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1-2 読み放題は救世主か?

売れる電子書籍をつくるコツ 第1号より

読み放題の性質「フローなコンテンツに向いている」

 サブスクリプションそのものは、音楽を中心に一般化しています。定額制で、払った期間は対象となるコンテンツを利用し放題になります。
 電子書籍では、「Kindle Unlimited」「dマガジン」「楽天マガジン」が知られています。「Kindle Unlimited」は書籍も雑誌もですが、「dマガジン」「楽天マガジン」は雑誌主体。
 これを歴史的に考えてみると、マンガの読み放題、雑誌の読み放題へと拡大してきた経緯があります。というのも、電子書籍でラインナップを揃えるためには、電子化されていなければなりません。
 マンガと雑誌は、電子化が早く、なおかつ読者も端末(スマホ、タブレット)で読むことに慣れていったわけです。
 書籍がいまだに「本は紙でなければ」といった論調が堂々と強くメディアに登場しているのに比べれば、マンガは絶版になりやすいこともあり、電子化を待望する声すらあって市場も大きく広がっていきました。
 雑誌はまだ抵抗があって、電子化されている雑誌でも、一部の記事は掲載されていません。電子版用の編集になっています。また、読み放題用にも別のバージョンが提供されていることもあります。
 それでも、書店の減少などによって、雑誌を手にする機会そのものが減少する危機感もあり、果敢に電子化に取り組んでいる出版社もあります。ついには電子版しか出さないと言うケースまであります。
 この点で、書籍はずっと保守的です。
「ブックパス」「コミックシーモア」「ビューン」といった先行者たちは、主にマンガと雑誌でした。
 本格的に書籍の読み放題を打ち出したのは、「Kindle Unlimited」がはじめてと言ってもいいぐらいです。
 なにしろ、そのスタート時の混乱はまさに「黒船来たぞ!」的な感がありました。大手の出版社だけ、特別に優遇されている件が問題になったり、最初は読み放題に入れていた書籍がその後大量に外れていく、といった現象によって私も二ヵ月目にはいったん、やめてしまいました。
 その後、出版社によって読み放題にしたり、そこから外れたりと流動的に動いています。
 私は個人的には図書館的に「ずっとそこにある」と思っていたので、この状況はとても悩ましい。
 雑誌の読み放題は、「ビューン」「Kindle Unlimited」「dマガジン」「楽天マガジン」をすべて試し、いまは「dマガジン」に落ち着いています。雑誌に関しては、横断検索、トピックによる記事のピックアップなど、電子ならではの読み方が気に入っていますので、「dマガジン」はなかなか便利に使わせてもらっています。
 書籍の読み放題は、そういうわけで当初のみ。いまは利用していません。
 私はマンガをほとんど読まないので、マンガの読み放題も使わないのですが、シリーズで何巻もある本であるとか、マンガのように比較的短期間で読み進められるものについては、圧倒的に読み放題がお得になります。
 つまり、読み放題向きのコンテンツとそうではないコンテンツがある、と考えられます。
 ストックとフローの考えでいけば、フローなコンテンツ(次々と新しいものが出てきて古いものを自分で持ち続けるのが難しいまたはしたくない)については、読み放題が便利です。
 一方、ストックとしていつまでも手元に置いておきたい場合は、必要な本だけを購入するのがいい。そして「やっぱり紙」といったニーズが根強くあるのは理解できることです。

メリット「無名でも読んでみようか、となる可能性」

 これを電子書籍を売っていきたいと考えているセルフパブリッシングの観点から見ると、やはりストックとしての書籍であれば、電子でも紙でも読み放題よりは、通常の購入方式がいいと言えます。
 いや、むしろ私家本(しかぼん)として、少部数で高価な本を出すことさえも視野に入れていいと思っています。
 そもそもが、「Kindle Unlimited」に入れてもらおうと思ったとき、KDPによるセルフパブリッシングの場合、KDPセレクトに登録しなければなりません。KDPセレクトは、電子書籍としての販売をアマゾンに独占させることを前提にしており、他のストアでの配信ができなくなります(他で販売しているとアマゾンが確認したらセレクト扱いではなくなる)。
 一方、日本円で二百五十円以上の価格をつければ、最大七〇%のロイヤリティが見込めます。
 また、KDPで無料本を出すのは基本できないのですが、セレクトでは無料キャンペーン(期間限定です)もできます。通常、他社でゼロ円にしてプライスマッチによって無料化することが多いわけですが、セレクトはそもそもプライスマッチができないので、キャンペーンで、というわけです。
 アダルト向けの本とはいえ、「Kindle Unlimited」で六ヵ月で九百五十万円を稼いだ同人サークルが撤退して話題にもなりました。
 本の中でも、アダルト向けのものは、マンガと同様にフローな性質のコンテンツが多いでしょうから、読み放題には向いていると言えます。
 たとえばAV(アダルトビデオ)は、出演者の名前や監督の名前が必ずしも重視されるわけではなく(もちろんそういう作品もあるでしょうが)、パッケージであるとか要するにニーズに合ったものであれば、選択される可能性が高い商品です。
 読み放題となって「どれを読んでも同じ価格」であるなら、興味のあるものに片っ端から手を出してもいいわけです。
 この点で、セルフパブリッシングでは無名であるとか看板がないといった厳しい条件であっても、手に取ってもらえるチャンスが出てきます。
 最近ツイッターで知ったのですが、守下尚暉さんというセルフパブリッシングの作家がいます。」
 月に三十万KENP(後述)といった数字を達成し、累計で三千ダウンロード、二百万KENPを達成したというのです(二〇一七年十二月一日の著者のツイッター)。
 ここに活路を見出す、という考えもあっていいかもしれません。

デメリット「読者開拓につながっているのか?」

「Kindle Unlimited」のKDP本は、KENPという仕組みでページ数換算されます。読まれたページ数だけ支払う方式です。電子書籍にはページの概念はありませんが、KDPで本を出すと「紙の本の長さ」として概算のページ数が表示されると思います。
 つまり、その単位で読まれた分だけ支払うことになります。
 KDPでは価格を自分でつけられるのですが、このため、ページあたりの価格が高い本ほど読み放題では収益が減る可能性が出てきます。
 というのも、ほぼ一律で、「KDPセレクトグローバル基金」に蓄積された金額を、全世界のKDP本で読まれたページ数に合わせて分配する仕組みになっているからです。また上位の本(日本は含まれていません)にはボーナスが加算されているとのことですので、単純な割り算ではないようです。
 仕組みはわかるが中身はわからない、というのがアマゾンの経営方式なので、この深い部分は外部からは知りようがありません。
 ただ、スタートしてから、「一ページ当たり五十銭」といった話が一般的で、これは為替の変動で動くのかと思っていたら、そうでもないようです。
 つまり、二百ページの本を出し、定価を四百円としたとき。一冊売れて七〇%のロイヤリティなら、二百八十円が貰えます。
 読み放題で、二百ページ読まれたときには、それが百円となります。
 もっと定価が高くなれば、この差は大きくなります。
 七〇%のロイヤリティが貰えるギリギリの価格で二百五十円の場合なら、百七十五円なので、少し差は縮まります。
「読み放題に参加したら、それだけ収益が減ってしまうのではないか?」とか「売れるなくなるのではないか?」と考えても不思議ではありません。
 先に、ロイヤリティが「Kindle Unlimited」の開始によって飛躍的に増えたと教えてくれたセルフパブリッシング作家にこの点を質問してみました。
「最初は、こんなに読まれてうれしい、と思ったのです。それまで、売れるか売れないかしかなかったのですが、これによって毎日、何ページか読まれているとそこに読者がいることが実感できてうれしいですよ」
 ──それでも、損しているんじゃないですか?
「それも考えました。ですが、これは、私の代わりにアマゾンがKindle Unlimitedという仕組みで営業をしてくれているんだ、と思うことにしたわけですよ。私の力ではどう逆立ちしたってテレビCMなんて打てませんから。それに、ケタ違いにロイヤリティが増えているのは事実なのです」
 ──ロイヤリティの増加は一時的なものではないのですか?
「正直に言いますと、二〇一三年からKDPでの販売をはじめて、Kindle Unlimitedが登場するまではセレクトにしていませんでした。マルチストア販売を目指していたからです。ですが、その手間を考えているうちにズルズルと月日が過ぎ去り、Kindle Unlimitedのスタートを知ってセレクトにしました。結果として、通算のロイヤリティは、電子書籍として販売した金額の十倍を二〇一六年以降のKindle Unlimited(KU/KOL ロイヤリティ)で得ることができました」
 ──二〇一六年六月からですね。
「私は八月から始めました。ですから十五ヵ月の売り上げです」
 ──その分、単体の売り上げは減っているのでは?
「驚いたのは、Kindle Unlimitedに参加してしばらくして、単体の販売数も過去最高を記録しました。すばらしい月でした。二〇一六年の九月から十月ぐらいでしょうか。残念なことに、それ以後、それを上回る販売数に到達した月はありません」
 ──かなり落ち込んでいますか?
「それが、そうでもないのです。Kindle Unlimited以前にもまったく売れない月とかあるわけです。それに比べれば、悪くはありません。ただ、それを補うぐらいのロイヤリティが読み放題から得られるのです。金額ベースで見ると話になりません。読み放題をやめたら、元に戻るだけでしょう」
 ──十分の一になると?
「そうですね。たぶん。いまは読み放題をやめることは考えられません。むしろ、これまでの傾向では、Kindle Unlimitedでよく読まれていると販売も上昇するのです。これは、おそらく、読んでいる間に『買ってしまえ』と思ってくれるのではないか。翌月分の読み放題料金を払うよりは、購入したほうがいいと考える読者がいるからではないか、と思うのです」
 ──なるほど。
「数冊出していますが、まとめて購入されることも増えましたし」
 ──あと気になるのは「売れ筋ランキング」に読み放題もカウントされるのでしょうか?
「されていますね。大して売れていなくても、ページが増加していればランキングも上にいっていますから。ただ、なんとなくですけど、単体で売れたほうが大きく順位は上がることが多いです。読み放題のページはいきなりボーンと跳ね上がることはないですが、積み重ねで徐々に上がっていく感じなので……」
 私自身の展望としては、読み放題は読者の開拓に向いていると思っています。自分のブランドがある程度できるまでは、読み放題でとにかく、いろいろな人に読んでもらうことはメリットもありそうです。
 ただし、これが本当に読者の開拓につながっているかどうかは、よくわかりません。
 なんの気なしに眺めて終わっている読者もいると思うからです。読み放題のデメリットとしては、自分の読者ではないタイプの読者も手に取る可能性が高い点です。
 とはいえ、ミュージシャンでも街角で不特定多数の人向けに演奏することもあるわけです。ファンだけが集まるライブではなく、それ以外の人しかいない場所で活動することは、それなりに意味があることかもしれません。
 電子書籍は、書店で起きるような出会いがそもそもないので、それに代わるものとして読み放題も注目していいのではないかと思います。

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