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ほりぶん『得て』評【「テレビブロス」2016年1/13発売号】

 作・演出の鎌田順也氏はとにか

く多作で、主宰する劇団「ナカゴ

ー」は本公演の合間にも特別公演

をよくやるし、「大ナカゴー」と

いう名前をつかったこともあるし、

もはや全貌がわからないほど多く

のユニットに参加している。鎌田

順也らしさは通奏低音として常に

あるのだけれども、味わいは同じ

ユニットであっても毎回ちがうか

ら友達にすすめるのに勇気がいる。

 当たり外れがあるというのとは

少しちがう。徹底度は毎回ゆるぎ

なく物凄い。その徹底度の方向性

が肌に合わない人には地獄だろう。

 ほりぶんはそんな鎌田氏が、女

優の墨井鯨子、川上友里(劇団「は

えぎわ」)と立ち上げたユニット。

第二回公演の『得て』には加えて

上田遥(劇団「ハイバイ」)、木

乃江祐希(劇団「ナイロン100

℃」)も客演。人の顔をなかなか

覚えない私でも一度で覚えてしま

う個性的な佇まいの女優陣だ。

 ほりぶん第一回公演『とらわれ

た夏』は2015年2月の上演だ

ったのにも関わらず数年前に観た

気がするくらい遠い記憶になって

いるが、私はツイッターに以下の

ような感想を書いた。《ここまで

出演者が全力疾走し続け一瞬も休

まない狂った舞台は(略)FUKAI

PRODUCE羽衣くらいしか知りま

せん。客席に羽衣出演者が四名以

上いたことは偶然ではないでしょ

う。》《笑う瞬間と怖くなる瞬間

が交互に来る感じだった鎌田順也

氏の作・演出ぶりも今や「笑うと

同時に怖くなっていた」みたいな、

もはや病いかもしれない状態を延

々つくりだしてしまった。私は体

調が万全でなく気が遠くなりなが

ら観たけれど、鼻血が出そうな若

者たちが今もっとも観るべき舞台

だと確信します。》第二回公演も

感想は同じで、「緩急」などとい

う考え方のない世界だった。「急」

だけ。

 一緒に行った旅行中に急逝して

しまった友人。彼女が残したビデ

オテープを皆で観ることで、とん

でもない恐怖を味わうというシン

プルな構造の話なのだが、新しい

発明を見せられたかのように新鮮

だった。むろん有名なホラー映画

の前例を踏まえていることは知っ

ているが、これ、思いつきそうで

なかなか気づかないアイデアです。

再演があるかもしれないので未来

の観客のために詳細は伏せますが。

 テレビブロスでおなじみの漫画

家・河井克夫氏もツイッターで、

《どう面白かったかというと、も

し俺がシャマラン監督の連絡先を

知っていたらメールして薦めるの

に、という面白さ。》と書いてい

た。たしかにシャマラン監督は、

このアイデアに嫉妬して泣きそう。

 構造がシンプルだから女優陣の

狂おしい演技が舞台の命なのだけ

れど、どうやって稽古したのか想

像できないほど熱演だったと思い

ます。あんな目に一生あいたくな

い。それにしても鎌田氏は「小集

団の権力者(飲食店の店長など)

が部下たちとセックスしまくって

いる」という話が好きですね。ト

ラウマでもあるのでしょうか。2

016年も「作・演出=鎌田順也」

に、ついていきます。(枡野浩一)


ナカゴー評はここ。https://note.mu/masuno/n/n4d4729ba619d

覚え書き。2017年の『得て』再演は大評判で、松尾スズキさん、ケラリーノ・サンドロヴィッチ‏さん、前田司郎さん、山内ケンジさん、戸部田誠(てれびのスキマ)さん、佐久間宣行さんらがツイッターで熱い感想を書いていました(いとうせいこうさんも初演に言及)。傑作が知られるまでにはやはり時間が必要ということなのでしょう。阿佐ヶ谷という場所が比較的アクセスしやすかったこともプラスに作用したのでしょうか。私は鎌田氏の先生だった作家の長嶋有さんにナカゴーを紹介され、八年くらい前からほぼ欠かさず公演を観ています(鎌田氏に助けられたり。『ベネディクトたち』『牛泥棒』『ホテル・アムール』『もはや、もはやさん』あたりが特に好きです。鎌田氏が裏声で心なく劇団員を出迎える出演作、なんだっけ、もう一回観たい。笑えないほど突き抜けて狂おしい作品もあり、初めて触れるかたは事前情報を確認してから予約したほうが安全かも。ただし人気あるのに作品の性質上、比較的小さな劇場でばかり公演するから、チケット売り切れに注意。

もしお役に立ちそうな記事があれば、よろしくお願いします。