卒業論文を書き直す上で大事な6つのポイント

4年ゼミ各位

 卒業論文第1稿を全員分、読みました。全般的なコメントを以下にまとめます。個々の論文については、論文のファイルに記入したので、そちらを確認して下さい。ここでは6つ指摘します(最初の5つを克服すると、最後のポイントは自ずと実現できるでしょう)。これらの指摘を踏まえて書き直して、読み応えのある最終稿を完成させてください。大学生としての学びの集大成としての卒業論文を立派なものに仕上げてください。

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■情報を羅列しているだけである:論文の流れを説明する文章を要所要所に加える

 最大の問題は、情報を列挙するだけで文章としての流れや論文全体としての構成がない、あるいはそれが読み取れない論文がある、ということです。これは文献レビューとデータの説明の双方に見られます。

 文献レビューでは、理論や概念や文献をただ並べている論文がありました。その理論・概念・文献は、1つ前や1つ後の理論・概念・文献とどのような関係になっているのでしょうか。書いている人の頭の中では分かっても読み手には絶対分かりません。例えば5つの理論なり概念なり文献を紹介するのならば、5つの関係がどのようになっているのかを説明する必要があります。最初に説明し、さらに要所要所にそういった説明が必要になります。

 データの説明では、図表をただ並べているだけの論文がありました。この並び方にどのような意味があるのかを説明すべきというのは、文献レビューについての上の指摘とまったく同じことです。また、図表だけ貼り付けて、そこから言えることが何かを文章できちんと説明しないというのは、絶対にやっていけないことです(これについては次で説明します)。

 論文全体や文章の流れを説明する「交通整理」の文章を要所要所に加えましょう。全体の文章量の1〜2割は、内容そのものではなく、多くの情報から成り立っている論文の構成や流れを説明する文章であるべきです。

■自足した文章になっていない:説明を尽くす

 繰り返し言っているように、論文は読むだけで著者の主張がすべて伝わる自足した文章である必要があります(実際のところ、論文に限らず文章というものは、すべからくそうあるべきです)。図表だけ貼り付けたり、箇条書きしかないのは、論文ではなく、言ってみればパワーポイントです。

 パワーポイントの場合、投影したものを説明する人が横にいます。しかし論文(をはじめとした全ての文章)は、読んでいる人の横に著者がいて説明するわけではありません。論文と読み手しかないのです。そのような状況ならば、何が言いたいのか文章で説明しないのは、どれだけおかしいのか分かるでしょう。あくまでも文章が主、図表や箇条書きは従です。

■「つかみ」が弱い:「不思議ポイント」を強調する

 皆さんは、自分でリサーチ・クエスチョンを設定して、その問いに答えを与えるべくたくさんの作業をしてきました。しかし最初の章での問題意識や問いの意義についての説明が弱く、魅力的でありません。「こんな不思議な問題があるんです。解き明かしたら面白いと思いませんか?」と読み手に語りかける努力が必要です。「へえー、考えたらこれって不思議だね。ぜひ研究してもらいたいな」と読者に思わせることが大事です。

 そのためには、何が不思議なのか、ということを読者に共感してもらう工夫が必要です。だれもが疑いもしない常識が当てはまらないことがあるとか、知っていると思っていたことが実はよく分かっていなかったとか、そもそも全く知らなかったことがあった、といった「不思議ポイント」を説明しましょう。あなた個人が不思議に思っても、多くの人がそう思わないのならば、たとえこれまで誰もやっていなかったとしても、その研究の存在意義はない、ということになります。

■理由付けが弱い:その問いや調査方法や分析方法を選んだ根拠をきちんと説明する

 問いの意義を説明することと同様に、なぜこの調査方法や分析方法を採用したのか、ということもきちんと説明しなければなりません。これをjustification(正当化とか根拠付け、理由付けといった意味)と言います。 仮説検証型のサーベイをする人も言えば、より解釈的・定性的なインタビューをする人もいます。こうした調査方法は、自分がたてた問いに対して答えを与える手段として望ましいという判断があったはずです。

 なぜこの問いが意味があるのかを説明したら、問いに対して答えを出す方法が、最善の手段であることを説明しましょう。「説明しなくても分かるでしょ」という甘えは認められません。「先生が指示したから」とか「先行研究がそうしているから」といった理由は理由たり得ません。自分で選んだことには根拠があるはずなので、それをしっかり説明しましょう。

■解釈が貧弱である:データから言えることを深く考えて論じる

 データから読み取れることが何か、しっかり説明しましょう。しかしデータに対する解釈が不十分な論文が多いです。あなたは、この問題について1年近く考えてきて、先行研究をあさって、様々な二次データ、一時データを収集してきたのです。したがって、あなたはデータについて一番深い解釈ができる人のはずだし、そうでなければなりません。

 もちろんデータから言えないことを無理矢理ひねり出してはいけません。先行研究から見いだした理論やが概念というメガネを通して、読み手が考えもつかない深みのある解釈をデータから見いだしましょう。また様々なデータや既存研究を立体的に組み合わせることで、見えなかったものが見えるようにしましょう。中には仮説が棄却される場合もあるでしょう。その場合には、「ダメだった」と諦めるだけでなく、なぜ棄却されたのか、丁寧に考えて論じる必要があります。

 深い解釈を与えるためには、データを加工したり、何度も読み直したりする、といった地道な努力が必要です。さらに仮の解釈を書いてみて、書き直して、ダメだったら消去して、また書いてみるという作業が必要です。書くということは考えるということだからです。

■読み手にフレンドリーでない:初めて読む人の気持ちになって読み直し書き直す

 あなたの論文のことをよく知っているのは、指導教員でありゼミの仲間です。しかしそうした人たちを読者層として想定してはいけません。1年間一緒に研究してきたのだから、あなたの研究に当然詳しいわけです。いわばわれわれの間には、あなたの研究についての暗黙知が形成されているのです。ゼミで「言いたいこと、なんとなく分かるー」といった発言がありましたが、これは論文では許されないことです。言葉を尽くして、すなわちイイタイコトを形式知にして、論じる必要があるのです。

 自分の論文の読者が、他のゼミの教員や学生であると考えてください。まったく初めて読む人の気持ちにたって、どのように説明したら分かってくれるのか、意識して加筆修正を行いましょう。論文は、初めて読む読者を説得して納得させてなんぼのものです。第三者的な突き放した立場から、読み直してみましょう。

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 以上のポイントはどれも克服するのは大変のように見えますが、皆さんは第1稿を書き上げたので、実はそれほど大変ではありません。その理由については、「卒業論文の体裁に関するメモ」の「7 時間管理:むりやり早めに第1稿をつくろう」(p. 13)を参照してください。

 健闘を祈る&良いお年を!




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