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あえて「ヨイショ」する―「夏の騎士」

先日、新潮社が出版した百田尚樹氏作の「夏の騎士」の感想文キャンペーン。作品を褒めちぎるという「ヨイショ」企画だったが、批判が相次ぎ1週間を待たずに中止になった。

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なぜ中止になったのか、理由は定かではないが、褒めちぎる行為に関しては私自身、疑問を募せる。しかし、批判された際に新潮社がこの企画の意図を明確に発信すれば、中止にまでしなくて良かったとも思う。そこにこそ問題があるのではないだろうか。

さらに残念なことを言えば、この騒動で百田尚樹氏に対する「色眼鏡」がより際立ってしまったことである。同氏のツイッターアカウントでの呟きはもともと政治色が強く、波紋を大きく呼んでいた。そのため、「百田」と聞いただけで、疑心暗鬼になる人も多いと思われる。

ただそれは、SNS上の問題なので、百田氏の作品を評価するには深く直結しないのではないかと思う。この線引きを改めてする必要がある。現に、私は百田氏の作品を何冊か読んでおり、(幸福な生活、海賊と呼ばれた男、永遠のゼロ)ほんの一部にしか触れていないが、どの作品もとても面白い。

そこで今回、新潮社が企画したキャンペーンで扱った百田氏の作品「夏の騎士」を読んだので、その感想を簡単に書こうと思う。

エピソードとしては、クラスで「落ちこぼれ」だった小学校高学年の子が、2人の仲間とともに「騎士団」を結成し、自分たちのクラスのマドンナに忠誠を誓うところから始まる。そこでそのマドンナから、「模試で100番以内を取れ」という難題を突きつけられる。騎士団はそれを遂行しようと、必死に勉強することとなるがなかなか上手く行かない。そんな彼らに手を差し伸べたのが、同じクラスの別の女の子。騎士団を当初バカにしていた彼女だったが、文化祭で騎士団リーダーと一緒にステージで踊ることにより、2人は信頼し合う関係に。そして、女の子の力を借り、猛烈に勉強した騎士団はマドンナの難題を突破する。達成感に満ちた騎士団メンバーはこれを機に解散を宣言。しかし、模試が終わった後、彼らの拠点だった「秘密基地」にて事件は発生することになる…

キャッチフレーズにある通り、この作品からは「勇気」を感じた。誰かにバカにされても挫けない諦めない心があれば、人は変われるというメッセージ。

しかし、教室内の弱者というものは単純に努力することが可能だろうか。今日、新聞を開けば、重くのしかかる「不登校」の3文字。狭い教室の箱の中ではどうしても陰と陽がはっきり分かれる。筆者が通っている大学では、多様なフィールドがあり、陰と陽の区分けはそこまで明確ではなく、誰も気にしない。したがって、いじめはあまり見受けられないが、小学校となると話は大きく変わる。いじられている子は、あの箱では苦しい思いをする。私も同様の経験をしているので、なおさらである。

このような今日的状況では、今回の作品で勇気を感じることはできないと思うかもしれない。しかし、そこはよく読まなければならない。この作品の言う「勇気」とは、急に湧き出る突発的行動ではない。むしろ逆で、着実に小さなことを積み重ねた結果によるものなのである。より迫った言い方をすれば、「いかに筋を通せる行動」ができたかということである。今回の作品なら、当初騎士団をバカにしていた女の子は、その悪口によってみんなから疎まれていた。しかし、実はその女の子は自分から悪口を言ったことがないのである。逆に女の子は家庭の事情などで周りから悪口を言われている方。なので、女の子は言い返しているだけなのである。これは筋が通っていると言えよう。騎士団リーダーはそれをすぐに理解し、彼女に対する「色眼鏡」を外すことができた。これもまた筋が通っている。その結果、彼女と触れ合うことができ、騎士団は例の難題を突破することができた。

騎士団を結成するにしても、教室内の弱者であった主人公が同じ境遇にいる仲間とともに、始めた小さな行動だ。周りに流されず小さな筋の通った行動が今回の「勇気」には集約されていると思われる。ただ、本当に「勇気」が発揮される場面は物語を最後まで読まないと分からない。この記事では割愛しようと思う。

「勇気」とは、色眼鏡をまず外し、小さな行動の積み重ねによるものだと思う。百田氏の真意にこのことが隠されていることを願いたい。

「ヨイショ」キャンペーンで我々は新潮社をはじめ、百田氏に大きな「色眼鏡」を持ってしまったのかもしれない。しかし、この作品の主人公のように、その巨大な色眼鏡をすぐに外すことができたら、今回の作品の世界はとてもつもなく壮大なものになると考えられる。百田氏の政治色から1回抜け出して、この作品を読むべきだと思う。百田氏への批判はその後でも遅くは無かろう。

あのキャンペーンはひょっとしたら、色眼鏡を作らせるための布石? いやちよっと考えすぎか。感想はこれにて終わらせていただきたいと思う。

#読書 #百田尚樹 #夏の騎士 #読書感想文 #新潮社 #ヨイショ #エッセイ #勇気

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