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タレント政治家たちの落選と、「れいわ・N国党」の台頭は何を意味するか

今月21日に、参議院選挙が行われた。
「与党」と呼ばれる自民党と公明党が124議席中の71議席(全議席の57%)を獲得し、そして「野党」と呼ばれる立憲民主党や日本維新の会などの「野党」が53議席(43%)を獲得した。

選挙期間中から「盛り上がりに欠ける」「争点が分からない」と言われたこの参院選は、投票率48.8%というワースト2位の低投票率となった。一方で、全124議席中では2%程度の議席しか獲得していない山本太郎率いる「れいわ新選組」や「NHKから国民を守る党」が選挙期間中から徐々に話題を集め、投票日を終えてから1週間以上たった今もなお、話題を総ざらいにしている。

こうした現象から、いったい何を学び取れるのだろうか。
投票は、言ってみれば日本1億人の「アンケート」だ。今の日本にどんな課題を感じていて、日本の将来を作っていきたいか。それを理解する教材としてとても適している。


「タレント政治家」が相次いで落選する

山本太郎率いる「れいわ新選組」や「NHKから国民を守る党」の躍進の裏で、個人的に驚いたのは「タレント政治家」の相次いで落選したことだ。
衆院選と比べ、「都道府県」や「日本全国」という広いエリアを選挙区とする参院選では、そもそも「候補者の名前を知ってもらうこと」が重要になる。選挙区が狭ければ、街頭演説や選挙カー、チラシの配布など「人海戦術」的に知名度を上げていくことができるが、参院選ではそれが難しいからだ。そのため、元から知名度の高い芸能人(特にアナウンサー、スポーツ選手、歌手、お笑い芸人)は、選挙において当選しやすいと思われてきた。

しかし、今回の参院選を見ると、立憲民主党からは元モーニング娘。の市井紗耶香氏、RAG FAIRの奥村政佳氏、「筆談ホステス」として知られる斉藤りえ氏が相次いで落選となった。自民党からも元F1レーサーの山本左近氏、タレントのらくさぶろう氏(愛媛県のローカルタレントとして地元では知名度抜群。友近ともコンビを組んでいた)、国民民主党からもにしゃんた氏らが落選となっている。また、現職だった弁護士の丸山和也氏も落選していた。(斉藤りえさんは、僕自身が前に秘書を務めていただけに、落選したことに本当に驚いた)
今回、新人で当選したタレント政治家は、格闘家の須藤元気氏くらいだった。


当選・落選の予想が難しい「全国比例」

らくさぶろう氏とにしゃんた氏を除く落選したタレント政治家は、「日本全国」を1つの選挙区とする「全国比例」で立候補している。
特定の都道府県ではなく、日本全国どこからでも投票できるため、選挙の際には候補者自身も「街頭演説をどこでやろうか」「どこで選挙カーを走らせようか」と悩む難しい選挙制度だ。日本全国をくまなく回るのは不可能だし、かと言って、特定の地域だけでは当選に必要な票数を集めることができない。(だから、「全国比例」を使って立候補する政治家は「○○業界の代表」「○○組合の代表」など、いわゆる「業界団体の代表者」が多い)
こういった難しい選挙制度だから、事前に当選・落選を予想することも難しく、きっとタレント政治家たちも暗中模索な選挙戦だっただろう。

「投票に行く人」がマイノリティに

そして、投票箱を開けてみると、落選。
今回の投票率は戦後ワースト2位の48.8%。もはや「選挙に行っていない人」の方が多く、「選挙に行っている人」がマイノリティで普通じゃない人になった。ほとんどの人は選挙に興味がなく、投票に行った人たちも、そもそもタレント政治家が立候補していることを知らなかったのだと思う。

加えて、前回の参院選の頃から、「知名度があるだけのタレント政治家は、果たして、政治家として成果を出しているのだろうか」という厳しい目で見られるようになってたのではないか。文春砲が相次ぐ中、政治家への目は日々厳しくなっている。知名度があるタレント政治家は、他の政治家よりも「悪目立ち」してしまい、厳しい目で見られているように感じる。今回の参院選に限っていえば、かえってマイナスになっていたのかもしれない。

これまでは、特定の支持政党を持たない、いわゆる「無党派層」と呼ばれる人たちが、「知っているから」という基準でタレント政治家に投票してきたかもしれないが、そもそも今回は投票にすら行っていないし、投票に行った人も「知っているから」というだけの基準では投票用紙に名前を書かなかったのだろう。


「イシュー」ドリブンな政治家の台頭

こうしたタレント政治家の落選とセットで台頭してきたのが、山本太郎率いる「れいわ新選組」や「NHKから国民を守る党」だ。
勉強のために(半分は趣味で)、全党の政見放送や街頭演説を見に行ったが、この2つはどちらも突出して話がわかりやすかった。
「NHKから国民を守る党」は「NHKをぶっ壊す」(NHKを受信するか選べるスクランブル化の達成)というシングルイシュー。
そして「れいわ新選組」はALS患者、重度障害者の当事者2名をシンボルに「消費税廃止」「奨学金チャラ」など。

各党が総花的に(政権を担う上では重要ながら)複雑で難しい政策を掲げる中、この2つの政党は分かりやすい。「れいわ新選組」の街頭演説では「分かる分かる」「あるある」と頷きながら聞いている観客の姿をたくさん見た。
おそらく、「れいわ新選組」の当選した2名の政治家の名前や「NHKから国民を守る党」の党首の名前を知らなくても、この2党の首長に共感して投票した人は、大勢いたのではないだろうか。立候補している政治家の人柄や政党への支持以上に、その政党が掲げている「イシュー」に共感する人が多かったのだろう。


「共感」「一体感」を最大限に

さらに、れいわ新選組は、「共感」を生む演出もうまかった。僕は新橋駅のSL広場で行われた街頭演説を見に行ったのだが、「特等席」とされたのは、JR山手線の駅ホーム。2階にある駅ホームは、街頭演説を聞くSL広場からは見上げる位置にある。僕もその輪の中にいたのだが、「特等席」の2階の駅ホームにも支持者がチラシを持ち、SL広場を囲んでいる。思わず、「おお、こんなにもたくさんの人が演説を聞いているのか」と感じる。
そして、マイクを持つ山本太郎は、参加者への問いかけも多い。「この中に、消費税が上がって嬉しい人いますか?いないですよね?」。そして反響があれば「あなたの質問、苦言、お知恵が山本の政策につながるんです」とリアクションする。


掲げる政策、会場の演出、そしてSNSの活用。「共感」「一体感」を最大限にしていた。

知名度のあるタレント政治家は身近な存在ではないし、わざわざ投票するほどのリアリティもないが、自分も当事者性のある「イシュー」を掲げている政党が共感を呼ぶ。そして、参院選の全国比例のように「広い地域から薄く票を集める」選挙制度と相性が非常に良く、その結果、当選という結果に結びついたのだろう。


今回の参院選は、タレント政治家が落選し、その代わりに特定のイシューを掲げる政党が台頭してきた。そんな節目だったように思う。
そして、この背景には「一億総中流」が崩れ、特定の不満を持つ層が増えてきたからこそ、共感する人が増えているとも言える。

「れいわ新選組」の獲得議席は衆議院・参議院の合計722議席のうち、わずか2議席(0.27%)、「NHKから国民を守る党」は1議席(0.14%)に過ぎないが、今回の参院選は政治史的には1つの節目となったかもしれない。

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