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どうなる?Twitterの未来 対話形式でわかるイーロン・マスク【第3話】

第3話:新たな荒野で繰り広げられる戦い

針金男の問いに、はじめは考えこんでしまう。
「……テスラやロケットの前ですよね? なんだろう……」
「はじめちゃんの会社、給料ってどうなってんの?」
「……そりゃ振り込みです」
「公共料金とかの支払いは?」
「ネット銀行から自動的に引き落とされます」
「いまなんて言うた?」
「自動的に引き落とされます」
「その前や」
「……ネット銀行から」
「それや!」
「イーロン・マスクが次に作ろうと考えたのは〝ネット銀行〟なんや」
「……なぜ銀行?」
「ヒントは、今までの会話の中にあるで」
「……?」
「……ノバ・スコシア銀行にインターン」
「……あ! ありましたね」
「この時すでに、イーロン・マスクは感じていたんや。ネット銀行の必要性を」
「……というか、インターンという立場で、そんな風に考えられることがすごいですよね」
「当時大学生やったけど、インターン先の社員を相手に、堂々とネット銀行の必要性を話したらしいからな。あとなあ、これはイーロン・マスクという人間の根幹に関わる話やけど。旧態依然を壊したい、という思いは常に持ってる人なんやな」
「どういうことです?」
「1995年にWindows95が誕生した後、世界が一気にネット社会になっていく中で、銀行は導入が遅かったやん」
「……確かにそうですね」
「まあ、お金を扱っとるから慎重になるのもわかるけどな」
「次なる挑戦はネット銀行なんですね……」
「この時の動きも早いで〜。Zip2(ジップツー)のコンパック売却への話が決まった、翌月に金融ベンチャー企業を立ち上げんねん。それが、X.com(エックスドットコム)、1999年のことや」
「……! ここでXが出てくるワケですね」
「そして設立後、わずか数カ月で20万人以上の顧客を獲得したんや」
「ネットでお金を送ることに躊躇する人が多い中、それはすごいですね!」
「この時に打ったキャンペーンが画期的やった」
「それは一体……?」
「……たぶん、はじめちゃんも知ってると思うで」
「……?」
「2021年頃、日本でも流行ったやん「みんなの銀行」の口座開設キャンペーン」
「ああ、あれですか! 口座を開設するだけでお金が貰えて、しかも紹介リンクから新規顧客が増えるとボーナスがもらえる……」
「そうそれや。その超先駆けをやったのがX.comなんや」
「……そうなんですね! わずか数カ月で20万人、素晴らしい船出ですね」

はじめの言葉に、針金男はニヤッと笑ってウーロン茶をあおる。
一息つくと、
「……さあ、ここから戦いの幕開けや」
「……? 戦いって誰とですか?」
「ペイパルや」
「ペイパルってあのペイパルですか?」
「せや。ネット銀行の覇権を競う戦いの幕が切って落とされるんや。
これまた面白い話なんやが、実はペイパルを作った若者の一人は、もともとX.comのオフィスの一部を間借りしてソフトの開発をしてたんや」
「……身内みたいなものだったんですか」
「その若者が、後に「ペイパルマフィア」と呼ばれるグループの一人、ピーター・ティールや」
「ペイパル……、マフィアですか?」
「……この辺りは、ネットで調べればサクッと出てくるで。
YouTubeやらテスラやらスペースXやら、世界をガラッと変えるサービスを生み出した、元ペイパル出身者のグループのことや。彼らは総じて〝ペイパルマフィア〟と呼ばれとる。ちなみに、ピーター・ティールはスタンフォード大学出身や」
「……なんだかネット銀行の覇権をかけた戦いが、マフィア同士の抗争に見えてきました」
「ハハハハ! さすがにドンパチやることはないが、巨額な宣伝費をかけた激しいCM合戦が繰り広げられたんや。……で、結果どうなったと思う?」

二転三転する権力争い

はじめがごくりとツバを飲み込む。
針金男はカラッと笑ってこう言った。
「……合併したんや」
「……!」
「理由はいたってシンプルや。このままだと共倒れになる、手を結んだ方がよくね?……って気づいんたやな」
「……なんだか、平和的な決着になって安心です」
「ところが、そうは簡単にことはおさまらんかった」
「そうなんですか?」
「……うまく混ざらなかったんや」
腕を組みながら、はじめが言う。
「合併って不思議ですよね。ハタから見ると、これから一緒に手を組んで同じ目標に向かって進んでいこうってなるのかなと思うんですけど……」
「まあ、そこは人と人やからな。この場合で言えば、技術者たちが使うソフトの違いで、みぞができたらしい」
「……それでも合併はやめられませんよね。この後どうなったんですか?」
「さっき言った、ピーター・ティールが去ってしまうんや」
「じゃあ、この後はイーロン・マスクの独裁になるんですね?」
「……ところが、まだまだ事態は二転三転すんねん」
「……! まだなにか事件が起こるんですか?」
「2000年9月、クーデターが勃発。
イーロン・マスクが海外旅行中に、更迭されんねん。そこで代表の座に返り咲いたのが、ピーター・ティールや」
「……どうしてこんなことが起こったんですか?」
「顧客が増え続けることで、X.comでは技術的な問題が次々と起こったんや。……その危機に際して、イーロン・マスクも力を尽くすが、その判断に対して疑問視する声が少なからず上がってたんやな。……で、旅行に出かけたスキをついて不信任決議や。旅行から帰ってきた時には、会社はすでにピーター・ティールをCEOとして、動き出していたというワケや。なかなかエグいやろ」
「……よくこらえましたね」
「この時点でネット銀行への情熱は冷めたかのしれんな。それにイーロン・マスクには、さらに2つ夢があったからな。覚えとるか?」
「……クリーンエネルギーと宇宙ですね」
「せや、自分にはまだまだ夢がある。だからこそ、ことを荒立てることはやめよう。そう考え直して、自制したんやな。結局、ペイパルはeBay(イーベイ)という、アメリカの巨大EC企業に買収されることになるが、この時筆頭株主だったイーロン・マスクは、300億円近い金をもらっとる」
「……300億!」
「さあ、ここから次のステージ、宇宙と電気自動車や」


参考文献&参考動画

「イーロン・マスク 未来を創る男」(講談社)
「72歳、今日が人生最高の日」(集英社)
「中田敦彦のYouTube大学」



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