『808 The Bassqueen』の思い出
今年3月、「ミニマルテクノの帝王」ことリカルド・ヴィラロボスのあるレコードがリイシュー(再販)された※1。
※1.日本では4月下旬からディスクユニオンで販売開始
1999年にLo-Fi Stereoからリリースされた『808 The Bassqueen』だ。
リカルドの初期の代表作に位置付けられるこの楽曲は、日本でも昔から一部の筋の間で聴かれてきた"ようだ"。
"ようだ"と言葉を濁したのは、これを書いている私はリアルタイムでこの曲を知らないからだ。
昨今のレトロブームとはいえ、なかなかこういったジャンルが大衆層の間で話題になることは今も昔もあまりない。
では私はどこで『808 The Bassqueen』を初めて聴いたのか。少し私の昔話にお付き合いいただきたい。
私がこの曲に初めて出会ったのは、「アメーバピグ」というアバターチャットサイトだった。
アメーバピグは2009年に作られ、10年目を迎えた2019年にPC版のサービスを終了して、現在はスマホ版のみ稼働しているチャットサイトだが、PC版にはYouTubeの音楽を割と自由に流せる「チャンネルフロア」というエリアがあった。
チャンネルフロアは音楽のジャンルによって細かくエリアが分かれており、「J-POP」と「洋楽」をはじめ「レゲエ」や「ダンス」、「ヒップホップ」が並ぶ中で「テクノ・ハウス」があった。
中学生だった私は当時、deadmau5やSkrillexといったEDMを好んで聴いており、よくチャンネルフロアでも「ダンス」エリアに入り浸っていたが、ある時ふとした好奇心で「テクノ・ハウス」エリアにも関心を持つようになった。
「テクノ・ハウス」エリアに行こうとしたら、エリアの人数が「1人」だけしかいない。
恐る恐るクリックしてエリアに入ると、そこには黒い肌をしたネカマっぽいアバターが1人だけ貸し切りで曲を流していた。
そう、そこで流れていた曲こそが『808 The Bassqueen』だったのだ。
近未来感ある高音域と同時に響く重低音のバスドラムの連続に、私は胸を打たれてしまった。
これが私と『808 The Bassqueen』の出会いだった。
それ以来、私は現代のサブスクやYouTubeの恩恵を受けつつ、ほぼ毎日『808 The Bassqueen』を聴きながら過ごしている。
さて、自分語りはここまでとして、そんな『808 The Bassqueen』好きな私が、調べに調べて辿り着いた情報を共有して終わろうと思う。
まずは、『808 The Bassqueen』の随所に挟み込まれる「808 Bassqueen」という女性ヴォーカルのヴォイスには「元ネタ」があるということだ。
それが、1991年にリリースされた「Marc The 808 Bass Queen」というアーティストの『900 Bass Number』だ(下に貼ったYouTubeの動画で32秒あたりで耳馴染みのある「808 Bassqueen」を聴くことができる)。
リカルドはこの曲の「808 Bassqueen」の部分を切り取って、サンプリングしたのだ。
また、『808 The Bassqueen』は今回のリイシューが初めてではなく、2003年に同じくLo-Fi Stereoから、「Clever & Smart」の『Filtadelic』をB面に据えたヴァージョンのレコードが発売されている。
B面に収録された「Clever & Smart」の『Filtadelic』も、『808 The Bassqueen』に負けず劣らずの重低音をバリ響かせているので、是非こちらも聴いていただきたい。
そんな『808 The Bassqueen』は、1999年版と2003年版も現在では簡単に手に入らない「激レアレコード」であったが、今年2024年にRAWAXからリイシュー版がついに発売された。
REWAXはリカルドの楽曲に特化した「RAWAX Ricardo Villalobos Edition」というレーベルを新たに創設し、その記念すべき第1弾としてリリースされたのが『808 The Bassqueen』だった。
こういった経緯からも『808 The Bassqueen』がリカルドの音楽を知る上で重要な立ち位置にあることが伺える。
このリイシュー版の存在を、私は友人から教えられて、早速ディスクユニオンでレコードを注文した。レコードプレイヤーもないのに。
現代はサブスクやYouTubeで簡単に音楽を聴くことができる。
私はそんな時代に生まれてしまったからこそ、レコードの「針を落とす瞬間」や「音楽が流れる前のプチッという音」を知らず、実際にやってみたいというワクワクが日に日に募っていく。
リカルドの今後の音楽と、レコードの到着を期待して。