったなって。別に今までも全然、依存とかはしてなかったと思うんだけど。自立したな、ってすごく…

菜津子:感じられる?

アディー:感じられますね。

菜津子:亡霊への忖度が…

アディー:いやいや(笑)、”俺がマスドレだ!”って。

菜津子:みんなが思ってるよな?わかるわかる。それは思うね。


■エンジニア、アルバムタイトルの話

アディー:じゃあ。音源制作の、エンジニアさんのお話も伺いたいんですけれどもよろしいですか。

菜津子:はいはい、はい。勿論でございます。

アディー:これもさあ…夢あるな、って。

菜津子:夢あるよね。

アディー:(マスタリングを手掛けた)Howie Weinbergさん。

菜津子:…もう、みんな絶対に彼の作品聴いてるもん。

アディー:絶対に聴いている。

菜津子:絶対聴いてるよな?

アディー:なっちゃんだと、ハウィーさんの作品、どれを一番聴いてる?

菜津子:どれが一番なんやろう?一番っていうのはなかなか難しいねんけど…PJ Harveyの『STORIES FROM THE CITY,STORIES FROM THE SEA』もハウィーさんやったし、めちゃくちゃ聴いたし、あとスマパン(Smashing Pumpkins)も彼やし、『Nevermind』(Nirvana)も彼やし…Jeff Buckleyの『Grace』もハウィーさんやって、やっぱめちゃくちゃ聴いたアルバムやし。リンプ(Limp Bizkit)とかもそうやし。挙げるとほんまにキリ無いぐらい…

アディー:たしかにたしかに。

菜津子:青春時代めちゃくちゃ聴いた盤、ほとんどハウィーさんちゃうかな?っていうぐらい。知らんかったからさ、当時そんな、マスタリング…

アディー:そこ(エンジニアのクレジット)までなかなか見なかったよね。

菜津子:なんか見ても、”Special thanks”とかさ(笑)ただのリスナーだった時はエンジニアにまでそんなに興味無いし…だから衝撃的やった。”えっ、これも?これも!?”みたいな。

アディー:”全部!?”みたいな。

二人:(笑)

菜津子:いやー、ほんまほんま。それも、言ったら今回録音してくれた原さん(原浩一)がハウィーさんと繋がってて。原さんありきやし、それも。

アディー:うんうん…いやあでもやっぱこれ、バンドドリームだよね。

菜津子:…ドリームやなあ。

アディー:いさこんさんとなっちゃんはわりかし歳が離れてたりするけど。10歳くらい離れてるんだっけ?

菜津子:そやな、11(歳)離れてるな~。

アディー:でもいさこんさんはいさこんさんで、青春時代の大事な作品にハウィーさんが関わっていると。

菜津子:”そんなことある??”ってなって。

アディー:音楽って、繋げるよね~。

菜津子:感動するよな、そういうのに出会うとな。

アディー:いい話。だし、やっぱり原さん・ハウィーさんお二人の…今回の音源成形、仕事ぶりによって、さらにジャンプアップというか。

菜津子:絶対そうやと思う、絶対的にそうやと思う。

アディー:何かの媒体で、前作『No New World』に関しては”快作”みたいな表現を見た気がするんだけど、今回に関してはもう、快作どころの話じゃない。快い、どころじゃない。

菜津子:(笑)

アディー:”大作”じゃないですか?もう言い切って良い。ほんとに。

菜津子:ありがとう。わたしもなんかね、質量というか…重さが。これはこれ(過去作)で好きやけど、良い意味でもっと重みのある…自分らの、ちゃんと歩んできたものをそのままの重さで作品にできたというか。まあ、20年もやってるじゃない?

アディー:20周年でもありますからね。

菜津子:音作りに関してもけっこうミドルテンポだったり重めの曲っていうか、自分の元々のルーツ?…hideちゃんが大好きで、そういうインダストリアルとかニューメタルを青春時代たくさん聴いてきてて、でもそれがマスドレに反映されることってあんまり無かったんだけど。

アディー:うんうん。

菜津子:そういうところも上手い具合にできるようになってきた。

アディー:引き出しからポーン!と取り出して、みたいな?

菜津子:そうそう(笑)

アディー:むしろそれが、今マスドレがやってる音楽にハマるようになった、とも言えるよね。

菜津子:とも言える、うん。

アディー:勿論マスドレはなっちゃんだけの世界ではないけれども。今は尚更、以前よりそうだと思うんだけども。そうでありつつ、より、(マスドレが)なっちゃん自身に近づいていってる、ってことなのかな?それって。

菜津子:……今4回くらい頷いたけど、

アディー:頷きましたね(笑)

菜津子:その通りやと思うわ。ほんまに、不思議なもんで。

アディー:今回の作品のタイトルにも繋がってくるよね。

菜津子:繋がってくると思う。今日も手前の取材(SPICE)でさ、タイトル(の意味など)訊かれるやん?で、説明はすんねんけど、自分の中では確実に全部繋がってんねんけど、言葉にして人に説明しようとするとけっこうむずいなってさっき思ってんけどさ、

アディー:たしかに。

菜津子:本来の自分に近づいていくってことは、自覚しているところじゃないところの自分に近づいていく、ってことやん?

アディー:潜っていく。

菜津子:そうそうそう!なんか、(『Awakening:Sleeping』=)”目覚めと眠り”という相反する言葉で…その、潜っていけたり、いけなかったりとかさ、あると思うんだけど。そういう、自分でも自覚していない部分と出会うためにさ、音楽とか歌とか結局作ってると思ってて。自分は。

アディー:うん。

菜津子:自分の中での辻褄みたいなのを表すのに、この二つの言葉はすごく便利な言葉で。…なんかこの数年の世界を見てて、二極化みたいなのがすごく進んでいて。世界の構造とか雰囲気とかにもハマる言葉やなあとも思って。

アディー:うんうん。たしかに…

菜津子:いろんな意味を含める言葉やなと思って。

アディー:そうねえ。包括してるし、ハマってるというか。

菜津子:うんうんうん。

アディー:基本的にマスドレの音源作品ってその、コンセプトアルバムは無いじゃない?まあ曲順を考えたりの過程でストーリーとか、それによってできてくるところはあると思うけど。つまり、なっちゃんが生きていて感じていることがそのまま出る。

菜津子:そうやなあ。

アディー:思考というよりやっぱり感性?いや、思考もしてるんだけど…感性の作品だよね。

菜津子:そうだねえ。感性だけを働かせるのに一番音楽は良くて。普段わりと頭動くから、考えてまうから。考え過ぎて良かったことってなんも無いのよ。

アディー:あ、そう?

菜津子:結局、やってみた方が良かったみたいな。今までの統計でいくと。

アディー:自分統計ね。

菜津子:そうそう。音楽は、図らずもそれができるというか。自分がそれで救われる、じゃないけど、自分のためにやってることでもあるから。わたしがどういうふうに生きてるか?っていうのんになるよね。結局、やっぱりね。それが作品になるっていう。

アディー:しかも歴史を追って聴いていくと、そこに対する切実さ、純度の高さみたいなのが、より作品に落とし込まれてる感じ。あ、でも苦しいだけの切実じゃないのよ。なんていうか、切実、真摯…。重複するけど、”マスドレというものがなっちゃん自身、なっちゃん自身がマスドレ”っていうシンクロ率?が上がってるせいもあるんだろうけど。

菜津子:そうだねえ~~、そうやと思うわ。

アディー:…なんかしみじみしちゃったね。

二人:(笑)


■収録曲の話

アディー:曲ごとに話を訊いていって良いですか?

菜津子:はい。勿論。


<1. Dramatic / 8. 鳥とリズム>
アディー
:じゃあ一曲目「Dramatic」から。

菜津子:これはアディーと一緒にやってた時にあった曲だからね。けっこう前よね~。

アディー:10年までいかないくらい、前?

菜津子:…思ってたより経ってた。

アディー:これは、作詞作曲、宮本菜津子。

菜津子:そうやね。原曲も、アレンジとかもけっこうイメージがあったからロジック(=DAWのLogic Pro)で録って、二人に投げて。で、細かいアレンジ…ギターのフレーズとかはおぐちんが勿論付けてくれたんやけど、なんか…リバービーな感じにしたいとかBPMはこれぐらいが良いとか、コーラスはこれを入れたいとか、けっこう自分で…

アディー:設計図があって。

菜津子:そうそう。あんまりわたしそういうの無いねんけど。けっこう細かく、”誰かのこの曲のこの感じ”とか、できるだけ説明つくように探したり言ったりとかして、説明したかな。この曲に関しては。

アディー:で、メンバーからは”これ絶対入れようよ!”と言われたと。

菜津子:そう。”もうこれは絶対リード(曲)や”みたいなことを二人は言ってくれて。

アディー:そっかそっか。全9曲の中で…これをバンドで触り始めたのは、いつ?

菜津子:バンドでいじり始めたのは、最初は…う~~ん、曲、ネタとしては…え゛~~~~、、

アディー:まあ、ちょっと憶えてないということで(笑)

菜津子:あっはっは(笑)ごめんなさい。時系列としては「鳥とリズム」が一番古いんちゃうかな。

アディー:「鳥とリズム」も私一緒に演奏したよね?

菜津子:したした~。やから、元々バンドでやるっていうよりかは、(「鳥とリズム」は)弾き語りでや

アディー:バンドで触り始めたのは今ちょっと憶えてないとして…

菜津子:あ!でも元々「Dramatic」をアディーとやってた時って、サビが無かったの。

アディー:知ってる知ってる。変えたよね?

菜津子:そう。わたし的にすごい印象的やったのが、最初にアディーとやってた時の歌詞では”思い出せば 数え切れない 数え切れないくらい”の後に、”たいしたことは いくつもなかった”って言ってたんやけど、(現行アレンジでは)言ってへんねん。

アディー:知ってる(笑)

菜津子:そう(笑)で、その”たいしたことは いくつもなかった”っていう歌詞に対してアディーが、”なっちゃんが今この歌詞を歌うと、なんかけっこう…

アディー:…切ない”。

菜津子:そうそう!そう言われたのをすごい憶えてて。”そう??”みたいにそん時は思ってて。今回も別に意図的に外したわけじゃなくて、

アディー:曲として詰めていったらそうなった?

菜津子:そうやねん。で、自然と無くなったことに対して、ちょっと感動して。自分で。

アディー:おお~~。

菜津子:必要無いなって、多分。なんか…音と一緒にさ、歌詞って音と一緒やからさ、ニコイチやからさ。ばーって作ってて、すごく自然と削がれたから。それに対して、”よかったね、自分”って思って。えへへへ(笑)

アディー:私が、”切ない”って言ったのは、ファンとしてはちょっと複雑な気持ちになる、って意味で言ったの。

菜津子:”自分たちのことはそう(=たいしたことではない)なんか” みたいな?

アディー:いやいや、そういうんじゃなくて。”なっちゃん無理してるのかな…?大丈夫かな”的な。愛ゆえの心配みたいな。

菜津子:あ~~なるほどな。うんうん。…せやな、そういうところでちょっと無理しがちなとこ、あったからな。

アディー:でも、そうでもしてないと立っていられない。とかもあるからね。

菜津子:そうだね、たしかにね。

アディー:導かれたのかもしれないし。

菜津子:…やと、思う。

アディー:すごい、面白い話だった。

<2. いらない feat.蛯名啓太 (Discharming man)>

アディー:2曲目は「いらない feat.蛯名啓太 (Discharming man)」!

菜津子:はい!ひひひ。

アディー:蛯名パイセン。

菜津子:パイセン。北の巨人。

アディー:ちなみにさ、今回蛯名さんとTaigenさんをゲストボーカルにお迎えしての曲が2曲あるけども、これはどっちが先に構想として上がったの?

菜津子:蛯名さんが先かな。元々ずっと一緒にやりたかった、っていうのがあって。この曲もピアノで弾き語りをしてたんやけど、ふとした時に”あれ、この曲蛯名さんと歌えるかも?”って思って。で、もし蛯名さんとやるんやったらもう”音の渦の中にしたい”ってなって、メンバーにも言って。おぐもずーっとこう、グワーッて弾くみたいな感じになってて。ドラムもずっとドタタ…!みたいな。そこに、”蛯名さんが居る”って前提で作った。この曲は。一緒に歌うために。

アディー:これ、蛯名さんの歌録りは?

菜津子:大阪に来てもらった。原さんのプライベートスタジオがあるから、来てもらって。一緒に立ち会って。

アディー:蛯名さん、喜んでたでしょう?

菜津子:うん。。。

二人:(笑)

アディー:今日イチの、いい顔!

菜津子:いやー、ほんま。わたしも嬉しかったし。念願というか…”やっと一緒に歌えましたね!”みたいな。なんか蛯名さんが、自分の声とわたしの声とが重なったのを聴きながら”おんなじ声してるねえ~”って言って(笑)

アディー:たしかに、一瞬わかんないのよ!

菜津子:せやろ?そうやねん。

アディー:パッと聴いた時に。そんぐらいの一緒さ。

菜津子:でもな、あれ、わたし(の歌)一本だけで聴くと全然ちゃうねん。

アディー:でしょうね。

菜津子:なんでずっと一緒に歌ってるか?って意味は、そういうことです。って思う。各パートがあるとかじゃなくてずっと一緒に歌い続けるっていうスタイルにしたのは、そういう質感にしたかったから。混ざってる感じっていうか。

アディー:それはすごく面白いし、すごく真っ直ぐ伝わる。強い表現として伝わって来る。…良い!

菜津子:あははは、嬉しいわ。


<4. 1960 / 5. Helluva feat.Taigen Kawabe (BO NINGEN)>

アディー:Taigenさんをお招きして、っていうのはどういう感じで?

菜津子:Taigenくんはね、ロンドン在住なの。彼は(ロンドンの)家でボーカルトラックを録ってくれて。で、送ってくれて。

アディー:すげえな、家であのテンションで録れるのは。

菜津子:なー!彼が日本に居た時に一度だけスタジオ入ってセッションしたんやけど、それがめちゃくちゃ良くて。”ああこれはもうお任せして大丈夫やな"てなって。

アディー:歌詞もTaigenさんだもんね?

菜津子:うん、全部Taigenくんが書いてくれて。ボーカルのエフェクトの具合とかも全部彼が指示してくれて、それを原さんに伝えて。って感じ。

アディー:へえ~。じゃああの、”Fu~Ah~”ってコーラスはセッションの時とかに出てきた感じ?

菜津子:いや、あの”Fu~Ah~”は、手前(4曲目)の「1960」のコーラスと一緒なのね。

アディー:…あっ、ほんとだ!悔しい~~!!

菜津子:はははは(笑)そうやねん実は。それ踏まえてまた聴いてみて?なんかな、「1960」が先にあって、

アディー:すんごいすぐに「Helluva」に入るよね?

菜津子:そう。なんでか?っていうと、”「1960」の次にはこういうイントロの曲がやりたい”って言って、作ってん。これは。

アディー:あ~なるほどね。じゃあ「1960」の方が先にできていて…

菜津子:そうそうそう。「1960」はおぐが作ってくれて。”ダダダダダダダン♪”って終わって…

二人:”デーデーデーデー…!!”

菜津子:そうそう(笑)G(コード)ね。「1960」がGで終わるから、Gで…なんか、どういう曲にしたいかとか全然わからんけど、”次の曲のイントロはこういう曲がいい”って言って、

二人:(笑)

菜津子:うちら今までそんな作り方したこと無かってんけど。ああいうリズムってさ、わたしはニューメタルとかヘヴィロックとかが故郷みたいな感じやから。でもマスドレではやったことないビート感というか。跳ねてる感じやし。あれには自分、”歌はよう乗せへんな”ってわかってたし、そういう時におぐが”ポエトリーとか乗ったらかっこよさそう。Taigenくん合うと思うんだよね”ってアイディア出してくれて。

アディー:良い仕事してますね~!おぐさんも。

菜津子:ほんまに!で、たまたまわたしが神戸でTaigenくんと顔を合わせた後やったんかな?おぐがそうやってアイディア出してくれたのは。Taigenくんとは、それこそHelluva Loungeで出会ってて。そう言うエピソードもあって「Helluva」ていうタイトルやねんけど。それで繋がりができてたからTaigenくんにもすぐ連絡できたし、”是非やりたいです”みたいに言ってくれて。けっこうすぐにやってくれることは決まって。

アディー:うんうん…。かっこいいよねえ。

菜津子:かっこいいよな〜。わたしもすごい好きなの。おぐはな、なんかな…”ヒップホップのラッパーみたいなのはなんか違うって思った”って。あくまでポエトリーとか、”ロックバンドのボーカルの人がラップしてるくらいのニュアンスで、しかも中性的な人がいい”って思ったんやって。

アディー:あー、うんうん…なるほどね。

菜津子:で、蛯名さんも中性的やんか?

アディー:でっかいけどね(笑)

菜津子:でかいけど(笑)妖精みたいな?マッチョな感じじゃないというか。マスドレって、そこはやっぱ多分…別に制限とか無いけど、守った方が良い域やったんやろうな。おぐの中で。

アディー:明確だね。やりたい!ってことが明確で、ちゃんとそれに合う人と一緒にやれて。

菜津子:ラッキーやんな。うん。



<ちょっと脱線。マスドレメンバーは三人だけど、な話>

アディー:…なんだろう。マスドレの演奏にゲストミュージシャンをお迎えするのは、初めて?

菜津子:初めて初めて。…あっ!1stには、おぐとナルト(石井ナルト)が参加してるわ。…そう言えば、そうでした(笑)

アディー:まあでも、この時のそれと今回のだと、全然趣の違う試みであると思うけど。

菜津子:全然違う。

アディー:マスドレってさ、多作…数とかペース的にどんどんたくさん曲作って、っていう感じではないと思うんだけど、

菜津子:ないね~、うん。

アディー:それは、本当に納得を求めて作っているからだと私は解釈しているのだけれども。別に多作の方が偉いとかじゃなくて、性質としてね。(マスドレは)内向的なわけじゃないんだけど、大切にしてるものがあるから、そこに妄りに人を踏み込ませないところがあるなあ、って思ってた。

菜津子:(笑)…!図星やなあと思って、今。

アディー:あ、ほんと?刺さっちゃった??

菜津子:ん~、、ほんまそう。

アディー:守りたいものがあるから。拒んでるわけじゃないけど、”…そんな簡単には入れませんよ?”みたいな。内々で大切に抱きしめてる感じ?っていうのは性格としてあったかなあと。だから今回ほんとに大きな変化だよね。そんな…他所様のお歌をお迎えして(笑)

菜津子:いや、ほんまそうやんなあ…

アディー:”こういうことをやりたい”って制作欲求ありきなのは勿論大きな理由だろうけども、それをやっても大丈夫なバンドになったからじゃない?

菜津子:その通りです(笑)今までって多分、誰かと何かやることに対して興味はさ?あったし…でも器が無かってんよな。迎え入れる、”大丈夫だよ”っていう。でも、誰でも彼でも大丈夫ってわけではないと思うけど、

アディー:勿論勿論!(笑)

菜津子:言ったら、蛯名さんは付き合いも旧いじゃない?でもTaigenくんは出会ったばっかりやけど、そういうことじゃないっていうか。勘みたいなものもあんねんけど。絶対Taigenくんは縁ある人やなって直感もあったし。話してみた感じとかも。

アディー:タイミング、縁ね。

菜津子:マスドレってバンドは、メンバーと言われてるのは三人やけど、それこそさっき話したハウィーさんだって原さんだって居ないとさ?今回の作品はできてないし。且つその…これは蛯名さんに歌の依頼をする時にも話をしてんけど、自分らだけで立ててるわけじゃないやん?存在できてるわけじゃなくて。全部含めて自分たちやから、それを体現したくなったのもあるというか。

アディー:なるほどねえ。

菜津子:”我々は、我々だけではない。みんなで我々です”みたいなさ(笑)なんて言うんかな…マスドレっていう名前の元、三人だけじゃなくていろんなものがくっついて存在しているっていうか。それに対する自覚も、少しずつ…この中(1st~4thアルバム)でもして来れたんやろうけど、ほんまにいよいよ確信というか、人にもちゃんと頼れるようになったというか。自分たちだけではできないことは山ほどあって、誰かと何かやることによって…レイヤー増える、みたいなさ。

アディー:レイヤーね、うんうん。

菜津子:こないだも言ってたやん、視座?の話もあったけど。最初、始まった時ってもっと内に籠ってたと思うし。…基本的に、根暗な人たちが集まるわけですよ(笑)ね?なんかこんなド派手なことやってるけど、

アディー:まあわかりますけど。暗いよな~って(笑)

菜津子:せやろ?暗いよなぁぁ~~って(笑)でもそれが人に出会うことによってどんどん開けてきて、武装してたものをどんどんポイポイ(解除)していけるようになるというかさ。一段階、別にこれで終わりじゃないけど、区切りでもないけど…ほんまにそれを自覚した、って感じやな。今、みんなに支えられて。

アディー:そうして考えると今作全9曲、それぞれ違う制作背景だったり曲としてのアイデンティティがあると思うんだけど、一つに纏まった時、本当にとある人物のドキュメンタリーみたいな。各局面や視点、心理描写の役割を(収録曲が)それぞれ成してるよね。「1960」はおぐさんが、初めてマスドレと出会った頃の感触、あの頃のシーンの空気、イメージから作った曲だってことも前に伺いましたし。

菜津子:そうなんだよね。

<6. Ashes>

アディー:4thに続いて、おぐさんボーカルの。

菜津子:二日酔いの歌ね(笑)

アディー:(笑)あるある…って思った。でも曲としてはすごく爽快で、これもアルバムの中で非常に大事なポイントになっていますね。

菜津子:今回の録音、最後の被せ作業・コーラス録りを除けば、「Ashes」と「Just」の歌録りが最後の作業やってんけど、おぐもわたしも録音当日まで歌詞が完成してなくて。

アディー:そうだったんだ!当日か~。

菜津子:うん。で、お互い大阪の原さんのスタジオに向かう電車の中で歌詞を完成させたっていうシンクロがあったりして。あと、完成した歌詞を読ませてもらったら言葉選びや背景は違えど同じようなことを歌詞にしてたっていう。

アディー:へー!シンクロ率すごいな(笑)

菜津子:おぐとわたしは双子なんじゃないかと思うことたまにあるねんけど、まただ~!となって鳥肌立ったエピソード。

アディー:ほうほう…。しかしすげえなとは思うけど、意外な気は全くしないわ。なっちゃんとおぐさんの二人を見てると。

菜津子:そうなんや!

アディー:うん。ツインソウル感あるもん。

菜津子:そうか~!そう感じてるの自分だけだと思ってた!

アディー:そう?二人についてそんなふうに感じてる人、けっこう多いんじゃないかなあ。そして二人の歌詞も改めて読み解いてみると、似てるってわけではないけど通じている部分は多いかもしれない、って思ったよ。

菜津子:わかる。似てるわけじゃないけど、それこそ視座がすごく近い位置にある気がするよね。

アディー:あー、そうね!たしかに、視座が近いっていうのはしっくり来るな。二人は。

菜津子:ね!似ているわけではないよね。や、似ている部分も大いにあるけど(笑)

アディー:そうねえ。それについても、あるある…って思ったわ(笑)



<7. After the rain>

アディー:「After tha rain」は?

菜津子:これはめっちゃ昔にボイスレコーダーで録ったデータやねんけど、それを使った。わたしの中ではこれと「鳥とリズム」は対というか、ニコイチやねん。元々な、(今作の制作過程で)「Ashes」と「鳥とリズム」の間に箸休め見たいなのが欲しいなあ、っていう話やってん。で、何個か提案して…デモ段階の何か、みたいな。それで探しとう中で見つけて、使った。

アディー:うんうん。流れの中でとても効果的だと思います。




<3. MELT / 9.Just>

アディー:3曲目の「MELT」と9曲目の「Just」、これは作詞がなっちゃんで作曲はマスドレですね。これは、どのように?

菜津子:「MELT」はどうやったかなあ。あれもイントロのリフみたいなんを作って…Queens of the Stone AgeとKornを足したみたいな曲やな、みたいな話をみんなでしてたのは憶えてんねんけど。セッションでできていったなあ。それで歌詞が全然決まってないまんま、宇宙語みたいなのんでライブでやったりもしてた。

アディー:うん、見たことある気がする。曲先だね。

菜津子:完全に曲先です。「Just」も曲先です。

アディー:作詞作曲がなっちゃんじゃない曲はけっこう曲先なのかな?

菜津子:そうやね。前作は、わりと”歌を活かすために”っていうのが強かったんやけど。なんか…”しっかり歌うのも飽きた”っていうのもあって。

アディー:うんうん。なんかちょうど良いと思うよ。前作からの今作の、歌の度合いも。しっかり歌ってるところは歌ってるし。

菜津子:そうそう、そうなの。元々自分が歌いたくて音楽を始めたっていうよりバンドがしたくて、で、結果的に歌うようになったタイプの人間やからそういうのはあるかもしれんけど。おぐがリードを取る曲があったりとか、インストとか。楽しいし。

アディー:音源、ライブでもそれはすごく楽しく聴こえています。

菜津子:良かった。まあそんなんで、作詞作曲がわたしになっていない曲は全部曲先やな。

アディー:歌詞も良かったしなー。「Just」に関しては、最初に聴いた時マイブラ(My Bloody Valentine)かと思ったわ。あれ?この衝撃何に似てるんだろう?って。「Only Shallow」?

菜津子:それめっちゃ嬉しい(笑)だって最初のイメージそれやったもん。”マイブラみたいな感じにしたいね~”って、アイディアを持って行って。でも一時期、結局やりだすとDeftonesみたいな感じになってきて、

アディー:(笑)

菜津子:でも、”…Deftonesではない、なんか違う!”ってなって、けっこう試行錯誤して。最初は同期(=同期音源)も入ってなかったし。概ねできた時におぐちゃんが”同期とかどうかな?”って言いだして、”めっちゃええやん!”って。なんか、ビームみたいな音とか入ったらかっこええなあとか言っててんけど、そしたらおぐが同期のデータ作って持って来てくれて、”最高やん!”って。で、その同期の音から(歌)メロディー作ってる。歌メロもけっこう迷ってたから…おぐが同期を作ってくれたことにより、歌メロが生まれて、歌詞が生まれて。

アディー:ほうほう。

菜津子:イントロは最後の最後に付けてんけど。あの、逆再生みたいな。この曲は最初から(アルバムの)ラストチューンにしようって話だったから、最後感欲しいなって。あれはわたしが提案して。そんな順序で、けっこういろいろして、結果的にあの形に収まった。まあ、出発地点はマイブラですね(笑)

アディー:バレてるぞ~。

二人:(笑)

菜津子:いやでも嬉しいわ。ちゃんと伝わってる。ああいうな、ミドル(テンポ)な重~いのがしたかったんよなー。

アディー:なんかね、これが最後の曲にあることで、良い意味で放り出されるんだよね。今回間違いなく大作を作り上げたと思うんだけど、”ピークじゃないな、全然”って。到達点は到達点なんだけど、通過点。この曲が最後に置かれていることによって全然 to be continuedな感じがすごくする。

菜津子:そういうふうにしたかってんよな。完結しない感じにしたかった。

アディー:大丈夫。全然(完結)してない。

二人:(笑)

菜津子:それはけっこう意図的かも。終わり方とかも。歌詞もそういう、完結しないイメージで。…でも嬉しいな、ちゃんとそう伝わってるっていうのは。

アディー:まあ、私は。ね?別にファンを代表してるとも思ってないし(笑)、あくまで個人として、私はそう思ったよってこと。

菜津子:でもさ、そうやって感じてくれてる人が一人でもおるって、すごない?

アディー:…そうだねえ。その、一人でも居るだけですごいのが、積み重なっての何万人とかだもんね。ほんとに震えるよね。数字じゃなくて、”一人一人”って考えた時にそう、っていうのは本当に鳥肌が立つ。

菜津子:本当にそう。…感動する。


■アルバムタイトルと、こざき亜衣によるジャケット画の話

菜津子:元々は「Dramatic」をアルバムタイトルにするつもりだったのよ。で、話がちょっと逸れちゃうけど、亜衣ちゃんに今回もイラストを依頼(こざき亜衣は完成した音源ではなくラフミックス段階のものを聴いて今回の絵を描いている)して、そしたら、あの絵が返ってきたんやけど。

アディー:あれも意外性がすごくて。

菜津子:せやろ??

アディー:えっ!?って思った。

菜津子:うん、わたしも最初返ってきた時、驚いた。もちろん絵は素晴らしくて感動してさ、でも、タイトルを『Dramatic』にしようと決めてた自分には「そう来るかあ!」ていう。でも、待てよ?と。もう一回アルバムを通して聞こうと思って。で、通して聴いた時にあの絵がめっちゃしっくり来てん。

アディー:そうそうそう!

菜津子:やんな?そんで、”あーもうこれしかない!”と思って。でもこれだとアルバムタイトルは『Dramatic』じゃないな…と思ったから、メンバーに”ちょっと考えさせてくれ”って言って。で、あの絵が来てから何周かアルバムをばぁーって聴いて、思い浮かんだのが『Awakening:Sleeping』やった。

アディー:なるほどね~、さすが…!こざき先生による歴代のジャケット画を見ていくのもマスドレの変遷がわかって面白いよね。


■今後の展望

アディー:さて、では今後の展望をお訊きできたら。ビジョンというか、今後こうなっていきたい等あれば。

菜津子:今ってイギリス行ってきた後やん?やっぱそれがでかくて。自分だけ取り残された事件(PCR検査陽性判定を受けたことにより、出国予定日に宮本一人だけ出国できなかった)も大きくて….。あのね、久しぶりに不安になったりとか、心細くなったりとかしたんよね。1人ロンドンに取り残されたこともそうやし、ArcTanGentに関してもそうで。ArcTanGentって所謂マスロックのフェスみたいに言われてるらしくて、全く居なくはないけどオルタナティブロックのバンドってあんまり出てなくて、(出演の)前日現場に行った時に、”場違いなんちゃうか、わたしたち”って思っちゃったのね?

アディー:大丈夫か?と。

菜津子:うん、”わたしたち全然マスロックちゃうで…?”と。”全然ウケへんのとちゃうか”みたいなね。それで久しぶりに本番前にね、気が弱なったんよね。

アディー:へえ。

菜津子:”これはヤバい”と思って。でも蓋開けてみたら全然、お客さんも居てくれて。ファンの方も居てくれたの。結果的に、ステージの用意とかしてる時にそれを知って。最初は、(ステージ)最前に早い時間から来て待ってくれてる人たちと話したりとかして。で、”ああ今日はこの人たちのためにやろう。頑張ろ!やれるやれる!”みたいな感じで自分に言い聞かせて。そしたらどんどん人が集まって来て…!始まる前に。”ええー!?”みたいになって。

アディー:おおお~!

菜津子:こっちは日本語で歌ってるし、何言ってるか全然わからへんのに…どんどん共鳴していく感じ?に、めちゃくちゃ感動して。なんて言ったらええんかな…新しい感覚、自分でも知らなかった感覚みたいなのがあったのね。プラス、自分だけ取り残されて、っていう時間もあったりとかして。なんかずっと開いてなかったところが開いたような感じが、…ちょっと言葉で上手く表現できひんねんけど、

アディー:閉まってた扉が開いた、みたいな?

菜津子:そうそうそう。そういう感覚があんねん。漠然とやねんけど。

アディー:それは、今まで在り処さえも自覚してなかったものってこと?それとも長い間封印してたものってこと?

菜津子:それがまだわからへんねん。

アディー:なるほどね~。興味深い。

菜津子:でも今の自分にとって新鮮であることは確かで。こういう経験して、また多分物を作って、その先でまたこういう経験して、物を作って。っていうことをこの先この三人で繰り返していきたいな。…っていう感じ。この先の展望と言うなら。別に大きな野望とかは無いけど…あっ!でも次の作品出すくらいには、さっきSPICEの取材でも言ってきてんけど…”海外のフェスでめっちゃでかいステージでやってるくらいのバンドになりたいなあ”とは思ってる。

アディー:楽しみにしておりまーす!

菜津子:あはははは(笑)

アディー:パスポート切れてるから取っておくね~。

菜津子:(笑)取っといて~。なんかさ、好きなことを好きな場所でやってたいよね。気持ちのいい選択をしたい。想像した時にワクワクすることっていうか。その一つが海外のめちゃくそでかいとこでライブをすること、そんなバンドになることだったりするよ。

アディー:や、なるでしょう!

菜津子:ほっほっほ、、、(笑)いや、なりたい。今までにそんな、あんまり明確なイメージ無かってんけど、今けっこう明確かも。そうなりたい。

アディー:ちゃんと繋がってんだな、って筋道が見えたからじゃない?”こっちの方で合っている”っていうのが。

菜津子:そうかもねえ。

アディー:素晴らしい。マスドレのドキュメンタリー映画とか撮るんなら今からでも遅いくらいだけど、撮りたい人は早く、今から!始めた方が良い。本当に。

菜津子:(笑)まだもうちょいな、続くからな。身体が続く限り。えへへへ。

アディー:いつでもいつまででも、やってほしいけど。

菜津子:せやなあほんま。やりたいよ。やりたいよ!って言えるのが…良いよねえ。

アディー:そうだねえ。

菜津子:昔やったら、こういう感じではなかったな、と思う。

アディー:生きてるね~、一生懸命生きてるね~。

菜津子:(笑)今日のライターさん(SPICEの)にも、”いやー夢があるわあ”ってめっちゃ言われてん。

アディー:あるある。むしろ夢しかない。でもなんかさ、ふんわりした夢じゃなくて。

菜津子:そうよな、夢物語とかじゃなくて。明確にイメージできれば叶う、というか。

アディー:それ、ベンジーも言ってたよ!”思い描けるものは叶う”って。

菜津子:おお~(笑)…そうやな、それがイメージできるから。今。

​(終)

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