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『平穏世代の韋駄天達』は価値観を疑う天原節の到達点

今期1番好きなアニメは『平穏世代の韋駄天達』

記事を書いている時点で7話まで放送&配信済み。フジテレビノイタミナ枠アニメとして放送されていて、Amazon Prime Video、FODで見放題配信中なので是非!私はアマプラで見ています。

“価値観”を疑い続ける天原先生

原作の天原(あまはら)先生は同人作家出身で、私は同人誌『貞操逆転世界』を一読してすぐに、この人は天才だと夢中になってしまいました。男性と女性の貞操観念が逆転していて、書店に並ぶエロ本には男性のあられもない姿が並んでいるという世界が舞台のエロ漫画。

天原さんが描く世界のテーマは、一貫して“価値観”。まさかの地上波アニメ化されたものの、やっぱりエロ過ぎて途中から地上波での放送ができなくなった『異種族レビュアーズ』も、“レビュー”ですからまんま価値観の物語。ファンタジー世界における様々な種族が、それぞれの種族ごとに人間には人間の、獣人には獣人の、ラミアにはラミアの価値観があって、何を持って魅力的な異性だと感じるかはそれぞれだというのがテーマの作品です。

“それぞれ違う価値観”の到達点としての韋駄天

『平穏世代の韋駄天達』の主な登場人物は、“韋駄天”と呼ばれる神様達。洋の東西を問わず、神話に登場する神様の価値観ってワケが分からなくって、人間の尺度ではとても測れないものとしてお馴染みです。“価値観”を疑うことを突き詰めていって神様に到達した、天原帝国節の到達点なわけです。

価値観というものは、“避けられないこと”にどうしても規定されてしまいます。例えば、現実の女性の性行為についての価値観は、そこに妊娠、出産がついてまわることの影響を受けざるをえません。『貞操逆転世界』はそこを無視する思考実験の世界観だったわけです。その点、韋駄天達は、様々な生物の思念が集まって形を持った存在なので、呼吸も食事も必要とせず、内臓を潰されようが死にません。重力にすら影響を受けないようにすることもできます。ということは、“避けられないこと”がほとんどない究極に自由な存在なのです。

他の生物を食らい尽くしたあげくに自滅する魔族だけは、さすがに無視すると韋駄天の存在に関わるので、魔族との戦いだけが韋駄天にとって“避けられないこと”でした。そして、そんな魔族もすべて封印した後の世界に生まれ落ちたのが“平穏世代の韋駄天達”なわけで、何ものにも縛られない存在の価値観って、どうなるんだろう?オラ、ワクワクすっぞ!という作品なのです。

韋駄天達は一見するとみんな仲間ですが、みんな結局は好き勝手な価値観で動いているわけで、決して一枚岩ではありません。そこには、どちらが正しいとか間違っているとかもなくて、究極の「みんなちがって、みんないい」世界なわけです。そういう世界観の輪郭がいよいよクッキリしてきて、ここからどのように展開するのだろうと、もう毎週楽しみで仕方ないのです!

“俺が考えた最強のキャスティング”的な声優陣

そんな韋駄天達の声優陣が豪華すぎて、ちょっと頭が悪い感じがするくらいです。やり過ぎです。

孫悟空的ピュアなバトルマニアキャラであるところのハヤトを演じるのは、朴璐美さん。

そんなハヤトを何かとなだめる立ち位置の眼鏡キャラで、裏で何をやっているのかイマイチ謎な雰囲気がぷんぷんなイースリイを演じるのは、緒方恵美さん。緒方さんがノリノリで演じて手応えを感じまくっているのがTwitterのつぶやきからもひしひしと伝わってきます。

そんな二人と行動を共にするツインテールの常識人ポジションなポーラを演じるのが、堀江由衣さん。

そんな三人の保護者役的な絶対強者な師匠であるところのリンを演じるのが、岡村明美さん。

三人の兄弟子的な立ち位置で、それでも師匠のリンにはまったく敵わないけれど、それは脳筋的な意味に限っていて、違う方向性では最強なのかもという匂いをぷんぷんさせるプロンテアさんを演じるのが、石田彰さん。石田彰ボイスなので、何か裏があるに決まっているとにらんでいます。

ね、中学生が考えた感じの“俺が考えた最強の声優陣”でしょ!?実現しちゃうものなんですね。

価値観を疑うのは高知県の伝統芸?

今回、この記事を書くにあたって調べていて、天原先生が高知市在住だと知って衝撃を受けました。私も高知市に住んでいたことがあって、高知県が漫画家を輩出しまくっていることから開催されている漫画のイベント“まんさい”を市民ボランティアとして手伝っていたからです。地元のカオス即売会であるところの黒コンこと黒潮雑貨とか参加してたのかも。もしかしてニアミスしていた!?

高知県が生んだ最も有名な漫画家と言えばやなせたかし先生なわけですが、敗戦によってあらゆる価値観を疑わざるをえなくなった中で、唯一正義として疑いようがないとやなせたかし先生が信じられたのが、「飢えている人にわが身を削って食べ物を分け与えること」だったことからアンパンマンが生まれたというのは有名な話です。『アンパンマンのマーチ』も、何が幸せなのかを問い続けて価値観を揺さぶる名曲ですし。

西原理恵子先生も高知出身で、世間の価値観を揺さぶり続けていることはご存知の通り。

どんなコンテンツも、大なり小なり価値観を問う要素はあるわけですが、高知県出身漫画家は、その傾向が強烈だなぁという思いを、天原先生という実例が加わったことで改めて強く強くしたのでした。私も価値観を疑いがちなので高知は殊更に居心地が良かったのかも知れないと思ってみたり。

何はともあれ、『平穏世代の韋駄天達』めっちゃオススメです。エロ要素が時々差し込まれてドキッとすることはありますが、この作品に限ってはあくまでスパイス程度なので、幅広くオススメするものであります。『異種族レビュアーズ』の方は、見る人を選びます。

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