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おうまがどき

その日は学校で用事を頼まれて
普段より帰りが遅くなった
春が来たといっても
夕方から夜に近付くと
寒いし暗くなるし
目がぼんやりする

おうまがどき…?
洋ちゃんが言ってたけど
洋ちゃんは私の母の妹、叔母ちゃんで、
こわい話をよく教えてくれる人

「逢魔が刻にはね…
  この世とあの世の門が開いて
  悪い心のまま死んだ人が
  ウヨウヨ出てくるのよ…
  学校から気をつけて帰りなさい」

そんな風に言われたなぁ

おうまがどきは、
夕焼けから夜にスーッとなってく
あいまいな時間で
何故かものが見えにくくなる
だから車も自転車も危ない
私は気をつけて帰ろうと思った


でもお腹もすいたしこわいしで
急足から駆け足になった

こわい、こわい
早く家に帰ろう


その時、
一すじの光が目の前をサッと走って
一瞬前が見えなくなった

その目がぼんやりしか見えなくて
私においでおいでする白い手に見えた

何?誰?
声も出せずにふらふらしてた


ビビーッと車が大きな音を鳴らして
すぐ目の前を通ったけど
全然気付かなかった
私、どうしたのかな…って思ったら
また白い手がおいでおいでした
今度は白いワンピースに長い黒髪が見えた
ただうすぼんやりだったけど

その度に車にパッシングされたり
クラクションをけたたましく鳴らされて
目がチカチカしてた


どうして…?
家に帰れないよ…めまいがした


おいでおいでの手が私の肩をつかんだ
助けてくれるのかな…
私はついて行きたくなった


その時
「あんた何してんの?!」と
背中を2回叩かれた

洋ちゃんだった

洋ちゃんはきびしい顔をして
でも車から守ってくれた

「洋ちゃん…あのね…」と言いかけたら
「いいよ、分かってるよ」と、
洋ちゃんはもう2回背中を払ってくれた

「あんた、逢魔が刻は気をつけなきゃ
  連れていかれかけたよね」

あぁ、そうか
あの白いワンピースの人は
いい人じゃなかったんだ
あの世からウジウジ出てきたんだ
人じゃなかったんだ…
優しい人かと思ったのがいけなかった
洋ちゃんの言う通りだった


「逢魔が刻は気を引き締めな
  あんたは優しいから連れてかれるよ
  あたしがいる時はいいけど
  ほんと、気をつけて帰るのよ
  帰れる?」
「うん、大丈夫
  洋ちゃん、ありがとね」


そうしてバイバイして家に帰ったら
洋ちゃんに言われた通り気をつけて、
ついでに目をデカ目にして
強気で帰った


これからもこんなことがありそうかな
洋ちゃんの言う事を守ってたら
連れてかれることはないよね
周りをよく見て
心を強くして
で、車や自転車や
訳のわかんないものに気をつけるんだ


家に着いたら
お母さんが心配してた
洋ちゃんが連絡してくれてたから
家から少し歩いてきてくれてた


小さい頃から
洋ちゃんに背中叩いてもらってばかりだ
おうまがどきは基本避けられますように

明日は早く帰れますように
私は小さく口を動かして祈った


よく逢魔が刻に魔物に出逢う少女の話



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