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男たちをやさしくしてきたもの

僕は犬を飼っています。これでもう3匹目です。人生の大半の時間、犬と暮らしてきました。そしておそらく今後も僕は犬と暮らしていくでしょう。

犬というのは不思議な動物です。オオカミの親戚のはずなのに、人に懐き、家の中で一緒に平和に暮らせるのです。長い長い時間の中で、人間の環境に馴染むよう飼いならされてきた結果なんでしょうね。人間に懐かなかった個体は処分され、懐く個体だけが無事に子孫を残してきたというわけです。

このように人間に懐く個体だけを残すと野生動物がどう変化するかを40年の長きに渡って試した壮大な実験があります。1959年に旧ソ連でスタートしたこの実験は、人間が顔の前に手を差し出しても噛みつかないような攻撃性の低い個体同士を掛け合わせていったのです。このような交配を10世代ほど繰り返したところ、キツネは従順になっただけではなく、新しな身体的な特徴を備え始めました。キツネたちの体は小さくなり、耳が垂れ、アゴが小さく、そして尻尾が丸まっていったのです。そしてその後も同様の交配を続けたところ、50世代目を迎える頃には、なんと85%もの個体が従順なキツネへと変化したのです。

つまり、オオカミが1万5千年ほどかけて犬に変わった過程が、わずか40年ほどの間に再現されたのです。この話、英語圏ではしばらく前にちょっと話題になったのですが、日本語にされた記事は極めて少ないようです。こちらの記事が一番詳しいです。

さて、この従順なキツネたちに見られた体の変化ですが、これらの特徴は、子ギツネに見られるもの同様なのです。つまり、これら従順な個体は、「子供時代が長い個体」とも言えるわけです。なお、普通の野生の動物は、大人になるにつれて、いわゆる「ストレスホルモン」を分泌するようになります。そして、このストレスホルモンの働きによって、周囲を警戒するようになります。この他にも、ペット化されたキツネとそうでないキツネとの間では遺伝子の違いも見受けられたとのことなので、やがて攻撃性や警戒心を司るメカニズムが解明されていくでしょう。

子供時代が長いことのメリット

さて、こうして子供でいる期間が長くなることには、一体どんなご利益があるのでしょうか? 実は子供の期間が長くなると、学習期間が長くなるのです。例えば犬などは、成犬になってからでも様々と新しい芸を覚えることができます。これらの従順化されたキツネも、「お手」や「おすわり」などを理解し、犬と同じようにやってのけます。つまり、警戒心が低い子供時代が伸びることで、ペット化された動物たちも、学習期間がそのまま伸びるというわけです。

もっとも子供時代が長い動物は人間です

なお、子供時代が長い動物と言えば、人間より長い動物はいません。生まれてから身体的に大人になるまでには軽く15年くらいかかりますし、精神的にすっかり大人になるまでには、さらに4、5年を要します。つまりそれだけ、人間は学習期間を長く保てるというわけです。

さて、なぜ人間だけが他の霊長類には見られないこのような特徴を備えているのでしょうか? おそらく人間にも、オオカミからペット化していった犬や、このキツネの実験と同じようなことが起きたのです。それでは人間の場合には、一体誰が攻撃的な個体を排除していったのでしょうか?

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