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【ももの絵本日和】心に残る名作『いやいやえん』

どうもこんにちは。
早くも5月病の恐怖におびえているMATSU-Gです。
今回から色々とリニューアルして、このnoteでの記事もどんどん更新していこうと思います。
といいますのも、とある依頼にて絵本についてのコラムを毎月書くことになったのですが、最近から紙に印刷せずネットにファイルをアップして配布することになったとのこと。
今までは印刷するためにそれ用のレイアウトを組んで文字数を考えて頑張って作っていたんですが、ネットで見せるんだったからいっそのことこのnoteと連動してみよう!といったところです。
まあ、リニューアルしたのと全然更新してなかったので今は廃墟同然ですが、今後はもっとね、賑やかにしていきたいなと思ってますよ。

でもって、この記事は絵本の紹介…というより、幼年童話についてのコラムにしようと思っています。
幼年童話とはいろんな解釈がありますが、簡単に言うと絵本から本への橋渡しになるような、子どもが自分で本を手に取って読む面白さを知るきっかけになる内容の童話のことです。
(説明については絵本ナビの参考ページもどうぞ)
保育園や幼稚園で沢山絵本を楽しんだ子どもたちへの新しい本の世界のいざない…なんかそれだけでめちゃめちゃメルヘンな感じですが、つまりそういうことです。

で、今回の一冊は…あの宮崎駿さんも惚れ込んだ名作『いやいやえん』です!

『いやいやえん』
作 中川李枝子
絵 大村百合子
出版社 福音館書店
出版年 1962年12月

知ってそうであまり知られていない、ジブリ映画『崖の上のポニョ』の最初のタイトル!

 私が保育園で出しているコラム「絵本はスンゴく面白い」でも書いたことがありますが、本作は大ヒットしたジブリ映画『崖の上のポニョ』の元ネタとしてもこっそり知られています。
元々『いやいやえん』の大ファンだった宮崎さんは、新作映画の構想を練るうちにこのタイトルを使わせてくれと原作者の中川さんに交渉します。
その時のタイトルはズバリ『崖の上のいやいやえん』
全くそのまんまですね。

しかし、残念ながら中川さんの許可は降りず、タイトルは変更となったのでした。その理由等はきちんとあかされてなかった…ような気がします(うる覚え)
この事はポニョ制作についてのドキュメンタリー映像『ポニョはこうして生まれた。〜宮崎駿の思考過程〜』の冒頭で描かれています。結構激しいこだわりのある宮崎さんですが、こういうところでしっかり筋は通しているんですね。

ちなみに原作の1エピソードである『くじらとり』だけは、既に映像化されているんですよ。

え、知らないですか?
それもそのはず。この作品はジブリ美術館限定の短編作品として作られたからです。
つまり普通の劇場やDVDなんかで見ることはできないんですよ。
しかも上映作品はランダムなので、行ったところで必ずみられるとは限らないのです。

ああ、見たい…見たいよう。

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中川李枝子さんの原体験がてんこ盛り!

中川さんと言えば『ぐりとぐら』『そらいろのたね』みたいな誰もが知っている傑作絵本の生みの親。
そして何十年にもわたって保育の現場に立っていた保育士でもあります。
そんな『いやいやえん』は、中川さんが実際に現場に立って感じたことや体験したことを元にしているとのこと。
登場人物それぞれにモデルがいるかはわかりませんが、どの子も妙にいきいきとしていて

「あぁ、いるよねこういう子…」

思ってしまうリアリティに溢れています。
ケンカをした時のお互いの言い合いの様子とか
怒られてもへこたれないたくましさとか
大人の枠組みをするりと抜けて自由な発想で遊ぶ姿とか
特に保育士をしている人だとわかりますよね?ね?

この本を改めて調べた時、初版が出てもうすぐ70年なんだと知りゾッとしたのですが、それだけ経ってもこういう風に思えるのって、中川さんがしっかり普遍的な子どもの姿を捉えたからなんだと納得しました。

しげるちゃん。何がなくてもしげるちゃん。

この本はちゅーりっぷ保育園を舞台にして、そこに通う子ども達や保育士の生活を描いたオムニバス作品になっています。
各章ごとに登場人物は違うのですが、全編において圧倒的な存在感を放っているのが「しげるちゃん」です。
言ってみれば、彼こそがこの物語の主人公だと断言してもいいかもしれません。

クラスの子にいたずらしたり、母親や保育士の手を焼かせたり、年長さんのごっこ遊びに仲間外れにされてもなんとか参加しようとしたり、とにかくパワーとバイタリティに溢れています。
実際に付き合うのはかなりのエネルギーがいるよなぁ…と思いつつも、なんとなく身近なあの子を思い出して憎めなく感じてしまう。
予定調和なお利口さんじゃないからこそ、物語に躍動感が生まれているのです。

くまと友達になったり、おおかみに狙われたり、クレヨンが捨てられる!?シニカルなファンタジー!

このお話は保育園が舞台になっているとはいえ、基本はファンタジー要素満点の童話です。
「くじらとり」ではごっこ遊びで作った積み木の船に乗って大海原へ出かけるし、くまやおおかみが出てきます。
 私が好きなのは、しげるちゃんがいたずらで女の子の真似っこをしてしまう話です。最初は相手が困る顔をしているのを喜んでいたのですが、なんとそのまま真似したことが現実になってしまうんです。
真似した女の子の服を着させられたり、真似した女の子の遊びをする羽目になったり、帰りは自分の家じゃ無く彼女の家に連れて行かれそうになったりします。
他にも何にでも嫌がるしげるちゃんが「いやいやえん」に行き嫌だって言うものを全て無くされたり排除されてしまう話とか、よくよく読んでいるとその辺のホラーよりぞっとします。
「女の子の色だから嫌だー!」と言って赤色を拒否したばっかりに、クレヨンの赤を勝手に捨てられてお絵かきの時間に消防車の色が塗れなくなるエピソードとか、思い出しただけで泣けてきそうです。

時代が変わっても、子どもの本質は変わらない

 繰り返しの話になってしまいますが、これは結構昔の作品なので、表現的には「これってちょっとよろしくないのでは?」みたいな部分も出てきます。
上でも話した「女の子の色だから〜」のくだりも、今の作品ではでてこないものですよね。先生の対応とかも、ちょっと時代を感じるなぁと思えるものがあるのは確かです。
 でもでも、そういうのを差し引いても中川さんの捉える子ども達の姿は今と重なって見える部分があります。
服がおしゃれになり、ゲーム機やスマホを使いこなし、家族の形が変わっていても、子どもがまた一人の人間であるのなら根本的な部分はおんなじなんだと思います。
読みながら自分の子ども、周りの子ども、そして自分の子ども時代の頃に思いを馳せるのもまた楽しいかもですよ。小さい頃にこの本を読んだことがある人ならば尚更ですね。
ちなみに私の子ども時代は……あ、ちょっと長くなりそうなのでこの辺で。

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