卯月ヘッダー

016.「普通コンプレックス」

ーゲスト紹介ー

大久保卯月(おおくぼうづき)
福岡県出身。琉球大学・理学部。幼少期はサッカーをして過ごす。幼小中高を普通になるために戦った。大学では普通から遠ざかるために社長、演劇プロデュース、塾講師、広告制作を経験してきた。今はukiというユニットを組み、アート活動に取り組んでいる。卯月さんのTwitterアカウントはこちら。

どんなコンプレックスでした?

 大学に入って半年くらいまでのぼくは、自分が普通ではないことがコンプレックスでした。”普通”っていうのは『人から見て変じゃない』という意味です。クラスのカーストで言えば、誰とでも仲良くできる可もなく不可もないような人で。上位の人たちとも盛りあがれて、人と話すのが苦手な人とも楽しく話ができるような人でいるために努力していました。
 普通でいたいと思うようになったのは、幼稚園のとき同級生の女の子に「変だね」って言われたことが、めちゃくちゃ恥ずかしかったからなんです。

画像1

これが幼稚園児のぼくです。今はジェンダーレスの時代なので姿が女の子だろうと関係ないとは思うんですけど、当時のこの格好はぼくが望んだわけじゃなかったんですよ。両親の意向でこうなってて、自分もこれが普通だと思っていたので「変だね」って言われたときにものすごくショックだったんです。しかも幼稚園時代はロン毛にピアスつけてる格好のときもありましたから、今思えば当然のことなんですけど(笑)。

画像2

ロン毛ピアス時代の卯月さん

それから自分の普通が他人の普通とズレてるのがダサいと思って生きるようになって、普通でいることにこだわるようになりました。

 でも、それってけっこう難しかった。ぼくの家は他の家庭と共通点があまりなくて、例えば名前の由来に関して、他の子たちは立派な意味を込められた名前をもってるのに、「なんで『うづき』なの?」と聞いたら「なんとなくだよ」って言われたり。家のテレビは常にCSが映ってて、アメリカの番組か、アート番組か、ディズニーチャンネルしか観れなくて、お笑いの話とかバラエティの話とかについていけなかったり。だから必死に人が話してる内容を覚えて、お笑い芸人の真似を覚えたらそれをいろんなところで使いまわして話題についていってる風に振る舞ってました。小中高の友達と過ごす時間は、ぼくにとって戦いでしたね。必死に頭を使わなければ普通の人として認めてもらえないという恐怖がずっとありました。

 そんな日々を過ごして大学生になったとき、今まで求めてやまなかった”普通でいること”が、一転してとても恥ずかしいことだと思うようになったんです。それは、大学1年でアルバイトを始めてからの話。その職場には、特徴的な人がたくさんいまして。陰茎に真珠を埋め込んでる人とか、緑髪でタトゥーいっぱいのレズビアンの人とか、そういう人たちと過ごす中で、自分には何の特徴もない、普通すぎてつまらない、恥ずかしいと感じまして。それからずっと、どうやって普通じゃない人になるか、試行錯誤しているところです。

どうやってコンプレックスをどう乗り越えましたか?

 実は、まだ乗り越えてはいないんです。最近は「変な人だね」と言われることが増えてきて、ようやく普通ではないところに来れたみたいなのですが。

 普通を恥ずかしいと思うようになって、僕はまず人と違うことをしようと思ったんです。その頃ちょうど縁あって、できたての会社のスタートアップを任せていただけるお話をいただきまして。当時の僕はお金に興味があって、お金をどう生み出すかとか、信用がお金に変わって流れていく過程を見てみたいと思ってて、まずは社長として変への一歩を踏み出しました。

もともと休学している間だけという約束で始めさせていただいたので、会社は1年で畳んで沖縄に戻りました。そこから方向性を変えて、自分で作品を作ることをしようと思いまして。舞台劇の制作プロデュースを始めました。

画像3

役者をする卯月さん

 制作プロデュースといいつつ、メンバー集め、監督、演出、脚本、役者、その他諸々全部、自分でやってました(笑)。メンバーと作ってきた部分はたくさんあるんですが、どの役割も最終的には自分の判断と責任でやってきて、自分の作品として残してきた感覚が強くあります。

 舞台劇と同時進行で広告制作もやってきました。そこで人に何かを伝える表現をずっと考えてやってきたんですが、その中で新しい好奇心が芽生えたんです。表現という分野で、自分たちが思い描いたものを100%実現してみたいなと。それは広告とは相反するもので、アートだ!と思ったので、最近アートの世界に入りました。

 『MONSTER Exibition』というアートのコンペに応募したんですよ。書類審査があって、沖縄の基地のフェンスを題材にしたアートを構想して送ったら審査を通過しまして。7月末から渋谷ヒカリエで展示会に参加できることになりました。友達と2人で取り組んでるこのコンペは、僕たちにとっての分岐点として残したい。コンペに応募するにあたって、アートの歴史を徹底的に洗い出してきました。その上で人の心を動かすものを作れたら、それは一つの新しいものを作れたという証拠になると思うんです。普通を脱却する一歩になればと期待しています。

画像4

フェンスで作品を作る卯月さん

過去の自分についてどんな気持ちをもっていますか?

 僕はけっこうネガティブな気持ちをもっています。何かしらをやり切ったあとって「終わったー!飲みにいきたい!」的なテンションになる人って多いじゃないですか。でも、僕は何かをやったあと、基本そのすべてに対して反省するんです。プロデュースしてる舞台が終わったときも、広告制作物を作り終わったときも。今回のコンプレックスに対しても、最初から普通になることにこだわらずに自分でいることを追求することだってできたんじゃないかと思いますし。そうやって反省事項を噛み続けるタイプなので、自分を肯定してるかどうかで言えばしてないです。

 ただ、普通でいることにこだわってきて一つ良かった点を挙げるとしたら、それは物事を客観的に見ることができる人になれたところです。幼稚園時代に自分の容姿にショックを受けてから、自分から見た自分への認識と他人から見た自分への認識がズレないように努力してきました。認識がズレると他人の思う普通の範疇にいれなくなって、それがダサいなと考えてきたからですね。

 その意向のもと、他人が自分をどう思っているかを一人ずつ言葉にできるようにして、自分の容姿や言動を合わせていくことをしてきた結果、何か物事に取り組んだときにもその結果が先読みできるようになってきまして。「舞台の演出をこうしたらお客さんたちはこういう反応をするだろう」「この表現で広告を作ればこういう人たちにこのぐらい届くだろう」みたいな仮説を立てて検証する人になったので、的確な失敗を積めるようになった実感があるんです。その蓄積が根拠のある自信を作ってくれているので、自分を肯定することはできていないけど、ある種の生きやすさは作ってくれています。

同じく「普通に振り回されている」人たちに向けてメッセージをお願いします。

 一つだけ明確に言えるのは、どうせなら思いっきり振り回されたほうがいいです。全力で他人の普通に自分を合わせにいって良いし、全力で普通の目立たない人になったらいい。逆に全力で普通を嫌って普通じゃない人になってもいい。大事なのは、中途半端に振り回されないことなんです。「こうする」って決めたら全力でやる。その先にしか得られない経験を大切にしてください。

 人間は経験則で生き、思考することが多い生き物です。本当にピンチになったときに自分を支えてくれるのは自分の経験なんですよね。思いっきり普通になるにしろ遠ざかるにしろ、その中で努力した経験は後の自分を支えてくれるようになります。そこから自分の言葉というものができてきて、結果的に『普通』という呪縛から解き放たれると思っているので、全力で振り回されましょう!

画像5


うづきさんたちが参加する展示会『MONSTER Exibition』について

MONSTER Exibitionは、2019年7月27日〜31日まで行われる数々のアーティストの祭典。それぞれの感性で『怪獣(Monster)』をテーマにした作品が持ち寄られます。このイベントはベルリン、バルセロナ、ニューヨークでも開かれ、27日からは渋谷ヒカリエで行われる予定です。世界中の、いろんな人の感性のなかの怪獣を感じられる機会となっています。

『MONSTER Exibition』にかける思いを、卯月さんとユニットを組む長谷川清人さんが書いたnoteもぜひ!

画像6

重さ12kgのフェンスの塊をどうやって飛行機に乗せるか悩む卯月さん

お読みいただきありがとうございます。現在、『コンプレックス大百科』は個人ですべて運営しており、サポートしていただけると、コンプレックスを取材させていただく方へ謝礼代わりにごちそうしているささやかな飲み物にお菓子を添えれるようになります。