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セッションデータ(Aの魔法陣)の記法から見た、「良いTRPGシナリオの書き方」

 昨日のアドベントカレンダー記事は薩摩和菓子さんの「『マモノスクランブル』で無機物や概念的なものと戦おう」でした。
力作でしたね! この後に続く記事を書くのはなかなか大変ですね!

 ちなみに、僕がよく遊んでいるAマホ(Aの魔法陣)は、判定とセッションデザイナーとプレイヤーであらゆる事象をゲーム化するゲームなので、
参加者の合意が取れれば、概念と戦うことは普通にできます。概念というのは例えば、心の闇 とかですよね。
心の闇を払うシナリオを書く場合、Aマホではこうします。

我はこれよりM*から始まる冒険の解を問う
M*心の闇を払う 難易度5

 こんな感じです。(上記の難易度5は、プレイヤー1人が頑張って全力出してクリアできるぐらいの難易度です)

 というわけで本題です。TRPGファンの皆さんこんにちは! 皆さんシナリオは書いていますか? 私は書いていません! 
私の好きな「Aの魔法陣」、通称AマホというTRPGには、シナリオのようなもの(セッションデータ)はありますが、それはシナリオとは呼ばれません。
セッションデータはシナリオとは明確に違うものなので、この場ではセッションデータの書き方についてを解説しますね。

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 その前に、そもそもAマホって何よ。という人のために、ちょっと説明します。

 Aの魔法陣(通称Aマホ)は、ゲームデザイナーでSF作家の芝村裕吏さんによってデザインされたユニークなTRPGシステムです。
 このゲームは、他のTRPGとは異なり、ゲームマスターのような役(セッションデザイナーと呼ばれる)が通常のゲームマスタリングをせず、プレイヤーが状況を語ることが認められています。
 セッションデザイナーは、時間管理、プレイヤーの設定に対する承認、世界観の基準の設定、質疑応答、判定の管理などを担当します。

 プレイヤーは、他人の話を聞き、自分の考えた話を事前に出た設定に矛盾しないように加え、セッションデザイナーの要求に応じて判定を行います。
 ルールは比較的シンプルで、成功要素の概念を理解すれば容易に参加できます。
 成功要素とは、キャラクターの能力や特徴、技能やコネクションといった、キャラクターが判定を成功させる要素をまとめて一つにした概念です。

 また、Aの魔法陣には「事前に設定として出ていない部分の設定は、早い者勝ちで設定できる」というルールがあり、セッションにおいて事前に提示されていない部分はプレイヤーが決定できます。
 もちろん、プレイヤーは何を言ってもいいわけではありません。セッションの開始時にはセッションデザイナーが状況を設定し、その後プレイヤーが参加します。このアプローチにより、初期設定に対する全員の合意が容易になります。

 そして、Aマホのセッションは「課題型」と呼ばれる方式で進められます。これは、セッションを「M*から始まるゲームの目的」と呼ばれるタスクに分割し、それぞれをクリアすることで物語が進行します。
 例えば、「M*平和を感じてほのぼのする」といったタスクを設定し、プレイヤーがこの目的を達成するために自分のキャラクターの特徴(成功要素)を使ってシーンを創り出すことが求められます。
 このようにAマホのセッション内には明確な目標と進行があり、プレイヤーは達成感が得やすい作りになっています。

 というわけでAの魔法陣は、プレイヤーとセッションデザイナーの間の相互作用に重点を置き、プレイヤーにより多くの物語創造の自由を与えることで、独特のプレイ体験を提供しています。
 (この特徴は、洋ゲームテイストのシビアなステージ構成をすることでより強く光りますが、ここでは割愛します)

 Aマホは、その最小限で速い判定処理と広大な世界観、プレイヤーの創造性とセッションデザイナーの支援に重点を置いたシステムにより、多くのプレイヤーに支持されています。
 AマホとはTRPGの新しい可能性のひとつなのだ、と言えるでしょう。

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 シナリオとセッションデータを分けるものの差はいくつかあります。

1.シナリオには誘導(プレイヤーキャラクターに対する強制や誘惑に関する記述)があるが、セッションデータには誘導がない。
2.シナリオにはプレイヤーに対して秘匿される情報があるが、セッションデータはすべて公開される情報である。

 Aマホの場合、卓の参加者が状況の設定を提示できるので、セッションデータ側で状況設定を全部書くと、窮屈なゲームになるんですよね。
(Aマホの場合、早い者勝ちで設定を卓に出してセッションデザイナーが承認したものは、以降ひっくり返すことができない)
なので、Aマホのセッションデザイナーは最初にプレイヤーにセッションデータを公開しますが、状況設定はあまり描写しません。
その代わり、プレイヤーが行った設定をよく聞き、難易度だったり、成功要素の抽出(プレイヤーが提出した成功要素を採用すること)の度合いを調整したりします。
つまり、Aマホのセッションデザイナーは、プレイヤーの話を聞くことが一番大事な仕事なのです。

 このことを突き詰めると、面白いセッションデータとはどんなものかが分かります。
結局のところ、面白いセッションデータとは、無味乾燥で、セッションデザイナーの誰もが理解でき、データ作成者の意図をプレイヤーのいる卓の中で再現できるものです。
セッションデザイナーはセッション中、プレイヤーの話を聞くので忙しいわけですから、セッションデータはもちろん事前に読んでおくのは当然としても、当日はチラ見ぐらいしかできません。
なので、面白いセッションデータには読み上げる用の描写や、セッションデザイナーが担当するキャラクターのセリフなどは書いてありません。
描写の適用できる状況にいない可能性は十分にありますし、キャラクターが出ない場合も十分あり得まるからです……

 これらの(セッションデータを作るうえでの)ノウハウは、裏を返せば、面白いシナリオとは何かを考えるうえでのヒントになるかもしれません。
これまでの話をもとに、良いシナリオとはどんなものかを書いてみましょう。

1.良いシナリオには、誘導(プレイヤーキャラクターに対する強制や誘惑に関する記述)がある。
2.良いシナリオには、プレイヤーに対して秘匿される情報がある。
3.良いシナリオには、状況の設定が念入りに記載されている。
4.良いシナリオには、状況設定に即した難易度や判定基準によって難易度設定されている。
5.良いシナリオには、状況設定に即した描写が用意されている。
6.良いシナリオには、ゲームマスターが担当するキャラクターのよくあるセリフなどが書かれている。

どうでしょうか。皆さんの良く触れているTRPGシステムのシナリオには、こういった内容は書かれているでしょうか?
そのうえで、セッションデータを作るうえでのノウハウから、シナリオ作りに共通で使えそうなノウハウを追加してみましょう。こんな感じでしょうか。

7.良いシナリオには、シナリオ製作者の意図が理解しやすく書かれている。
8.良いシナリオには、ゲームマスターがチラ見で済むように要点が整理されて書かれている。

このあたりを押さえたうえで、良いシナリオを書けるといいですね。私も頑張ります! 
皆さんの書いた良いシナリオで、皆さんのTRPGライフが盛り上がることを祈念しています。

さて明日のアドベントカレンダー記事は、しぎさんの「ソロジャーナル:ゴートバーン」だそうです。楽しみですね!
アドベントカレンダーのURLはこちらです。ほかにも素敵な記事が盛りだくさんですので、読んでみてくださいね!
https://adventar.org/calendars/8654

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