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マタギの館 第六話『予知能力』


キイィィ~

皆さま
マタギの館へよくお越しくださいました|_-)))

今宵は
昨夜のエレベーターの話の中にも出てきました
集金のアルバイトをしていた時のエピソードを
聞いていただきましょう…|_-)))

皆さんは
こんな事を考えたことは
ないでしょうか。

“もしも予知能力があったら…”

これから先に見える
人の運命…
自身の運命…
果たしてそれは本当に良い事なのでしょうか…

第六話
『予知能力』

約15年位でしょうか。集金の仕事をしていると、実に様々なお客様と接する機会がございました。
もちろん良いお客様だけではありません。ほんの一握りですが、クレーマーの様なお客様もいらっしゃれば、なかなか支払いをして下さらないお客様もいらっしゃる。

それとは別に、そのお宅、お宅の事情もわかってまいります。
家族構成、生活パターン、収入のある日、お財布事情…

15年は更に、出会いと別れを繰り返してまいりました。別れとは契約期間が切れる…という意味ではございません…

そう、お客様の『死』でございます。

本業の介護職ならまだしも、まさか、たかが新聞購読料の集金業務で…という程に、私は多くの別れを経験した様な気がいたします。
長年購読してくださる年配のお客様も多かったせいか、いくつもの別れを経験してまいりました。

毎月、当たり前に顔を合わせるお客様。
何気ないやり取り。
お顔を拝見しないと思えば病気をされたと聞いて。
そして痩せていかれて…

次の月には
        会えなくなる。

とある団地の60代のご主人様も、その中のひとりでございました。
曲がった事の嫌いな頑固者。怒鳴られているのかと思う程大きな声で話され、そして最高の笑顔で集金人の帰りを見送ってくださるそんな方…
建設作業員をしておられたご主人様はある時、仕事中での怪我での入院をきっかけに病気がみつかり、治療の甲斐もなく数ヶ月後にお亡くなりになりました。
ご主人様がご存命の頃は集金にお伺いしても、奥様とは軽く世間話程度だったのですが、余程寂しかったのでしょう。集金の度に奥様は、ご主人様のお話や身の上話をこの私にされる様になりました。

最低でも30分、長い時は一時間以上話し込まれる事もございました。私も仕事中でまだ回らなくてはならなかったのですが、時に涙を浮かべ話されます。なかなか集金業務に戻りたいと申しあげる事が出来ない日が幾度かございました。

奥様の話はこの様な内容でございます。
奥様はお亡くなりになったご主人様とは再婚で、嫁に出したひとり娘がおられるという事。
自分は昔から精神的に弱く、一度目のご結婚の時に夫となった男に肉体的、精神的暴力で支配され、それがきっかけで心身悪くされ、今も手足の不自由な生活になってしまった事。
親戚とも色々な問題があり、常に自分はひとりぼっちだと…
しかし今のご主人様と出会い、献身的に尽くしてもらい元気を取り戻したと…
そして、定年後はご主人様の好きな釣りに、一緒について回りたい…そんな矢先、この様な事になってしまった…

とにかく辛いと…

生きていたくないと…

その時奥様は、保護された犬や、猫を飼っておられました。ただこの後生きる意味は、この子達の世話をして見とる事だと。それだけを使命に生きておられる…そんな風にお見受けいたしました。

またある時は、隣の住人に対し強い嫌悪感を抱かれ、しきりにその住人の悪口を話されました。
実は、その隣のお宅へも集金で何度かお伺いした事がございます。50代らしき当時父子家庭、息子さんと暮らしていた男。とにかく留守が多い、金払いが悪いで、集金時も大変苦労しておりました。ご近所でも色々問題を起こすと噂される様な人物で、その奥様のおっしゃる事も私は理解はできない事はございませんでした。

そんなある日の事です。
いつもの会話の中で奥様はこの様な話をされました。

“実は自分にはある能力がある…”

その能力というものが、人の病がわかる…というものでございました。
例えば自分の周囲のある方がこれから病にかかるのだとしましょう。すると、その方を見ると
ふと、自分の頭の端にその病名、もしくは何処が悪いのかが浮かびあがり、今までにそれで何人もの方の病がわかったのだとおっしゃいます。
その能力で、ご主人様の病、そして、今は骨髄移植で元気になられているそうですが娘さんの白血病もわかったのだとか…
しかし奥様はおっしゃいます。

“病がわかるだけで、それを未然に防げた事はない。皆、命を落としていった。わかったところで何になるのか…”

残りの契約期間が終わり、生活が苦しいので…と次の契約は断られその方とのご縁はそこまでとなりました。
正直なところ、奥様に振り回されていた私はほっと胸を撫で下ろしました。
真偽の程はわかりませんが、病がわかる能力がある…と言われると私自身の事まで見透かされている様な気がして怖くなったからでございます。

“つまり、私は
奥様には予知能力があるのではなく、奥様と関わるとなんらかの病で命を落としてしまうのではないか…”

そんな風に考える様になってしまっていたのでございます。

それから…

拡張員の取ってきた契約書に奇妙な一枚が含まれていた事で、販売店の面々がざわつく事態が起きたのは、あれから数年経っていた頃でございました。
その内容は、こういったモノでした。

“その団地の部屋番号は、あの奥様の番号…
そして、その契約者名は
隣に住む父子家庭の男のモノ”
だったのです!

そう、
奥様はその数年の間に隣に住む嫌悪感を抱いていた男といつの間にか一緒になっていたのでございました。
訳がわからず、いや、仕事なので集金に行かない訳には、まいりません。集金伝票を見ると契約期間は2年間でございました。なんとか2年やり遂げなければ…

それから暫く、奥様の家にお伺いすると『隣の男』が出てくるという、当たり前と言えば当たり前なのですが、なんとも言い難い集金業務をこなしておりました。正直、私は奥様の事が理解出来なくなっていました。
恐らくは、身体の不自由な自分を助けてくれる相手が必要だったのだとは思うのですが、とてもその男をご主人様…とは思えません。やはり私の中ではその男は『隣の男』としか思う事ができなくなっておりました。

集金にお伺いし始めて半年程経った頃でございます。『隣の男』の様子がおかしい事に気付きました。

そう、みるみる痩せていったのでございます。

まさか、と思うのと同時に
             やはり、という予感…

やはり奥様は…

奥様は…


『隣の男』自身が「ホスピスへ入るので新聞を止めて欲しい」と販売店へ連絡を入れたのは、契約期間を残り数ヶ月残した頃でございました。
奥様は自分名義の契約ではないし、余裕がなく支払いは出来ないとので、と購読を断るも、値下げしてでも残りの契約期間をとっていただかなくては、と販売店が奥様に交渉し
結局、契約終了まで私が集金を担当することになってしまったのです。

残り数ヶ月分は、まとめてお支払いたいとの事で、お伺いした最後の集金の日…

奥様が玄関口に立たれました。いつも『隣の男』が支払いに出てきていたので、奥様とこうやって顔を突き合わせたのは何年かぶりになっておりました。
奥様はここ数年だが一緒になった『隣の男』の話をされ、(今飼っている)犬、猫の世話もしない事…前のご主人様と違い料理も出来ない事…等一通りまくしたれられました。そして最後に

“あんな人でも、居なくなったら寂しいもんだわね…”

と…『隣の男』の死を教えてくださいました。

そんな話を聞きながら私は、
奥様の周囲の人々の災いも、きっと私の考え過ぎなのかもしれない、と思いました。
たまたま亡くなられた方が続いただけ、生きていれば、いずれは皆、死んでいくのだから。
だって、娘さんは骨髄移植で元気になられたのだもの。
お婿さんもとても良い方だと聞いていたので、せめてこれからは近くでお暮らしになれば良いのに…

そんな事を頭の中で思っておりました。
すると、奥様が次の瞬間、口を開きました。

「娘もあれから再発して、
                                もう居ない…」


娘さんが亡くなられた事を聞いた瞬間背筋が凍り血の気の引くのを感じました

奥様のそれが、
予知能力であったのか
あるいはなんらかの力が働いたのか…

それ以来、私は関わりがなくなりましたので
真相は闇の中…

ただ、今でも
奥様が住んでおられる団地の前を通る事があるのですが
そんな時はいつも
あの事を思い出してしまうのです…|_-)))


では
次回もマタギの館で
お会いしましょう…|_-)))

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