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突然難病と診断されて人生初入院してきた

2020年の末にバッド・キアリ症候群という肝臓の難病と診断され、突然2ヶ月弱の入院生活を体験した。

この入院は人生初の長期入院で、いろいろな経験をした。
特に、たくさんの辱めを受けた

そこでこのnoteでネタにして供養したいと思う。

また、入院生活の様子がわかるように書いたので、これから入院予定の人の参考になれば嬉しい。
入院は怖くて嫌なイメージがあると思うが、この記事を読んでイメージをしていけばきっと楽しめると思う。


1周間の検査入院

2020年の11月末頃に突然お腹がパンパンに張っていっこうに治らなくなった。
近所のクリニックで胃カメラで検査したところ、食道静脈瘤という血の瘤が発見された。
この食道静脈瘤は、かなり肝臓が悪い人しか発症しないらしい。即、入院して精密検査となった。

検査は1周間で盛り盛りの内容。
医療用の管を血管に挿入して行う肝臓カテーテル検査、肝臓の組織を直接採取する肝生検
追加で、下部内視鏡検査こと大腸カメラ、腋窩(腋の下)のリンパ節生検も行った。


2020年12月末、ボストンバッグを持って東京医科大学病院に向かった。

写真:日本の超高層ビル

病院は西新宿の中心地にあるので、周りを高層ビルに囲まれている。

入院といえば、ベッドから木々と小鳥のさえずりを眺めながら生命について考える、みたいなイメージだったのでこの都会感はギャップだった。


病棟に入ると自分のベットに案内された。病室は、料金によってホテルの高級スイートのような個室から4人部屋まで、いくつかのランクに分かれている。
「病気になっても貧富の差を見せつけられるのか……」と少し切なくなった。僕は4人部屋に入った。

僕の入った普通の4人部屋。都庁が見える。


しばらくすると新人の看護婦さんが挨拶に来た。
今日の僕の担当とのこと。若くて可愛らしい人で元気をもらえた。

看護師さんは昼夜交代で毎回担当が変わる。指名はできない。


アンダーヘアー・アシメカット

入院して荷物を整理していると、担当の新人看護婦さんがやってきて、開口一番に質問された。

「松田さんって下の毛って剃ってきました?」

おっと。まださっき挨拶したばかりなのだが。

どうやら検査でカテーテルを右側の足の付け根から挿入するらしく、その際に下の毛が邪魔になので除去する必要があるとのこと。
僕はアンダーヘアーカットマンではないので、バッチリ残っている旨を伝えた。

「ですよね。じゃあ今から剃るんで、脱いでもらっていいですか?」

ええっちょっと待って。
いや、わかるよ。これからもっといろいろされるだろうし、パンツを脱ぐ程度で恥ずかしがってられない。むしろ男子たるもの仁王立ちでいきたい。
ただ、ただまだ心の準備ができていない。

しばらくモジモジしていると、それを察したようで、
「あ、自分でされますか?」
とフォローされてしまって余計に恥ずかしい。

さらにモジモジに拍車がかかってクネクネしていると、「終わったら声かけてくださいね」と電動トリマーを片手に握らされてベッドに残された。

うーむ。なるほどこれが入院なのか。勉強になる。


さて、まだちょっと混乱はしていたが、やるのは簡単なお仕事だ。
テンパりつつも電動トリマーをONにしてバリバリと作業を始めた。

と、ここで僕は手が止まった。
「右側からカテーテルを入れるので右側は全剃りとして、左側はどうしよう?」

今考えるとバランス的に両剃りが正解だが、これが平静でない人間特有の謎思考である。
「銭湯行ったときとか、何もないのはちょっと恥ずかしいな……」などと、この土壇場でアンダーヘアーのデザインを考え始めてしまった

少し悩んだ結果、いったん右側だけ剃ってみた。

いや、これはまずい。
こんな半分になってるやつが銭湯に来たほうがやばい。ざわついてしまう。

そして迷いつつも僕は、右側から左側へ、濃淡グラデーションをつけて滑らかにアンダーヘアーを仕上げた。

ナースコールで看護婦さんを呼んで仕上がりをチェックしてもらう。
すると、看護婦さんはほろ苦い顔になった。

「すみません……あの……念のため両方剃ってもらってもいいですか?」

最悪すぎる。最初から両方剃ればよかった。

「なんであいつ半分残そうとしてるんだよ。何のプライドだよアシメかよ」と思われてしまっただろう。
初日にして僕の入院生活は終わってしまった。


カテーテル検査と看護婦さんとの関係

入院2日目に肝臓周りの血管のカテーテル検査を行った。

鼠蹊部(足の付け根)に局所麻酔を打ち、血管からカテーテルを挿入して肝臓まで導いて検査を行う。
手術中に肝臓の血管のCT撮影があり、そこで息吸ってー吐いてーしなきゃいけないため、全身麻酔はなし。意識ははっきりしている。


手術スタート。
血管自体は痛覚がないので痛くないのだが、鼠径部と身体の内部をグリグリされてる感じが痛くて気持ち悪い。
あと、カテーテルが血管を上ってくると血圧が変化するのか、心臓がバクバクしてちょっと怖かった。

こんな感じのワイヤーを足の付け根の動脈から入れる
写真:Angio診断用詳細/HANACO MEDICAL


途中で痛くて何度か局所麻酔を追加してもらった。
追加をお願いすると「麻酔、おかわりでーす」と替え玉のように麻酔を盛ってもらえる。

術中は若手の先生が「違うだろー!そっちじゃない!」とベテランの先生に怒られている声が聞こえたりもした。
最後にカテーテルを動脈から抜いた瞬間勢いよく血が吹き出すのが見えた。


カテーテルは計2時間半の検査になった。
しかし、一番つらいのは終わった後だ。
動脈に穴を空けているため、術後6時間は絶対安静となる。手術と合わせると合計9時間動けない。寝返りもダメ。
これが本当に背中がキリキリと痛くてしんどかった。

この時、若い看護婦さんに尿瓶に尿をとってもらったりした。

看護婦さんとの関係は不思議だ。不思議というか非常に切ない。
こちら側だけが一方的に全てをさらけ出す関係だ。
でも相手は慣れっこでたいしたことではない。

相手のことを唯一の親友・恋人だと思って一世一代のカミングアウトをしたが、相手にとっての自分は数多くの友人の一人に過ぎなかった、みたいな感じだ。
この患者と看護師の関係性の切なさを経験して、恋愛的にも一皮剥けたと思う。


肝&リンパ節生検

カテーテル検査の後に肝生検もした。

これは比較的楽だった。
生検もメスで切るのではなく、太めの針を刺して組織を採取するだけで30分ほどですぐに終わった。


入院4日目にはリンパ節生検を行った。

リンパの生検は実は5年前に一度経験していて、その時けっこう痛かった思い出があり憂鬱だった。
リンパ節は鼠径部や腋窩といった敏感な部分をメスで切って取るので、グリグリされる感覚がかなり気持ち悪い。

2時間程度手術を待っているだけでこんなに憂鬱な気分になるとは。死刑を待つ死刑囚はいったいどんな気分なのだろうか。

リンパ節生検は血が止まらず手こずり、2時間半コースになった。血を止める時に組織を炙り焼きしたためか焼け付くような痛みで夜寝れなくなった。

あと、アンダーヘアーチェックをされたり、尿を取られたりといった経験で、入院4日目くらいで羞恥心が吹き飛んできた。

結果、平気で屁をこきまくる人間になった。
羞恥心がなくなると生きるのが楽だ。
どうせ臭さは同じなのに、音がしないように我慢してた自分が不思議だ。
屁はブッ!とこくに限る。


大便審査→断罪浣腸

入院6日目に大腸カメラ検査を行った。

これは検査よりもその前が辛い。
検査前に腸の掃除をする必要があって、4Lの下剤を飲み干さなければならない。しかも4時間以内に。
この下剤がまずくてまずくて何度も吐きそうになった。

下剤を飲んで腸の中のものを出し切ったら、綺麗になった証拠として看護婦さんに便を審査してもらう。
審査結果が失格の場合、浣腸されてしまう
ことになっている。

大量の下剤とかむかむレモン


下剤をかむかむレモンと一緒になんとか流し込むも、不味すぎて不味すぎて、あと一歩間に合わず飲みきれなかった

まあでもなんとかなるだろうと審査に臨んだ。

審査用の大便を出し(ほぼ水だが)、ナースコールを押して看護婦さんをトイレに呼ぶと、キリッとした看護婦さんがカツカツ歩いてきて、僕の便を見て一言。

「なるほど」

どっちなんだ。「なるほど」ってなんなんだ。
すぐに教えてくれない感じも悪くはないが。

ドキドキしながら待っていると、別の可愛らしい感じの看護婦さんが浣腸キットらしきものを載せた荷台をガラガラと押しながらやってきた。
どうやら審査結果は失格だったらしい。

可愛い看護婦さんに「せっかく下剤飲んでもらったのにすみませーん」と言われながらパンツを脱がされて浣腸されることになった。

ちなみにこの看護婦さんは、注射するとき「ちょっとチクっとしまーす」と予告する癖があることをこの入院生活で僕は見抜いていた。
浣腸のときはなんて言われるんだろうかと待っていると、「ちょっと変な感じしまーす」と言われてお尻からお湯を注入された。

ちょっと変な感じした。


検査中は鎮静剤を飲んで行うのでそこまで辛くはない。
内視鏡が腸のカーブの部分に当たって痛かったことをほんのり覚えている。ミニ四駆がローラーを壁に擦りつけながらカーブを曲がる夢を見ていた気がする。


1ヶ月半の長期入院

検査で病名がバッド・キアリ症候群と確定し、続いて食道静脈瘤の治療をすることになった。
食道静脈瘤は放置すると破裂のリスクがあり、破裂すると大量吐血して命にかかわるのだ。

2021年1月末から1ヶ月半、再び東京医科大学病院に入院した。
治療内容は内視鏡で食道静脈瘤に薬を注入して固める治療だ。


入院生活の様子

入院生活のルーティンは、朝6時起床、8時朝食、12時昼食、18時夕食、10時消灯。入院食は粗食。

入院食

また、朝昼夜の3回、体温、血圧、血中酸素濃度、体重を測定する。シャワーを浴びていい日は、朝に看護師さんにシャワーの時間を予約してもらう。

また、各病棟にデイルームがあり、そこにはWi-Fiが飛んでいる。
元気な日はたいていデイルームにいた。デイルームからは東京の町がよく見えた。

東京医大病院からの新宿の眺め


また、朝と昼に利尿剤をたくさん服用するため、夕方くらいまでは漫画『バキ』のスペック並みに尿が出る。

利尿剤を服用しすぎているスペック

1時間に1回くらいの頻度で爆裂放尿していた。


内視鏡治療

内視鏡による静脈瘤治療は1時間ほどの手術を1周間ごとに5回に分けてくり返し行われる。

手術中は強めの鎮静剤を投与するのでほとんど眠った状態になるのだが、僕は鎮静剤が効きにくい体質のようで、何度か目覚めてしまった。

記憶が断片的になっているが、手術中しんどくて、
「聞いてたよりつらいやんけ……鎮静剤は苦痛を軽減するんじゃなくて意識を曖昧にして手術中の苦痛の記憶を後から消しているだけだろ……今この瞬間の辛い記憶だけは忘れないようにしよう……この記憶を来世に引き継ぐんだ……」
とシュタインズ・ゲートの鳳凰院凶真のような決意をしていた。


麻酔の効きが悪かったので、どんどん麻酔を強くしてもらった。
3回目の時に主治医の先生に
「今回はマイケルジャクソンの死因になった麻薬の一歩手前の、かなり強いヤツを使います」
と言われて、完全に意識を飛ばされた。

「身体横向きに倒してくださーい」と言われ、「お、これから手術が始まるのか?」と思ったら終わっていた。
始まったと思ったら終わっていたという麻酔あるあるを体験できて良かった。

ちなみに、同じ手術を5回したので途中からこなれてきて、鎮静剤で気持ちよくなる方法を発見して楽しんでいた。
気持ちよくなるコツは、なるべく鎮静剤に耐えつつ、「もうだめだ落ちる……」という瞬間に白目を剥いて身を任せること。


静脈瘤の治療は、食道をガタガタにする手術のため、術後は食道が痛くなる。
あと、なんか食道が狭くなった感じがする。あんまり噛まずにジャガイモとかニンジンの塊を飲み込んだ時に、食べ物が食道をぐーっとゆっくり下っていって痛い痛いってなるやつ。あれがこの治療をしてからずっとなってる。早食いできなくなった。

術後は流動食になる。

流動食


パンツが足りない!

1ヶ月半の長期入院になったため、パンツとタオルが足りなくて困った。持っていって良かったものと、なくて困ったものを列挙する。

■ 入院必携アイテム!
・耳栓、アイマスク

いびきやナースコールなど夜中も常に音がするので必須。
手術の痛みや普段との生活リズムの違いによって夜中に眠れないことが多々あるので、アイマスクを持っていけば昼間でも眠りたい時に眠れる。

・ネット環境一式
スマートフォン、モバイルバッテリー、データ通信量、Bluetoothイヤフォン、Kindleアプリ

術後ベッドで動けないときのお供はスマートフォン一択。
ネットしたりKindle本を読んだりと、寝転びながら時間をつぶせる。
コンセントはベッドから少し遠い位置にあったりするので、電池切れ防止にモバイルバッテリーも持っていくといい。
WiFiが飛んでいない病院も多いので、通信量もたっぷり増やしていくといい。

・タオル
タオルはベッドの下に敷いたり、顔を拭いたりと何かと使う機会が多い。
思ったより足りなくなるので5枚以上は持っていったほうがいいと思う。

・パンツ
入院中はランドリーがけっこう渋滞する。
順番待ちになって洗えなくなって最初に足りなくなったのがタオルとパンツだった。5着以上は持っていこう。

・防寒具
 部屋や体調によっては夜はけっこう寒くなったりする。体調第一!

他にもティッシュやウエットティッシュ、お風呂セットなどあると便利だが、病院のコンビニで安価で購入できるだろう。


入院Tips

・Amazonなどの荷物は病室まで届けてもらえる。
入院中に質のいい耳栓とアイマスクを注文した。

・病院都合の差額ベッド代は支払い義務はない
入院手続き時に「ベッド代がかからない部屋が満室の場合、お金(差額ベッド代)がかかる部屋に案内しますが良いですか?」という同意書の記入を求められる。
実はこれは必ずしも同意する必要はない。病院都合の差額ベッド代は払う必要はないのだ。
「病院都合の場合は差額ベッド代のかかる部屋には案内しないでください」と伝えよう。

ポエム

 特に今はコロナ禍も重なって面会禁止だったのもあり、病棟内は外とは閉ざされた環境だった。
もし自分がいよいよとなった時は、病棟の管理が行き届いた状況で過ごすか、外で自分の好きな環境で過ごすか、どちらを選ぶだろうか。

入院中に、隣の病室の人が容態が悪化して亡くなったりもした。
私服の医師が大勢病棟に集まってて何事だろうと思って聞き耳を立てていたら、近くの病室の患者さんの体調が急変したようだった。
その後、家族と思われる方々が病棟に来て泣いていた。僕も悲しくなって泣きそうになった。

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