見出し画像

狂牛病の次は「狂鹿病」です

※この記事は有料マガジンの特別無料版です。

アメリカに住んだことがある人なら実感があると思うのですが、アメリカやカナダには途方もない数の鹿が住んでいます。正確な統計はないのですが、アメリカ国内だけでも、およそ3000万等の鹿が生息していると言われています。時折道路に飛び出してきて車に轢かれたりして、とってもかわいそうなことになっています。道端にも「鹿に注意」の標識があったりします。

さてこの鹿の数、乱獲などによりずいぶん減ってしまった時期もあったのですが、今ではハンティングシーズンが厳密に定められたことや、狼のような天敵がいないくなったことにより、再び数を増やしたのです。今では増えすぎて困っている州も少なくないくらいです。そこで狩猟シーズンになると許規定数が定められ、ハンターたちが鹿を仕留めていきます。こうして鹿の数がコントロールされているわけです。仕留めた鹿の肉を食べるハンターも少なくありません。また、こうしたハンターを通じて鹿肉の売り買いなどもなされています。

ところがこの鹿たちの生態に、今とんでもない異変が起きています。

CWDという新種の病気
実は現在、狂牛病ならぬ「狂鹿病」が、恐ろしい勢いで広まりつつあるのです。
この狂鹿病、慢性消耗病(chronic wasting disease: 以後CWD)と名付けられています。かつて世間を騒がせた狂牛病と同じ原因の病気です。プリオンと呼ばれるタンパク質によって脳がスポンジ状になることにより引き起こされます。

この病気に感染した鹿には、目がうつろになり、よだれが大量に出て、同じところを繰り返し歩行するといった症状が現れます。また体重が著しく減少し、肋骨が浮き上がります。致死率は100%です。

狂牛病があまり人間に大きな被害を及ぼさなかったので、狂鹿病と言われてもあまりピンとこない人も多いのではないかと思いますが、これはどうやら、狂牛病よりもずっと大きな脅威となりそうな予感なのです。順を追って説明しましょう。

治療方法がない
まずこのCWD、狂牛病と同様に治療法がありません。原因が細菌やウイルスではないため、抗生物質などで治療することもできないのです。現在、米国の研究機関でこのプリオンを破壊する薬の開発が進められていますが、これといった成果は上がっていません。少なくとも現時点では、有効な治療薬やワクチンは一切存在しません。

感染力が強い
狂牛病は牛から牛への水平感染が見られませんでしたが、CWDは鹿から鹿へと感染することが確認されています。それどころか、ネズミにも感染しますし、猿のような霊長類にさえ感染します。猿に感染するのですから、人間に感染する病気である可能性は極めて高いといっていいでしょう。人間に見られる変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)は狂牛病からの感染が疑われていますから、鹿の病気だと高を括っている訳にも行かないのです。

なお、食用の牛は基本的に全てに人間に飼われているため、全固体を検査して感染している牛を全て処分するといったことが可能でしたが、野生の鹿では検査の手段さえないわけです。なので、現時点ては手をこまねいて病気が広まるのを眺めているしかないありません。

感染ルート
ではどのようなルートで感染するかというと、糞尿や唾液を介してです。感染した鹿から排出される唾液や糞尿にプリオンが含まれており、これが土壌にを介して植物に取り込まれます。また、唾液がかかった植物を、別の鹿が食するといったケースもあるでしょう。この病気にかかった鹿は末期になるとよだれを垂れ流して歩き回るので、まさしくプリオンを振りまいているようなものなのです。

長く生息する原因タンパク質
その上、このプリオン、滅多なことでは死なないのです。熱にも非常に強く、調理したくらいではその構成が壊れません。プリオンが自然の中で分解されるには、3〜5年ほどかかるとも言われています。つまりその間ずっと、他の動物が感染のリスクに晒されるのです。上でも述べた通り、CWDがネズミにも感染し得ることが実験で確認されています。すると、感染した鹿の糞尿や唾液によって汚染された植物を食べたネズミがさらに子供を産み、感染を止めどもなく広めていくといったことも予想されるわけです。

潜伏期間が長い
またさらに都合の悪いことに、この病気は潜伏期間が極めて長いのです。実験的に感染させた鹿では症状が現れるのになんと16~17ヶ月もかかることが確認されています。そしてその間、この鹿たちは広範囲を歩き回り、あちこちに唾液や糞尿を撒き散らすというわけです。

すでに広く広まっている
そしてこの病気、すでに広く広まっています。こちら、米国内での感染マップですが、ここ18年間で爆発的に広まっている様子がわかります。

また、すでにこの病気、すでに海外にも飛び火しています。2016年にはノルウェイでCWDに感染したトナカイが発見され、ノルウェイ政府はこれを根絶すべく、感染したトナカイが見つかったエリア一帯のトナカイ2000頭以上以上を殺傷処分しました。そしてこのエリアを5年間閉鎖することと決めたのです。

またカナダから韓国に輸出されたヘラジカからもCWDが検出されており、この病気は予想以上の広範囲で広まっているようなのです。

次なる手立ては?
では、この病気の更なる拡散を防ぐ手立てはあるのでしょうか?
実は2003年にアメリカでもウィスコンシン州で、鹿の生息エリア間にバッファーゾーンを設けて、その間を行き来する鹿を殺処分するという策が取られたことがあります。しかし、この病気に対する理解が少ない人々が非道であると声を上げたため、結局中途半端に終わってしまいました。そしてその結果が、この2018年の広がりなのです。

この病気のさらなる拡散を防ぐには、ノルウェイがやったような方式しか有効な手立てがないのかもしれません。ただ、一時期に数千〜何万頭もの鹿を根絶やしにするというアイデアには、到底賛成できない人たちもたくさんいるわけです。そのため、この問題はすでに政治化しています。

政治的解決が必要です
結局これ、地球温暖化と同じことなんですね。みんながハッピーになる解決策はありません。そうして揉めているうちに、ただひたすら病気が広まっていくのです。だからこそこの問題に対処するには、政治的な解決が絶対に必要なのです。


日本もこれを対岸の火事だと決め込んでいると、他の動物を介して世界的に広まっていく可能性は少なくないと思います。このCWD、本当に厄介な病気です。アメリカでもようやく2018年になって世間に認知されるようになってきた段階で、まだまだ知らない人の方が多いような状況ですが、日本も危機感を持って対策を考えた方が良いように思います。

なおこの病気、一番最初の発生は1960年代後半にまで遡ります。米国コロラド州の養鹿場で発見されたのを皮切りに、コロラド、モンタナ、ネブラスカ、オクラホマ、サウスダコタなどの養鹿場で相次いで発見されていったのです。またカナダの養鹿場でも何例か見つかっています。そしてこれらの養鹿場では、牛の時と同じように骨粉粉が飼育に使われていたんですね。要するに鹿に鹿の肉を食わせていたんです。結局、狂牛病の時と同じ原因なんですね。

さて現時点でこのCWDに関する日本語で読めるもっとも詳しい資料は内閣府の食料安全委員会がまとめた、こちらの資料です。日本ではまだまだ知られていませんが、この記事は少しでも啓蒙の機会になればいいな、と思っています。「狂鹿病」などでググると山ほど情報が出てきますので、ぜひ読んでみてください。

PS:もしこの記事を気に入っていただけましたら、投げ銭していただけると嬉しいです!またこの記事は有料メルマガの特別無料版です。通常は1本100円で記事が購入できますが、1000円でこのマガジンを購入すると、1ヶ月20本くらい読めるので1本50円です。

この続きをみるには

この続き:0文字
記事を購入する

狂牛病の次は「狂鹿病」です

松井博

100円

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

note.user.nickname || note.user.urlname

もしこの記事を気に入っていただけましたら、サポートしていただけると嬉しいです!

ありがとうございます😊シェアしていただけると最高です!
46

松井博

Brighture English Academy 代表 ( https://brighture.jp/ ) 著書:「日本人のための 一発で通じる英語発音 」など。twitter: https://twitter.com/Matsuhiro

まつひろのメルマガ

シリコンバレー、フィリピン、東京の3ヶ所に拠点を置くBrighture English Adacemy 代表、松井博が、日々あちこちで感じたこと、思ったこと、考えたことなどを徒然なるままに綴ってゆくメルマガです。
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。