存在しない女性と恋をする

僕のライフワークは妄想だ。といっても医学的な意味での妄想ではない。
空想に近いと思う。ただ、妄想と呼んだ方がなんとなくしっくりくる。

本を読める年齢を超えてから、様々な架空の女性との恋愛の妄想をしていた。「彼女」は漫画やアニメの登場人物であったり、時には学習漫画に出てくる歴史上の人物であったりした。他人に話せるような趣味ではない。だけど、その妄想はままならない現実を生きる僕を慰め、癒し、元気づけてくれた。

僕は現実の女性と恋愛関係になったことはない。何回か告白したことはあるのだが、お断りされた。稚拙なことだったと思う。何年も経ってから、「あんなコミュニケーションでは無理だよな…」とほろ苦く思い出している。

正直に言って、僕が今後の人生で女性と交際できる可能性は限りなくゼロに近いと思う。スーパーマリオの1-1ステージ、Bボタンでジャンプすることを知らずに僕はクリボーに突撃を繰り返していた。ゲームには説明書もあるし、押せるボタンもある。だけれども、現実の恋愛においてBボタンが何なのかが僕にはわからない。説明書があるのかもしれないが、それは僕には読めない文字で書いてある。

50年ほど前に生まれていたら結婚できていたかもしれないな、と思う。でも、残念ながら僕は現代社会に生まれてしまった。ならば、仕方ないじゃないか。ゆっくりと孤独に歩いていくしかない。林の中を歩いていく象のように。

先日、臨床心理士の先生にこういった趣味があることを打ち明けた。「褒められたもんじゃないですよね…」と照れ隠しで笑う僕に、先生は「その時間はあなたにとってとても大切な時間だと思いますよ」と真剣な顔で言った。

僕と同じように、恋愛ができないことを空想や創作物でやり過ごしている人は結構いるんじゃないか。もしあなたがそうであるならば、どうか胸を張ってその時間を大切にして生きていって欲しい。頭の中で誰とどんなことをしようが、他人の迷惑にはならないし誰かに後ろ指を指される謂れもない。
あなたの想像力は、あなたの心を守っている。
楽しいことを考えて、やっていきましょう。


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