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どうなる?Twitterの未来 対話形式でわかるイーロン・マスク【第1話】

あらすじ

Twitter運用になやむ30代のサラリーマンはじめ。
ある夜、はじめが一人で居酒屋で飲んでいると、やたらと手足が長くて細い
〝針金男〟が現れる。
Twitterに悩むはじめに「そもそもイーロンマスクについて知ってるのか?」と
話し始める針金男。
イーロンマスクの人生を振り返りながら、Twitterに求められる人材、未来予想が針金男から語られていく……。

第1話:はじめと針金男


「はぁ〜〜〜」
とあるチェーン系居酒屋のカウンター席。
30代とおぼしきサラリーマン風の男が、深いため息を繰り返していた。

目の前に置かれた焼き鳥をかじっては、
「はぁ〜〜〜〜」
「はぁ〜〜〜〜〜」
「はぁ〜〜〜〜〜〜」
「はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

一際長いため息をついた瞬間。
ドン!
男の隣に誰かが座った。
「なんや、さっきから辛気くさいなあ、にいちゃん大丈夫か?」

男が驚いて隣を見ると、そこには黒いパーカーにジーンズ姿の男がいた。
インナーには、見たことがないアニメキャラ(女の子)がプリントされたTシャツを着ている。
短髪で薄く色が入ったサングラスをかけ、針金のような細い手足が伸びている。
「……誰ですか?」
「誰でもええやないか、おーい!あんちゃん、生ビールひとつ!
勘定はここにつけといてや〜」
「……ちょ、ちょっと何を勝手に!」
「……まあまあ!まあまあ!まあまあ!」

ほどなくしてビールが届くと、針金男は嬉しそうに受け取る。
ニカっと笑うと、
「かんぱーーい!」
そういってグラスを合わせてきた。

針金男は一息に半分ぐらい飲む。
それを横目でみながら、
「……一体、何に乾杯なんですか」
「兄さんの輝かしい未来に!」
「……未来」

針金男の言葉(未来)を聞くと、急にシュンと肩を落とす。
「……なんや自分、急にションボリして。
そういや兄さんの名前聞いとらんかったな、何ていうねん」

普通だったら初対面の相手に、名前なんて名乗らない。
……が。
「……にのまえ はじめ」
気づいたらスルッと名乗っていた。
「……ずいぶん変わった名前やな、漢字で書くとどうなんねん」
はじめはため息をつくと、ビールのグラスについた水滴で、横棒を二本引いた。

「一一って、なんやこれ?」
「一って、数字の二の前だから「にのまえ」って読むんですよ。一はそのまま「はじめ」で「一一」で「にのまえ はじめ」」
そう説明すると、針金男は上体をかがめて肩を震わせている。
どうやら笑っているらしい。

やがて上体を起こすと、はじめの肩をバンバン叩きながら、
「いやーーー! ええ名前やないか。絶対忘れんわ、インパクトありまくりやん!
この名前でTwitterとかやってたら、つい見てまうな!」
「……Twitter」

その言葉を聞くと、はじめは再びガクッと肩を落として、ビールをちびちびと飲み始めた。

「……なんや、悩んどるのか、Twitter」
「……だって、ここ最近怖くないですか?」

はじめはそういうと、副業と同時にTwitterを始めたこと。
頑張ってアカウントを伸ばそうと思っていた時に、アカウントの凍結祭りが始まり、毎日戦々恐々としていること。
ビールをちびちび飲みながら、ポツポツと語った。

一通り聞いた後で針金男は、
「……なるほどなあ、確かにそれは怖いよなあ」
はじめは、
「副業を伸ばすのにTwitterって、必要不可欠じゃないですか。時々ツイートする、趣味の発信だって楽しいし。……でも、クリーンな運用をしているアカウントが、いきなり凍結されたりするのを見ると。……正直、怖いです」
そこまで一気にしゃべると、グイッとビールをあおる。

「……イーロン・マスク」
針金男がポツリとつぶやくと、はじめの肩がビクッとなる。
「……そうですね、彼がCEOになってから、気の休まる日がありません。朝起きて、バンされてないかおそるおそる、自分のアカウントを確かめてます……」

「たしかにイーロン・マスクがCEOになって、加速度的にTwitterが変わっていったなあ。アルゴリズムとか研究しとるんか?」
「……ええ、それは一応、情報はチェックしています。でも、アルゴリズムだってどんどん変わっていくじゃないですか」
「せやなあ、突然インプが公開されたり、いいね、リプ、RTの価値が変わったり、ホンマにコロコロ変わるよな〜」
「そうなんですよ……。そうかと思えば、いきなりCEOを降りたりして。次は何がどう変わるのか、気になって気になって……」
ため息をつくはじめの横で、針金男は言う。
「……一つだけ変わらんもの、あるやん」
「……?」
「イーロン・マスクや」
「……」
「だってそうやろ、CEOを降りたにせよ、おそらくこの先も彼の意向は入ってくる。そしたらアルゴリズムなんて枝葉やと思わんか?」
「……なにが言いたいんですか?」
「Twitterの未来を考えるなら、まずイーロン・マスクのことを知らんと話にならん。そう言ってるんや」
「……あ」
「そもそもやけど、はじめちゃん。
 彼が、どこの国で生まれたのか知ってるか?」


イーロン・マスクの原点


針金男の言葉に、はじめは固まる。
「……え、なんとなくですが、アメリカじゃないですか?」
「ほー、その根拠は?」
「だって、テスラ(電気自動車)とか宇宙事業とかTwitterとか、拠点はすべてアメリカじゃないですか」
「……だから、出身がアメリカ?」
「……違うんですか?」
「南アフリカや」
「……え?」
「ミ・ナ・ミ・ア・フ・リ・カ」
「えーーーー! そうなんですか」
「South Africa」
「(冷たい感じで)……なんでネイティブっぽく言ったんですか」
針金男は一瞬キョトンした顔をした後でニカっと笑うと、
「はじめちゃん、ええツッコミするなー!」
そういって、はじめの頭をわしゃわしゃする。

「……ちょ、やめてください!
 それはそうと、本当に南アフリカなんですか?」
「せや、1971年6月28日、南アフリカ共和国・プレトリアという町で、イーロン・マスクは生まれたんや。……南アフリカといえば、なにか思い浮かぶことないか?」
「……あ」
「あ?」
「アパルトヘイト!」
「せや、いまさらいうまでもないが、その昔、南アフリカ共和国は有色人種……。まあ主に、黒人さんやな。彼らに対する人種差別で知られた国やった」

そういうと、針金男はビールをグイッとあおる。
「彼が生まれた当時(1970年代)の南アフリカでは、人種差別・アパルトヘイトを推進する政府のプロパガンダ……、まあひたらくいえば国家ぐるみの洗脳やな。このプロパガンダが氾濫してたんや」
「……どんなことが起こったんですか?」
「徹底的な黒人差別や。黒人には選挙権すら与えられなかった時代もあったからな。真実は常にフェイクニュースの影……。新聞は紙面が黒く塗りつぶされた状態で届くこともあったらしいで」
「そんな時代に、白人として南アフリカで生まれたんですね……」
「いろいろ思うところはあったと思うわ」
「……というか、そもそもどうして南アフリカなんですか? 両親は二人とも南アフリカの人なんですか?」

イーロン・マスクに影響を与えた〝冒険家〟

針金男がニヤッと笑って話し始める。
「南アフリカ出身はお父さんだけや。お母さんはもともとカナダ人やった」
「カナダって。カナダからだと……、北大西洋のさらに向こうじゃないですか!」
「……キーマンは、お母さんのお父さん。
つまりイーロン・マスクのおじいちゃんや。この人が凄まじい人やった。
一言でいうと〝冒険家〟
「……冒険家?」
「まあ、フロンティアスピリッツの塊のような、この人自身がロケットみたいな人やったっちゅうことや」
「……もう少しわかりやすくお願いします」
「……すまんすまん。
このおじいちゃんは、カナダでカイロプラクティックの診療所を開いて順風満帆な人生を送っとった。ところが、ある時すべてを投げ打って新天地・南アフリカを目指したんや」
「どうしてまた……?」
「その頃(1950年頃)カナダ政府の締め付けが厳しかったらしい。それに反発したんやな」
「……にしても、南アフリカって。誰か知り合いでもいたんですか?」
「いや」
「……へ?」
「縁もゆかりもない土地やねん」
「……クレイジーですね。じゃあ住むところを探すのも大変だったでしょ?」
「自家用飛行機で、あたりを飛んで探したらしいで」
「ええーーーー!!」

はじめの大声に、周りの客が少しざわつく。
「……こんなんで驚いとったら、この先、心臓がもたんぞ」
そういって針金男はカラカラと笑いながら、ビールをあおる。
「……とにかく新しいものが好きな人やったらしい。
この冒険家じいちゃん、とんでもない記録持っとってな。自家用機でアフリカからオーストラリアへの飛行を成功させた世界唯一の人らしいわ。まあ今どき、こんなことやろうなんて人間おらんからなあ」
「規格外ですね……」
「冒険家じいちゃんは、イーロン・マスクが生まれた翌年(1972年)に亡くなっとる。せやから本人からじっくり話を聞いた、というわけやない」
「……それでも、きっと周りが教えたでしょうね。あなたのおじいちゃんはすごい人だったんだよって」
「せやな。……ほら伝聞って、あまりにすごいと、もはや〝伝説〟になるやん。もうこの世にいないからこそ、強烈なインパクトと憧れを孫に残したんちゃうかな」
「……そう考えると、インターネット、電気自動車、宇宙事業、そしてTwitter。次から次へと手を出していく、イーロン・マスクの姿にも納得がいきます」
「そう思えることが大事なんや」
「……え?」
「次から次へとTwitterを改革していくイーロン・マスクを、ただハタからみていると、なんや怖い人やな〜とか、なに考えてるかわからんヤツってなるけど、ルーツや生い立ちを知ると、どこかストンと納得するやろ」
「……そうですね」
「さっきオレが、アルゴリズムが枝葉や、っていうたんは、そういうことやねん」
「幹はイーロン・マスクの人生ですよね……」
「話が途中やったな。彼の両親がどういう人だったか、知っとるか?」

超個性的な両親

「……いや、分からないです。
そう考えると、これだけ話題になっている人なのに、ぼくはホントに何も知らないんですね。ちょっと恥ずかしくなってきました」
「まあまあ、そんなに落ち込むことないで。そういう人多いと思うで。今から学べばええやないの」
針金男はそういって、はじめの背中をバンバン叩く。

「……で、どういう人だったんですか? イーロン・マスクの両親って?」
「せやなあ、自分いまスマホ持ってるやろ?」
「はあ……(ポケットからスマホを取り出す)」
「Twitter開いて「Maye Musk」って検索してみ?」
「(検索する)……白髪のかっこいい女性が出てきました。フォロワーは……90万人!?」
「その人が、イーロン・マスクのお母さんやねん」
「ええーーーーーーーー!!」

はじめの大声に、周りの客がまた少しざわつく。
「ホンマ、はじめちゃんは、ええリアクションするわー。こんなに驚かしがいがあるヤツ、そうそうおらへん」
「いやいやいや、これは驚くでしょう? なんですか、この美貌!」
「お母さんは、モデルさんやねん。70歳を超えた今でも現役バリバリ。……さっき、はじめちゃんが驚いた通り、フォロワー90万人のインフルエンサーや。もっと詳しく知りたかったら……「72歳、今日が人生最高の日」って本読んでみるとええわ。Kindle版もあるで」

はじめがスマホで検索すると、インパクトのある表紙が目に飛び込んでくる。
両手を腰にあてて、素晴らしい笑顔を浮かべる白髪の女性。
「これがイーロン・マスクのお母さん……」
「読むとわかるけど、おもろいお母さんやで。
 本に登場する、このフレーズがめっちゃ好きやねん。
〝わたしは墓石に「彼女は美しかった」と刻まれるより「彼女は面白かった」と刻まれたい〟この言葉を地でいくような人生を送っとる。めっちゃエネルギッシュで、最高にハードな人生や」
「……たとえば?」
「有名な話やけど、メイさん一時、モデルの仕事を干されたことがあるんや。……で、どうせ仕事がこないならと、髪を染めるのをやめて、ベリーショートにしたんやって。髪が伸びると、白髪と染めてた部分が混ざり合ってみっともないからな。そしたら……」
「なにが起こったんですか?」
「自然体で暮らしているのがエエって、タイム誌のキャスティングディレクターの目にとまって、健康コーナーの中扉を飾ったんや」
「へーーー! グレイヘアのはしりみたいな人なんですね。じゃあお父さんはどんな人だったんですか?」

はじめがそう問うと、針金男を目を閉じて、眉間のあたりを中指でおさえて考え込む。
「……どうしたんですか?」
「仕事はエンジニアやった。優秀な人やったらしく、稼ぎも良かったそうや。でも……」
「でも……、なんです?」
「さっき教えた、メイさんの本によると、決して良い父親ではなかったようやな」
「どういうことですか?」
「まあ、日本風にいうたら、めっちゃ亭主関白な人やった。……ということやな。昭和の頃にもおったやん、この家のルールは自分!……みたいな親父さん。あれをもっと強烈にした感じやな。イーロン・マスクにとっても父親の存在は、パンドラの箱みたいなもんで、当時のことはあまり語りたがらんそうや」
「そうなんですね……」
「でもまあ、そこはモデルとエンジニアの両親や。
どっちも高級取りやから、裕福な家で育ったということは間違いないわ」

幼少時代のイーロン・マスク

「そうなると気になるのが、子供の頃のイーロン・マスクですね。
一体どんな子どもだったんですか?」
「およそ4000グラム」
「……え?」
「メイさんの本に書いてあるけど、彼が生まれた時の体重や」
「大きな赤ちゃんだったんですね」
「……しかも」
「??」
「頭が大きな赤ちゃんやった。だから産むのもタイヘンやったらしい……。ほら、赤ん坊って頭から産まれてくるやん。鎮痛剤を使わない自然分娩やったから、なおのこと、ツラかったやろうな……」
「……なんというか、母は偉大ですね」
「せやな。お互い母親には感謝せんとな……」
そう言って、二人はチビりとビールを飲む。
「……4000グラムはひとまず置いといて。彼がどんな子どもやったか、話していこか」
はじめが小さく頷く。
「〝本の虫〟やったらしい。
家族で買い物にいくやん。……で、しばらくするとイーロン・マスクが行方不明になるねん」
「……タイヘンじゃないですか!」
「それがそうでもないんやな〜」
「……??」
「大抵は近くの本屋さんに行くと見つかったそうや。そのぐらい本が好きやったんやな」
「どんな本を読んでいたんですか?」
「J・J・Rトールキンの『指輪物語』とか好きやったそうや。
……で、こっからがすごいねん。集中力も並はずれていたから、どんどん本を読んでいってしまう。ついには、学校の図書館でも近所の図書館でも読む本がなくなった。……次になにを読んだと思う?」
「なんです?」
「……ブリタニカ百科事典」
「……あのう」
「なんやねん」
「……あれって読むものなんですか?」
はじめがそういうと、針金男はカラカラっと笑って
「せやなあ! 普通の人は読まんわな。普通の人はやらんことをやった。だからこそ、普通の人が決して歩けん道を、イーロン・マスクは歩いてるんちゃうかな」
「……普通じゃないことをやる」
かみしめるように、はじめが小さくつぶやく。
「人生、仕事、副業、SNS。
どんなことでも〝他の人がやらん領域までやる〟っていうのは、大事なことなんやで、きっと」
この言葉に、はじめは少し考え込む。
残り少なくなったビールを一気に飲み干し、
「すみませーん。ウーロン茶!」
「……お、ビールやないんか?」
「ここからは、シラフで聞きます」
針金男はニヤッと笑うと、自分のビールを飲み干し、
「お兄さーん、ウーロン茶一つ追加で!
……それじゃ、続きいこか。この天才少年がこの後、どうなったのか?」


参考文献&参考動画

「イーロン・マスク 未来を創る男」(講談社)
「72歳、今日が人生最高の日」(集英社)
「中田敦彦のYouTube大学」


第2話

第3話



これでまた、栄養(本やマンガ)摂れます!