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「ステューピッド・グリショール」調整録

■ 前書き

 『灯争大戦』は、非常にカードパワーが高いセットだ。

 その強さは、スタンダードに激変をもたらすであろうことはもちろん、エターナル・フォーマット……モダン・レガシー・ヴィンテージにも、少なからず影響を及ぼすだろうと思われた。

 だが。

 まさか環境を根本から破壊するレベルのカードが含まれているとは、一体誰が予想しただろうか?

 《新生化/Neoform》。

 プチ《出産の殻/Birthing Pod》とも言うべきこのカードは、そのマナコストの軽さゆえに、モダン環境を1ターンキルや2ターンキルが飛び交う遊〇王デュエルリンクスへと変えてしまった。

 もちろんこのカードだけなら、そこまで危険なことは起こらなかったかもしれない。

 だが『コールドスナップ』という大樹氷に眠っていた、とある一匹の恐竜 (エルフだけど) の存在によって、このカードの運命はクソゲー製造機へと捻じ曲げられてしまったのだ。

 《アロサウルス乗り/Allosaurus Rider》。

 手札3枚を使ってバニラを出すだけのこのカードが、『灯争大戦』のリスト公開と同時期ににわかに注目を集めたその理由は、このカードが持つマナコストにある。

 そう、このカードはモダンでほとんど唯一「1ターン目に0マナで7マナクリーチャーが出せる」カードなのだ。

 すなわち、それは実質現時点で《新生化》のスペックの最大値ということになる。だが、0マナで7マナクリーチャーが出ると一体何が起きるというのか?

 マジックが壊れるのだ。

 だが冷静に考えてみると、「2マナあれば《グリセルブランド/Griselbrand》が出る」というのは、これまで《御霊の復讐/Goryo's Vengeance》でも実現できていたコンセプトではあった。ならば、これまでと何が違うというのか?

 それは、コンボパーツの代替性だ。

 《御霊の復讐》と《グリセルブランド》は4枚ずつしか積むことができなかった。さらに「墓地に落とす必要がある」という条件も踏まえると《信仰無き物あさり/Faithless Looting》との実質3枚コンボだが、ディスカード手段はある程度代替がきくとはいえ、基本的にはこれも4枚しか積めない。

 これに対し、《新生化》と《アロサウルス乗り》のコンボはどうか。《アロサウルス乗り》は《召喚士の契約/Summoner's Pact》で0マナでサーチできるため、デッキの中に8枚入っているのと同義である。そして《新生化》については、1マナ重くなるものの《異界の進化/Eldritch Evolution》が同様の効果を実現することができる。

 すなわち、《詐欺師の総督/Deceiver Exarch》《やっかい児/Pestermite》と《欠片の双子/Splinter Twin》《鏡割りのキキジキ/Kiki-Jiki, Mirror Breaker》との関係性のように、2枚コンボをどちらも8枚ずつ搭載することが可能なのである。

 これまでは《グリセルブランド》のサーチ手段が《異界の進化》4枚しか積めなかったため、安定性の観点からこのコンセプトは実現には至っていなかった。だが《新生化》の登場が、眠っていた恐竜を古代から呼び覚ましてしまったのだ。

 さて、以下は私がこの《新生化》+《アロサウルス乗り》コンボを調整したときに何を考えていたかという記録だ。

 このデッキは私が原案を考えたわけでもないし、私のレシピが最終形だと言うつもりももちろんない。

 ただモダンで何らかのコンボデッキのコンセプトがあったとき、私であればこのような調整をするというその経路が、あとから通った人の参考になればと思って書いた次第である。


■ デッキ調整録

 《新生化》によってモダンがバグる可能性があることは、テキストを読んだ段階ですぐに想像がついていた。だが同時に、「そこまで大したことにはならないだろう」と楽観視してもいた。《アロサウルス乗り》を出すには手札3枚が必要だし、コンボパーツが8枚積めるといっても《異界の進化》の方なら打てるのは3ターン目。それなら、いくらでも妨害のしようがあるからだ。

 だが、その考えはすぐに覆されることになる。

 あれ、思ったよりやばそうだぞ????

 特に「《アロサウルス乗り》は緑のカードを追放すれば出る」「《絡み森の大長/Chancellor of the Tangle》を見せれば1ターン目に《新生化》が打てる」「《グリセルブランド》による完走には《滋養の群れ/Nourishing Shoal》を連打する必要がある」と、コンボパーツがすべて緑のカードで完結しているというのが危機感を増大させた。

 それはすなわち、《アロサウルス乗り》の追放条件が確率の分散を吸収するため、ランダムな7枚でもコンボが決まる確率が比較的高いということを意味しているからだ。

 かくして、けみこ氏が公開したデッキによって「真面目に調整する価値がありそう」と判断した私は、この「ステューピッド・グリショール」(製作者の命名による) を練り込んでみることにしたのである。


◇1. 最速の動きに不要なカードを削る

 まずは「コンボで《グリセルブランド》を着地させ、《滋養の群れ》を連打しつつ山札を引ききって何かしらの手段で勝つ」というけみこ氏が見出したコンセプトのもと、自分で1からデッキを作ってみることにした。

 同じコンセプトでも、視点が異なれば違う着地点に至る。SCZやエターナル・デボーテといったクレイジーなデッキを作り続けてきた私の視点からデッキを作ることで、けみこ氏のリストとは異なる進化を遂げる可能性があった。

 始めに考えたのは、「最速を目指す形を作ったらどうなるだろうか?」というものだった。

 けみこ氏のリストは、「最低でも3ターン目に土地3枚から《異界の進化》が打てること」を保険のラインにしている。それゆえにコンボのフォーカスは2~2.5ターン目くらいに置かれていると考えていいだろう。それは確かにごく常識的な判断と言える。

 だが、もしこのフォーカスを1.5ターン目、いやもっと言うと1ターン目にしたらどうなるだろうか?

 もちろんけみこ氏が既に通過しており、最速を諦めた何らかの理由がある可能性もある。しかし確かめずにはいられなかった。その一番の理由は、《絡み森の大長》まで入っているほど尖ったデッキなら、土地を17枚も入れる必要はないはずだと直感的に思ったからだ。

 かくして、まずは1ターン目のコンボ成立にフォーカスを置くことにした。

 1キルに最低必要な手札はパターンAの5枚 (《魔力変/Manamorphose》は任意の緑のカードでも可) で、このうち《新生化》と《絡み森の大長》は替えがきかない。

 《絡み森の大長》を引かない条件だとパターンBのように《猿人の指導霊/Simian Spirit Guide》+《魔力変》のセットが必要になり、さらにこの場合《魔力変》のドローもしくは手札の7枚目が緑のカードでなければならなくなる。

 だがこの場合でも、もし土地の部分が代わりに《絡み森の大長》だったなら、パターンCのようにドロー要求なしで1キルしうる。

 さてこのようにして考えたとき、最適な土地の枚数は何枚だろうか?

 実は「土地を1枚だけ引けばいいデッキ」の考え方は、ユニバーサルマジックセオリーで既に定まっている。それは言ってしまえば「《ラノワールのエルフ/Llanowar Elves》を1ターン目に出すのに最低限必要な《森/Forest》の枚数」や「レガシーのドレッジデッキで赤/青/黒を同時に出せる土地の枚数」と同じ。そう、9~10枚だ。(ちなみにエターナル・デボーテでアンタップインの緑マナが10枚なのも同じ理由だ)

 よって、まずは土地の枚数を10枚に固定し、それを前提にしてデッキが回るよう、残りを埋めていくことにした。

 とりあえず《新生化》《異界の進化》《アロサウルス乗り》《召喚士の契約》のコンボパーツ16枚と、サーチ先となる《グリセルブランド》が2枚、1キルパターンの多くで代替不可能な《絡み森の大長》を4枚、1キルパターンに貢献しうる上に勝ち手段を出すのに必要な《猿人の指導霊》が4枚と勝ち手段となる《突撃の地鳴り/Seismic Assault》が1枚 (※ここは矛盾しているが後述する)、さらにデッキを完走させるのに必要な《滋養の群れ》4枚と《土着のワーム/Autochthon Wurm》を2枚、合計33枚を採用。

 1キルパターンを構成する手札のうち、《絡み森の大長》以外のカードは後引きで揃うパターンでも構わない。そして《絡み森の大長》の後引きは、《アロサウルス乗り》がランダムな緑のカード2枚をコンボパーツとしている時点で、受け入れができている。ならばマナを使わず手札を変換できるカードは基本的に入れ得となる。1キルパターンに貢献する上にランダムな緑のカードの役割も兼ねる《魔力変》は当然4枚として、《通りの悪霊/Street Wraith》も7の倍数でライフを失わない限り基本的にはノーリスクだ。これで51枚。

 だが残りの9枚は、残念ながら「必ずしも1キルに貢献しないカード」になりそうだと思われた。想像しうる限り、パターンA~Cをオープンハンドで代替できるカードはほぼすべて搭載済みだからだ。

 とはいえ1キルのためには、残りの9枚もどうにかして埋めなければならない。マナがかからず手札変換できる (≒1キル率を上げられる) 良いカードはないかと「モダン」「0マナ」でカードを検索するが、特に何も見つからない。

 そこで考えたのが、「ゲーム開始時」をテキストに含むカードで有用なものはないか、だ。

 そして。

 この発想が、とんでもない出会いをもたらした。

 は?最強か???

 まさかマナを支払わず《血清の幻視/Serum Visions》が打てるようになるカードがあるとは。モダン、終わったな???

 残り5枚はとりあえず《否定の契約/Pact of Negation》4枚と、《土着のワーム》の3枚目で埋めることにした。

 さらにこの時点で「デッキの中に土地が10枚しかねーから《突撃の地鳴り》で相手が死なねーじゃねーか!」という根本の矛盾に気が付く。だがどう考えても土地は10枚が最適。ならばこの土地枚数でも勝てる勝ち手段を探すしかない。そして思いついたのが《研究室の偏執狂/Laboratory Maniac》だった。《魔力変》は最後絶対に余るので、アドグレイスと違って追加で1マナ要求になったりもしない。


◇2. 一人回しで理想と現実とのギャップを埋める

 ここまでの調整はほぼ脳内で進んだ。だがこのデッキは本当に回るのだろうか?それを確かめるには、一人回しが必要だ。

 一人回しをした結果、以下のことが判明した。

・ロンドンマリガン下においては、土地の枚数は概ね適正である。

・《予見のスフィンクス/Sphinx of Foresight》は7枚キープできれば宇宙だが、マリガンすると変換できない青いカードが手札に居座るので、残りの手札の要求値が厳しくなりすぎる (ちなみに緑のカードだったら最強だった。つまり最強ではなかった)。

・《土着のワーム》は途中で余った《召喚士の契約》から持ってこれるので2枚で十分だった。

・スピード的に基本地形が必要かどうかはかなり怪しい。それより土地は最低でも青緑アンタップインでないと、1キル受け (《絡み森の大長》引いてて青マナ要求) と2キル受け (《猿人の指導霊》と《異界の進化》で緑緑要求) とのジレンマが解消できない。

・《猿人の指導霊》からのマナが青マナになって欲しいシチュエーションがあるため、《召喚士の契約》から《野生の朗詠者/Wild Cantor》が持ってこれた方が良い。

・《グリセルブランド》着地後、ライブラリーを安定して完走するには《滋養の群れ》の5枚目 (的な役割のカード) が必要だと感じた。

 こうしたフィードバックを得て、デッキは以下のように変更された。

 《予見のスフィンクス》はさすがにやんちゃが過ぎたので、元レシピ通りの《血清の幻視/Serum Visions》へ。

 《秋の際/Edge of Autumn》は5枚目の《通りの悪霊》、かつ緑のカードなので既にコンボが揃っているなら確定で追放材料になりうる。

 《天使の嗜み/Angel's Grace》は《滋養の群れ》の実質5枚目で、《召喚士の契約》を見切り発車して最初の14ドローで《滋養の群れ》が引けなかった場合でも即負けにならない (これのために土地を緑/青/白アンタップイン=5色土地に変更)。


◇3. サイドボードを作る

 サイドボードを作る際、考えたのは主に「同型相手にどうやって勝つか?」「その他の不可能状況全般を解決できるサイドボードはあるか?」という2点だった。

 まず同型対策に関しては、1キルが可能なデッキである以上干渉手段はかなり限られている。「《宝石の洞窟/Gemstone Caverns》からのマナで妨害を構える」というのも考えられるが、手札の要求が高すぎるため非現実的だろう。

 ならばどうするか。

 《別館の大長/Chancellor of the Annex》を見せればいいのだ。

 5~6枚コンボとかなり手札の要求値が高いこのデッキでは、追加の1マナもしくは《別館の大長》に捧げるスペルを用意するのも一苦労だ。

 もちろんそれはお互い様だが、特に後手番なら余分な1枚を抱える相対的な余裕も生まれるはずである。

 だが、同型対策はひとまずそれでいいとしても、「その他全般」をケアするサイドボードとなると難しかった。

 具体的には、《墓掘りの檻/Grafdigger's Cage》やその他何らかの置き物に関しては銀破壊をとるだけでいいのだが、それらとカウンターもしくはハンデスを併用してきた場合、どうやって乗り越えればいいのか。

 これについては考えても結論が出なかったので、「カウンターは追加の《否定の契約》、置き物は《自然のままに/Natural State》、ハンデスは知らん」という逐次対処で一応すべてに対して解答があるようにしつつ、けみこ氏が《大食のワーム/Voracious Wurm》を採用していたのをそのまま残して、うっかりトランプルを付ける用の《ゴーア族の暴行者/Ghor-Clan Rampager》を入れることにした。


◇4. 実戦

(↑同型後手1キルの図)

 3ターン以内に終わるゲーム多すぎないか?

 「ステューピッド・グリショール」を初めて実戦で回してみた感触としては、「想像以上に理不尽で強い」というものだった。

 墓地を使わず、クリーチャー除去が当たらない1~3キルコンボというのは、通常のデッキではほとんど止められない。妨害手段が限られるし、速度も速すぎるからだ。

 脳内だった《別館の大長》もミラーマッチでうまく機能してくれた。対して、クロックパーミ系のデッキにはやはり相性は悪そうだった。


■ その後

 実戦を踏まえ、デッキは以下のように改良された。

 5枚目の《滋養の群れ》としては、《コーリスの子》の方が直截だった。《天使の嗜み》のようにターンを返す必要がない上に、土地も青緑のみで統一でき、ライフが高い水準で保全されるからだ。

 サイドボードは、《自然のままに》のスロットはどうせアーティファクトしか壊さない (致命的なエンチャントがない or 使われていない) ため、《溶接の壺/Welding Jar》もケアできる《酸化/Oxidize》を採用することにした。《弁論の幻霊/Eidolon of Rhetoric》を出されると裏目だが、鱗親和+唸りプリズンと緑白カンパニーなら前者の方が多いだろう。

 残る《大食のワーム》《ゴーア族の暴行者》だった部分は対ハンデスデッキの枠ということになるが、ここはひとまず《神聖の力線/Leyline of Sanctity》を入れてお茶を濁している。もしかすると《大食のワーム》ですれ違いを目指した方がワンチャン作れるかもだが、相手のキープ基準となる6~7枚の手札破壊を潜り抜けられる自信がなかった。あと《宝石の洞窟》は枠が余ったので何となく入れておいた。


■ おまけ:このデッキは禁止になるか?

 私自身3-2という成績しか残していないので説得力がないかもしれないが、もしこのままロンドンマリガンが正式採用されるなら、保証はしないが200%なると考えている。なるとしたら本命は《アロサウルス乗り》(最新カードではなく、かつ他のデッキに影響がないため) で、次点で《召喚士の契約》か《新生化》だろう。

 理由は、「1キル・2キルがかなりの確率で可能なため、対策カードを引いていても間に合わないことがある」ことと、「対策手段が限られる」こと。ちょうどアミュレットブルームから《花盛りの夏/Summer Bloom》が禁止されたときのイメージに近いのではないか。

 上記のようにMOの競技リーグでは既にミラーマッチが多発しているし、プロプレイヤーが配信で使用していたり、早くも5-0を達成したレシピが掲載されたりもしている。


 ロンドンマリガンからバンクーバーマリガンに戻ればこの傾向はひとまず落ち着くかもしれないが、いずれにせよモダン環境のギリギリの健全さを楽しみたい人たちにとって有害なデッキであることは、間違いないように思われる。

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