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2-1 KDPで出してみて感じたこと

売れる電子書籍をつくるコツ 第2号より

 前著の『売れる電子書籍をつくるコツ 第1号』は、前著にあるようにデータづくりにあたって模索した末に発行されました。電子書籍はEPUB型式のデータにすることが基本になっています。ごく単純に言えば、文章データをEPUB型式にし、それを流通する各ストアに入れて、各ストア用に変換をされて読者へ届くのです。
 著者としては、パソコンなどで原稿をつくり、それをEPUB型式にすることが、電子書籍づくりとなります。
 私は試行錯誤の末に、パソコンのワープロソフトである一太郎で書き、修正、校正をしEPUB形式に書きだしたデータを、KDPでKindleのmobi形式に変換しました。
 本書も同じ方法を取っているのですが、その前段階が違います。
 原稿をつくる段階で、最初にWindows版のScrivenerを使い、下書きをした上で、一太郎で仕上げました。Scrivenerについては、『Kindleで小説出すならコレを読むべし・誰でも簡単に書ける!「ストーリーの書き方・入門」 』(桜風涼著、わたなべ けんいち編集)に紹介されていますので、そちらをご参照ください。
 前著を出版したあとに私がやったプロモーションは、フェイスブック(FB)での紹介、そしてネット出版部のFBページでも刊行をお知らせしました。ブログでも書きました。さらにツイッター(約二千七百フォロワー)で、毎日、Kindleストアのページにあるツイッターマークをクリックし、一言そえてツイートしました。
 その結果、一ツイートするごとに一ダウンロード程度の反応がありました。これは、五月に刊行して六月末までやりました。
 実はその頃には第2号を出す予定だったのですが、突然大量の仕事に忙殺されて、ノビノビになって今日(十一月!)に至ります。
 そこで一段落ということで、販売価格九十九円を百五十円に値上げして、以後、ほとんどツイートでの宣伝もしていません。それでも、おかげさまで百ダウンロードを突破しました。値上げ後(プロモーション終了後)も少し売れています。
 当初のもくろみである、「忘れた頃に第二弾を出して相乗効果」を上げようという作戦は取れなかったので、検証できていません。でも、今後は順次刊行できると思うので、ぜひどういう反応があるか、調べてみたいと思っています。
 そしてもっとも大きな教訓。「セルフパブリッシングは、締め切りがはっきりしないので、後回しになっていく」――このことだけは確認できました。これはホントに大敵です。この点のコツは本書でもあとで触れます。

読者としての視点

 この間、セルフパブリッシングの作品をいろいろと読ませていただきました。微々たるものではありますが、KDPで得た利益は、他の著者の作品を買うことで還元していこうと思っていました。
 市場を盛り上げるのは、自分たちしかいません。無料では市場はできません。価格をつけて流通させることで、市場になっていきます。その規模は取引額と量の掛け算ですから、どちらかがゼロだと、市場は存在しないことになります。ムリにでも価格をつけ、売るだけではなく、買うことで市場は機能します。売ったり買ったりを盛り上げることは、みなさんが出版する電子書籍が売れていく環境をつくることになるのです。ですから、電子書籍をつくって売る人は、同時に電子書籍を買う人になってください。
「無料のランチはない」(There ain't no such thing as a free lunch.)という有名な言葉があります。さまざまな解釈ができますけど、ただ乗り(free ride)はいつか自分に跳ね返ってくるでしょう。私は無料配布は基本的にせず、有料で売り、市場活動に少しでも加わっていこうと考えています。
 九十九円の本でも役に立ったりおもしろい本もあれば、五百円出して納得いかない本もあったりする世界ですが、これは価格にとらわれていると、マズイということを示しているだけで書店にある本と同じことです。「電子書籍だから」ということではありません。一千五百円の本で「失敗した!」と思うよりはまだ傷は浅いはず。急いでアマゾンのマーケットプレイスで売ろうとしたら、すでに出品出している人たちがいっぱいいて……なんてね。
 セルフパブリッシングの本には、「読みにくい本」だとか、読書をしようと考えている人から見ると「ブログっぽすぎて物足りない本」などもあります。それが必ずしも悪いとはいいません。読みにくさは、個性だったりもしますし、こちらの知識不足(リテラシーの欠如)が原因だったりすることも多いのです。そして「ブログっぽい」のも親しみがありますし、むしろ読みやすい場合もあります。
 ただ、このどちらもが、「お金払ったのに」という感覚が、意識するしないにかかわらず、頭にあるのです。
 ということは、たとえ九十九円でも、販売するからには最低限の品質と、あらかじめ読者にどれだけ本の内容をしっかり伝えておくことができるかが、大切ということになると実感しました。
 このような読者としての経験も本書に反映されています。「紙の本はこうなんだから、みんなこうしろ!」なんて言うつもりはありません。

編集の視点

 長年、編集者としてまた書き手として仕事をしてきた者として、「もう少しこのあたりを考慮すれば、もっと読みやすくなるだろうし、伝わりやすくなるだろうし、お金をいただけるものになるのでは」ということも感じています。
 どこをどうすればいいかは、百人の著者、百冊あれば百通りなので、いちがいには言えませんが、それにしてもベーシックな、共通する部分はありそうです。
 そこで編集者的視点、ライター的視点からも、「こういう工夫はいかがでしょう」ということを本書で書いていこうと思っています。また、通常、あたりまえにやっていること、ちょっとしたコツにも触れていきます。
 原稿は、やっぱり「書きっぱなし」はよくありません。推敲を進めるのは当然ですが、編集の時間をしっかり取った方が、いい本になっていくのは事実です。そのあたりのことをこのあとしっかり書きます。

メーカーの視点

 もう一つ、大切な視点だと感じたのが「メーカー」としての視点です。セルフパブリッシングでは、書き手が編集者でもあり出版社、つまりメーカーでもあるので、製造業です。さらにプロモーションも手がけるとなると、販売会社でもあるのです。企業でも製造部門と営業部門は通常、はっきり分けています。それは効率の問題もありますが、それぞれの行動の基準が違うので、一緒にやるにはムリがあるからでしょう。
 一人で書いて、編集して出す、そこまではできそうですが、そのあとまでメーカーとしてふるまえるかどうか。販促、プロモーション、顧客対応、クレーム処理などなど。
 どこまでやり切れるかで、電子書籍も売れるか、売れないか、左右されそうです。もっともこの問題は既存の出版社でも言えることで、編集ばっかりで営業が弱いところもけっこうありますから、構造的な課題なのかもしれません。私自身、社会人一年生はOA機器(懐かしい響き)の営業からスタートしましたので、営業の大変さはわかります。その上で、記者や編集者になったら妙に生意気になって「営業じゃなくて編集がやりたい!」とわがままばっかり言っていましたけど、それが組織から徐々にズレていきフリーになってしまった原因ですが、フリーになったら当然、営業もしないわけにはいかず……。ビジネスはすべて営業にはじまり、営業に終わるわけで。セルフパブリッシングも例外ではありません。
「売れる」ためになにをするか。どんな営業をするか。
 このあたりもよく考えておく必要があります。

「とにかく電子書籍を出してみよう!」というのが、このシリーズ共通のメッセージです。一度、やってみれば、いろいろ見えてくるからです。
 というわけで、紙の本と電子書籍に関わっている編集者の視点と、自分なりにKDPでセルフパブリッシングをやってみた視点の両方から、「売れる電子書籍をつくるコツ」について、お話していきましょう。

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