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1-1 2016年の読み放題(Kindle Unlimited)

売れる電子書籍をつくるコツ 第1号 Vol.1 三版
はじめに

 こんにちは。舛本です。二版を出したのが二〇一三年五月。追加情報を入れていく予定で作ったこの電子書籍ですが、なかなか追加できずにおりました。あれから、五年近くが経ちました。いまは、二〇一七年十一月です。北朝鮮がICBMを飛ばし、日馬富士が引退する中でこれを書いています。
 アマゾンのKindle端末が最初に登場したのは二〇〇七年十一月。そして日本にやってきたのは二〇一二年でした。早くも五年。
 この五年で大きく変わったことは、実はあまりありません。当時感じられた傾向が、いまははっきり実態として確認されてきたとは言えます。
 大雑把に言ってしまえば、出版業界は全体的に縮小気味で、電子書籍の存在感は大きくなっています。ただ、電子書籍市場が、失われた書籍全体の市場を完全には補っていません。
 ある程度は定着した電子書籍市場ですが、二〇一二年頃に夢を見ていたほどではありません。
 とはいえ、この電子書籍市場には、セルフパブリッシングの売り上げが正しく算入されていないという大きな問題があります。
 アマゾンが開示しないのでわからないわけです。
 また、セルフパブリッシングについては、出版業界も把握しているわけではないので、誰にもわからない状態とも言えます。推測はできるでしょうけども。
 厳しい数字について、出版科学研究所『出版月報』二〇一七年一月号に掲載された数字で追ってみます(二〇一六年のデータということです)。

 出版物推定販売金額は一兆四千七百九億円(前年から五百十一億円減。前年比三・四%減)。
 うち書籍は七千三百七十億円(四十九億円減、同〇・七%減)。
 そして、雑誌はさらに悪く七三三九億円(四百六十二億円減、同五・九%減)。書籍が雑誌の売り上げよりわずかに上回りました。なんと四十一年ぶりのことだそうです。四十一年前。一九七五年って……。ベトナム戦争が終わった年。ザ・ピーナッツが引退し、キャロルが解散し、ソニーがベータマックスを発売した年。マツダ(東洋工業)がロータリーエンジンのコスモを発売し、広島カープが初優勝した年です。
 当時はまだ国鉄の時代で、この頃はスト権ストをやっていました。
 あの頃から、雑誌の時代がはじまり、広告収入をメインとした雑誌が多種多様に出て競争を繰り広げた結果、書店も雑誌販売によって売上基盤ができていくようになったのです。
 つまり、いま、小規模の書店が減っているのも、雑誌の衰退(雑誌広告の減少)という波をもろにかぶっていると言えます。
 これが、紙の出版の話です。
 電子書籍はどうか。一千九百九億円(四百七億円増)となっています。前年比二七・一%増。二ケタ成長というやつですが、それでも、まだ市場占有率は一一・五%。
 つまり、本十冊売れるとそのうち一冊は電子書籍、といった配分です。
 私は半々ぐらいですが、そういう人はまだ少ないのです。私が紙の書籍を購入しているのは、図書カードをいただくからというのもありますが。
 そもそも、電子化率はまだ高くはないので、そもそも点数が紙の本とは単純比較はできません。
 たとえば近年の小説ではとてもよく読まれた『火花』(又吉直樹著)は、三百万部を突破し文庫にもなっています。ドラマになり映画にもなり、新たな読者を増やしていることと思います。その電子書籍は二十万ダウンロードを突破したそうです。
 一千二百六十円の単行本、文庫本は六百二十六円。電子書籍は五百円。こうした価格戦略も見逃せません。それでも、紙の本の七%に達していません。ただ、二十万人が電子で読んでいるという点は、心強いですね。
 なお、出版の動向については、第一人者の鷹野凌氏の記事(見て歩く者 by 鷹野凌)がもっとも役に立つと思います。実際に売られている点数を調べて記事を書いていますのでご参照ください。
 私としては、この五年で電子書籍にとってもっともインパクトのあったことは、「サブスクリプション」と思います。いわゆる「読み放題」。
 セルフパブリッシングの著者ならご存じでしょうが、アマゾンが読み放題をKindle Unlimitedとしてスタートさせてからというもの、かなりの違いが実感されているのではないかと思います。
 二〇一六年八月に突然はじまったこのサービス。KDPで出版している場合は、「セレクト」(アマゾン専売)の作品から自動的にこの読み放題に入るようになっていました。

 この図は、あるセルフパブリッシングの書き手のロイヤリティを月別に表示したものです。右端で急に伸びているのは読み放題によるもの。それ以前はダウンロードされた本数に応じたロイヤリティのみでした。
 ということで、その後の話題としては、今回、次の四点について触れておこうと思います。

1、読み放題は救世主か?
2、校正はどうやればいい?
3、表紙(カバー)はどう作る?
4、インディーズを卒業しよう

 なお本書では、セルフパブリッシングについて、次のように考えています。
 書籍を自分中心に企画立案し、すべての工程に自身が対応して出版すること。
 これを少し広げて、「自分たち」としてもいいのですが、要するに出版社といったくくりに入っていない人やその仲間たちと組んで、出版社社員でもいいけども、他社の出版社の人や出版と関係ない人ともつながってみたり、なおかつどこの出版社の看板でもない作品をつくる場合も含めてもいいかな、と思います。
 同人的な活動は後者に入ると思います。
 先鋭的には、一人で全部やる。といっても、プラットフォームであるとかKDPといった仕組みは活用しますし、場合によってはイラストや写真を発注したりもするでしょう。
 とにかく、自分で勝手に出版すること、と乱暴に言い切ってもいいと思います。

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