怒られるチャンス

小学生の時に、塾に通っていた。

塾…とは言っても、都会の「ガチ」なそれとは違う。田舎なので、中学受験の選択肢なんてほとんど存在しなかった。どちらかというと、学校で習ったことをもう一度授業で復習するような感じだった。
その日は算数だった。お兄さんとおじさんの中間くらいの年齢の先生だったと思う。

A子という女の子がいた。彼女とは親が知り合いだったので、それなりに会話もしていた。
とても気の強い女の子だった。

彼女は気に入らないもの全てに喰ってかかっていった。社交的ではあったけど、そのせいで敵も多かった。

ある日、塾の先生が授業中に彼女を当てた。難しい問題だったので、他の生徒は「わかりません」と答えていた。彼女は、「喧嘩売ってるんですか?」と答えた。

次の瞬間、先生が机を蹴り倒した。もちろん人のいない方向に。
「喧嘩!?喧嘩っていうのはこう売るんだよ!!喧嘩売ってるのはお前だろうが!!ああ?」と叫んで。

教室は固まった。僕も固まりながら、何やってんだアホが…とぼんやりと考えていた。どちらに対してかは覚えていない。

彼女は盛大な音を立ててドアを閉めて、泣きながら部屋を出て行った。

後に残されたのはキレた余韻を残している先生と僕達。気まずい沈黙の後、先生は息をどうにか整えて授業を再開した。

2019年の現在、同じことをしたら大変な騒ぎになると思う。だけど、当時は「A子が悪いよね」で済んだ。

今の子供達は、大人に全力でキレられるという機会はあるのだろうか。
ハラスメントの閾値は下がった。
その代わりに、鼻っ柱を折られるという経験をすることもなくなったのではないだろうか。

それがいいことか悪いことかは僕にはわからない。

A子は中学・高校と成長するに従って攻撃性は減っていき、今は看護師をしているらしい。

あの時固まっていた僕よりも、立派に社会人をやっている。結構なことだと思う。


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