「面白いことして」について考えた

よく飲み会やバイト先などで言われる。
「芸人でしょ?なんか面白いことして。」

これは芸人の宿命だし、お笑い芸人なら100人中、100人は言われたことがあるセリフだ。

僕も今まで何十回とこの攻撃を食らっている。

これの返しは本当に難しい。

例えば、僕がプロのダンサーだとする。
「ダンサーでしょ?踊ってよ。」
まあ、多分まだ踊れると思う。
なぜなら、ダンスというのは素人が見ても、上手い、下手は明確に分かる。

でもお笑いというのは、受け取り側のスタンスやそのときの状況によって、面白い、面白くないというのは大きく変わる。

あるライブではめちゃくちゃウケたネタやギャグも、他のライブではめちゃくちゃスベったりするし、そもそも絶対笑わないで見ようと思えば、漫才日本一を決めるM-1の決勝だろうが、コント日本一を決めるキングオブコントの決勝だろうが、ゼロ笑いで見ることができるのがお笑いだ。

だから、この「面白いことやって。」はとても難しい。
仮に面白いことをやったとしても、それを受け取る側に笑う気がなかったり、そいつの笑いのツボにハマらなかったら、それは面白くないになる。
また「その場の空気に合った必ず面白いことをする。」というバカ高いハードルも越えていかないといけないのだ。

僕は毎回、この攻撃を喰らうたびにムッとするし、どうやったらこの攻撃を上手く返せるか考える。

「お前が、面白いことできないだけだろ。」と言われたらそれまでだが、僕だって舞台に立ったことない素人よりは階段を登ってきたつもりだ。

ネタ番組にも出ているし、キングオブコントなどの賞レースもそれなりに結果を残してる。

勿論、大前提売れてないし、こんなの自慢にもなんない。僕の上にはもっと面白くて、結果を出している芸人がたくさんいることも分かっている。
ただ、僕はその辺の「面白いことして。」とか言ってくる素人やそのツレよりは面白いと自負しているし、お笑いのことについて考えてる。
だから、そいつらにバカにされるのは我慢ならないんだ。

そこで僕はこの「面白いことして。」についていくつか対策を考えた。


①間髪入れず、全力でギャグをやる。

これは芸人としては真正面からぶつかる一番カッコいい戦い方だ。

ポイントは間髪いれずというところだ。
時間をかけないことで、相手の待ち時間を減らし、ハードルもそんなに上がらなくて済む。

また、全力でやり切るというのも大事だ。
恥や照れを捨て、全力で大きい声でやれば、それだけで素人との違いを感じさせることもできる。

ただ、これは僕はできない。

僕は舞台上で元気にギャグなんかやるタイプでもないし、そもそもそんなギャグなんか持ってない。
何度か無理やりやったこともあるが、スベったときの恥ずかしさと悔しさは僕には耐えられない。
スベった後、「うわー、面白くない。」と言われた日には、勿論のごとくマジギレさせていただいて、変な空気になってる。

②ちゃんと断る。

これはこちらは傷つかなくて済むが、相手に逃げたと思われて、変な空気になる。

よく「じゃあ今度ライブ見に来てくださいよ。そこで面白いことしますんで。」という返しをしていた。
これはここで戦うより、自分の土俵に持っていこうとする作戦だ。
僕はギャグなんかはろくに持っていないが、ずっとネタを作ってコントをやってきた。だから、自分が時間をかけて考えた自分たちの全力の勝負ネタをぶつければ、面白いと言わせる自信がある。仮にこれで面白くないと言われても、自分の100%の力を出して響かなかったんだから、悔いもない。

でもこれもあまり効果はなかった。
てか、そもそもそんなやつ、ライブに来ねーし。

あと相方に「今日はオレをバカにしたヤツが来るかもしれない。だからこの前のライブで1位になったあのネタをさせてくれ。」と言ったら、「そんなヤツ構うなよ。だせーなー。」みたいな目をされた。

結局、僕はこの断るという技を1番使ってるが、自分でも逃げてるなーっていう負い目が少しある。
でも相手に「そんなこと言って面白いことできないだけでしょ?逃げてるだけでしょ?」なんて言われたら、勿論のごとくマジギレ&変な空気にさせていただいている。

③モノマネや特技をする。

結局はこれが最強だ。
モノマネや、大道芸みたいな特技は、面白くなくてもすごいと思わせることができる。
ダンスが上手いと一緒だ。

しかもモノマネに関しては十中八九面白い。
なぜなら、そのマネをされる有名人の力を借りてるからだ。

またなにか代表的なギャグなどで一発世に出たやつも無敵だ。
おばたのお兄さんやひょっこりはんは、これから「まーきの」や「ひょっこりはん」さえやれば、もう「面白いことやって。」に勝つことができる。
まあ、面白いから世に出たわけだが。

でも、僕は勿論世に出たギャグもなければ、モノマネや特技も持ってない。

「じゃあ作れよ」と言われるが、なかなか作れない。
向き不向きがある。
でもナメられるのは嫌だ。

一度、飲み屋でよくわからない万引きオヤジみたいなやつに「芸人なら、そういうのは全部できないとダメだ。オレでも会社の宴会とかのときは、何でもやってウケてるぞ!」と言われたが、マジギレさせていただいた。


④売れてる芸人のあまり知られてないギャグをパクる。

これは、COWCOWの多田さんや流れ星ちゅうえいさんのまだテレビとかじゃあまりやってなくて、知られてない面白いギャグを自分のモノの様にやるというものだ。
ウケたらオッケーだし、スベって「面白くない。」と言われたら、「いや、これ実は売れてる先輩のギャグだから。キミのセンスがないだけじゃない?」と言える。

ちなみにこの方法を教えてくれた後輩のしみったれるなというコンビの清水はもっとすごい。
毎週、清水はとあるラジオ番組にアシスタントとして出ていたらしいのだが、楽屋でそこのプロデューサーに「面白いことやって。」と言われると、「じゃあ大喜利します。」と言って、自分でお題を出して、それを答えていたらしい。
そのとき、IPPONグランプリという大喜利番組での千原ジュニアさんの答えを言って、もしスベると「これジュニアさんの答えですから。」と言っていたらしい。
これを自分よりも遥かに偉い、しかも同じ業界のスタッフさんにやっていたというのだから、あいつは強者だ。

ただ、これもあまりいい方法じゃない。
まずウケたとしても後からパクったのがバレたときに、とても恥ずかしい。
それにスベって面白くないと言われたとき、僕がいつも通り「これR-1というピン芸人の大会で優勝した多田さんのギャグですから。面白いはずなんですけどねー」としたり顔で言ってると、そいつに「いや、それは多田さんがやるから面白いのであって、キミがやっても別に面白くないんだよ。」という、ぐうの音も出ないことを言われたことがある。

僕はいつのまにか芸人のギャグをパクる大学生に成り下がっていたんだなと思って、すごい自己嫌悪に陥った。このときはさすがにマジギレしようがなかった。でも家に帰って寝る前に腹が立ったので、そいつに文句を連ねた長文LINEをぶちかまして、ブロックした。


⑤わざとスベる。

これはもう変な空気になる前提の戦い方だ。

「面白いことをして。」と言われた瞬間、間髪入れず立ち上がり全力で腰をくねらせながら「ウンコ、ウンコー」と叫ぶ。

勿論、相手は「は?」ってなる。
僕は「ん?やったよ?キミにはこんくらいのレベルが面白いでしょ?」と言う。
自分が傷つく前に相手をバカにするのだ。

この方法はほぼ100%ケンカになるので、僕もあまり使わない用にしている。
だけど、あまりにも相手がナメてるヤツだったり、別に気を使う必要もない相手だったら、たまにこの技を出す。

⑥マジギレする

これは「面白いことやって。」と言われた瞬間、変な熱血スイッチを入れて、相手を説教するという方法だ。

そのときこちら側の理論としては、
「じゃあ、あなたが風俗嬢だとして、今ここでエッチしてよ。って言われたら、エッチするの?」か、「一応プロとしてお金をもらってやってるから。今ここで無料でやったら、お金を払って見に来てる人に申し訳ないだろ!」だ。

まあ、これも変な空気になる前提の戦い方だ。

僕でもこの方法はあまり使わない。
変な熱血スイッチを入れるのも恥ずかしいし、理論もよく考えたらちょっと意味わかんないからだ。

結論…

結局、僕はどの方法を使っても、大体マジギレのゴールに行き着いて変な空気になっている。
だからこんな対策なんかを考えるより、まず自分がネタを磨き、世に出ることが1番の対策なんだと思う。
自分が売れさえすれば余裕もできて、こんなしょうもないことを気にしなくてもよくなるのだ。

それに色々書いて思ったが、やはり芸人として1番カッコいいのは①の戦い方だ。
「面白いことをして。」に真っ向から戦って、ウケる。
スベって「面白くない。」と言われても、「もっと精進しまーす。」と言って笑って受け流す。
僕はそんな戦い方をしている芸人を何人も見てきた。

この前、とある先輩が接待カラオケで、女の子に「面白いことして。」と言われて、ギャグをしてスベった。
そのとき女の子に「つまんねーんだよ。」と言って蹴られていたが、その先輩は笑って受け流した。
僕はトイレに行ったとき、先輩に「なんでキレなかったか?」聞くと、先輩は答えた。
「別にあの女を笑わすために芸人やってないからさ。アホな三歳児に面白くないと思われても、なんとも思わないし。まあ、いつか売れて見返せばいいよ。」
先輩はそう言うと、カラオケ館のセーラームーンのコスプレを着て、また盛り上げに戻った。

なんかカッコよかった。

僕も次は久しぶりに①の戦い方をしようかな。

そう思った矢先、Twitterで僕たちのことをつまんねーって言ってきたヤツにブチギレた。
僕がこの【売れてねー芸人のクソプライド】を捨て去るにはまだちょっと時間がかかりそうだ。












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