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夏にわく虫、冬にはどこにいる?

【イチゴ味の昆虫】

 2週間ほど前だったか、イチゴチョコレートを食べた後輩が「カワゲラの味がする」と言っていて面白かった。
 カワゲラとは川に住む昆虫、いわゆる水生昆虫である。私がその後輩に「カワゲラ食べたことあるが?」と聞くと、彼は「はい。生で食べました。噛むと中身がぶちゅっと出てきて、甘みと酸味が口の中でぱぁっと広がるんですよ。」と答えたのだ。なるほど、確かにイチゴ味である。イチゴをスーパーなどで買えば1パック400円はするが、カワゲラならタダで川から採れるので、同じ味ならカワゲラの方がお得だ。
 とはいえ、川にいる昆虫にはハリガネムシなどの寄生虫が潜んでいる可能性があり、それが人体にどのような影響を及ぼすのかはまだ分かっていないので、読者の皆さんにはしっかり加熱をしてから食べることをオススメする。

後輩がおいしいと言っていたのはこれ。オオヤマカワゲラ。うーん、かわいい。

【夏にわく虫、冬にはどこにいる?】

 夏になると、虫が大量発生する。カブトムシやクワガタ、コガネムシ、ガなどはお馴染みだが、なんだかよく分からない虫もわんさか湧く。そして電灯や自動販売機の光に集まってたむろしたり、空中で集団を作って自転車で移動している人の顔面にぶつかったりしている。
 この、なんだかよく分からない虫の正体の一部が、川の虫、いわゆる水生昆虫である。
「川にいる虫って、アメンボとか、ヤゴとか、ゲンゴロウくらいじゃないの?」
と、思うかもしれないが、実は川には魚よりもずっと多くの昆虫が潜んでいる。下の写真を見てほしい。

川で取った昆虫。
見えずらいが、いま皆さんの目に入っているものはすべて水生昆虫だと思っていい。

これらはすべて、川で取った昆虫、水生昆虫である。イモムシ状のものはトビケラ、尾が二本あるのがカワゲラ、三本あるのがカゲロウ(例外あり)と呼ばれるものだ。カブトムシやクワガタは幼虫時代を土の中で過ごすが、これらの昆虫は冬まで幼虫時代を川の中ですごし、春から初夏にかけて羽化して成虫になり、空に旅立っていく。つまり、「夏にわく虫、冬にはどこにいる?」の答えは「(一部のよう分からんやつは)川」だ。

【10万円の図鑑】

 「水生昆虫のドウテイが好きです。」
と、中学生のとき部活の先輩に言って戸惑わせてしまったのは今となっては恥ずかしい思い出である。当然、ドウテイというのは「同定」、つまり、そのいきものが何という名前かをハッキリさせる行為である。例えば、チョウを見て、「あのチョウは何という名前だろう」と考え、図鑑で調べる。そしてそのチョウがアゲハチョウだと分かる。これが同定だ。決して純粋で清らかな、あの「ドウテイ」ではない。
 水生昆虫の同定は難しい。魚やチョウは図鑑を見れば種の名前が分かるが、水生昆虫の場合はそうはいかない。属まで落とせれば良いほうで、科までしか分からないことも多々ある。
 以前、採集したフタツメカワゲラを自前の検索図鑑で調べてみたがなぜかフタツメカワゲラ属の項目が見当たらなかった。しかも、水生昆虫の研究者に一冊10万円する検索図鑑を借りてフタツメカワゲラ属の項目を見てみても「同定は困難である。」的なことが書かれてあるだけだった。10万円の図鑑が同定を諦めているのなら私も諦めるしかない、と思った次第である。
 このことを友達のT君に話すと「自分で識別形質見つけたら論文書けるよ。まあ昆虫は死んでから2時間くらいで処理しないとすぐ遺伝子読めなくなるらしいから頑張って。」と言われた。
……がんばろっと。

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