見出し画像

増井真也の住宅設計手法

日本で家を作ろうとすると、30年間くらいの住宅ローンに縛られます。一生に一度の買い物なのに、普通の常識的な値段では建売住宅かハウスメーカーで建てるしかないのが現状です。そうすると、設計に自由がなかったり、ちょっと変更しただけで多額の追加金額が発生したりしてしまうわけです。こうした家づくりをしている会社が悪いわけではありません。大量生産の原理でコストダウンを図っている会社では、ある一つのパターンにはまっている商品を選べば、大幅なコストダウンが可能になり、買う側も割安で、会社側も利益が出るという構造になっています。だからそこから外れるご要望が出た場合にはどうしても追加金額を発生ささせて、それを回収しよう、もしくは変更をさせないように仕向けようとなるわけです。

ますいいでは、こういう家づくりでは満足できない方のために、4つのポイントを重視して工務店機能を兼ね備えた設計事務所運営をしています。

  • 設計事務所つまりアトリエとしての模型やCGなどを利用した丁寧な設計を行う

  • 家づくりの中で自然素材をふんだんに使用

  • 自分の家は自分で作るという理念のもと、セルフビルドを積極的に取り入れる

  • 家のどの部分にどのようにお金をかけるかを考えるために見積書の一つ一つの部材まで値段を公開すること

ますいいリビングカンパニーでは、家づくりの中で多くのセルフビルドを取り入れることを推奨しています。家づくりの値段の約半分は職人さんの人件費にかかります。セルフビルドはこの人件費を節約することができます。例えば壁の漆喰塗りを自分で行う場合はどうでしょうか。通常漆喰仕上げを左官屋さんに依頼すると、石膏ボードに薄塗り仕上げでも平米あたり4500円ほどのコストがかかります。それをセルフビルドで行う場合、材料費のみで済ませることができるのでビニルクロスと同じ平米あたり1500円ほどのコストで漆喰を塗ることができるのです。ますいいでは漆喰仕上げだけでなく、タイル貼り工事や建具などの塗装工事、床のワックスがけ、デッキづくりなど多くのセルフビルドを推奨しています。

ではこうしてできた家の実例をご紹介いたしましょう。この住宅は2年ほど前に埼玉県上尾市に作りました。敷地は農家さんなので畑一つ分、かなりゆとりのある敷地となります。まっさらな土地に家をたてる最初のプランを行うことを基本設計と言います。僕はいつも敷地に立って、その敷地のこの辺がリビングだなあとか考えながら歩き回り、暮らしの中でいつも見ていたいなあと思うような景色はどこかなあと考えて、その風景を切り取ることから始めるようにしています。

これは写真を撮るような感覚ですね。

その時にもう一つ重要なのが家の重心を決めることです。家の重心というのは家族の意識が向かう場所のことを言います。この家のお施主さんはガーデニングの作業がとても好きです。だからどこにいても庭を意識できるようにプランをしたのですが、その庭の方向に薪ストーブを配置して、そこを家の重心に決めました。僕は普段から家には重心がある方がいいと考えています。重心がある方がなんとなく落ち着きます。重心のない家はなんかふわふわしていて、家族の団欒も生まれにくくなります。何も意識をしないでいると大抵の家の重心にはテレビがあることが多いのですが、できればそこには薪ストーブがあるといいと思います。揺れ動く炎を見ていると心が落ち着きます。動物は元々火に集まるものなんですね。焚き火を見ているのと同じような感覚でしょうか。こういう環境を作ってあげることが本当の家づくりだと思います。

リビングの白い壁はお施主さんによるセルフビルドで漆喰を塗っています。石膏ボードの継ぎ手やビス穴のパテ処理を行い、それをヤスリで削り取って、栃木県産の漆喰を塗っています。施主仕事ですので多少の凸凹もありますが、自分の家を自分でつくるとこういうアラもお気に入りのポイントになるものです。欧米では家のリフォームの塗装工事などを自分自身で行うことは普通のことです。だからホームセンターでほとんどの建材を揃えることができます。日本人は、細かいところに目がいくという性質があるのですが、家づくりにおいてはそれが全ての職人に頼まなければいけないという考えにつながり、コストアップに向かっていく原因になります。お金がある人は全く問題ありませんが、限られたお金で理想の家を作ろうという場合には、やはり自分でできることは自分でやることをお勧めします。

重心が決まったらその周辺の空間を決めていきます。リビングの周りにはオープンキッチンを配置してその前には出窓のあるダイニングを作りました。キッチンの素材はモールテックスと言って、モルタルの薄塗りのような質感がある樹脂系の左官材料です。ちなみにこのキッチンの正面に貼られてるタイルはセルフビルドでお施主さんが貼りました。このような1面だけの小さな面積のタイル貼りは数あるセルフビルドの中でも最も取り組みやすいものだと思います。タイル自体はインターネットもで世界中のタイルを購入することが可能です。是非挑戦してみてください。

その横には大きな階段があります。これはお施主さんが作りたいと言って要望してきたものなのですが、イメージの写真をいただいてそれを見ながらどうやって作るか考えて設計しました。ここは時にはソファのように使って映画を見たりすることもできますし、もちろん2階に上がるための階段にもなっています。

リビングには大きな吹き抜けがあります。吹き抜けの上部にはホールがあって、手すりがわりに机を作りました。両側に収納を配置して、机面には立ち上がりを作りものが落ちないようになっています。このように細かいところまで、使いやすいように考えられているんですね。

屋根の上には富士山が見えるデッキを作りました。ベランダから出れるようにしたのですが、ここもとても楽しい場所となっています。プランを作る時には、このように実際の暮らしをイメージしながら、使いやすくて無駄のない答えを探すことが大切だと思います。

夏の暮らしの様子 ルームツアー
https://www.youtube.com/watch?v=3w7RmLAD4Tg

雑誌ちるちんびとに掲載 webマガジンでも記事をご覧いただけます

https://www.chilchinbito-hiroba.jp/column/housing/archives/3468

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?