「最近、なに読んでる?」
「最近、なに読んどる?」
彼女との会話は、大体これで始まる。
その頃の私は、本といったら役に立つものしか読めなかった。
例えば、仕事に関係する本や、健康について書かれている本。
一方、彼女は長編小説(←しかも、なんか難しそうなやつ)。
強い女性が主人公っていうのが好きらしい。
彼女からは、色んな本を教えてもらった。
「このマンガは深いで~。」と言いながら貸してくれたのは
手塚治虫の「ブッダ」だった。
おしゃれな紙袋から、それが出てきた時にはちょっと笑ってしまった。
それから「松下幸之助」の本。
ゆるふわパーマの彼女が、大切にブックカバーまでかけて持っていたから、
なんかもっと、さらっと読める小説だと思ってた。
「人生、一度は読んどいた方がいいで!」
彼女のお守りのような本を借りて、ちょっと恐縮した。
彼女は、旦那さんの仕事の関係で、関西に戻ることになった。
引っ越しするちょっと前、私は自分の本を彼女に貸した。
「ソフィーの世界」という、哲学のファンタジー小説。
小説を読まない私が唯一持っていた、そういう本。
引っ越しと一緒に持って行ってくれたらいいって思ったのだ。
古い本だったから、プレゼントにはならないけれど、
なんか私より、彼女らしい本だと思ったから。
そんな彼女とは年賀状のやり取りくらいになってしまい、
今年、年賀状が大変になってしまった私のせいで、途絶えてしまった。
・・・と思ったのだが、台風の翌日に
「そっちは大丈夫かー?」
何年かぶりのメールをくれた。
「大人になると仕事とかママ友以外で、
純粋な友達ってなかなかできないよな~。」
そんなことを話しながら、お互いの家に本を持ち寄り、
ご飯を食べながらダラダラ過ごした仲なのだ。
私たちは会おうとしなければ、会えない距離にいる。
もしかしたら、一生、会えないかもしれない。
でも、もし会えたとしたら、話題は決まっている。
「最近、なに読んでる?」
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