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『ザ・ノンフィクション』に出た話と「業の肯定」という最強の補助線

フジテレビの『ザ・ノンフィクション』というドキュメンタリー番組に20年前に出たことがあります。「東京ラフストーリー」という副題で、青春をお笑いに捧げた大学生達の群像を描くドキュメンタリー。ナレーションがオセロ中島知子さんというのが時代を感じさせます。私は、お笑いで培ったスキルや獲得したタイトルを武器に就職活動に勤しむ計算高い東大生というキャラクターで描かれました。

メインで描かれたのが、早稲田大学のコント集団WAGE。私は勝手にライバルだと思っていましたが、一度も勝てたことはありません。WAGEは、当時の関東の学生お笑いコンテストを総なめにしていました。芸能事務所アミューズから声がかかり、プロになることを選ぶメンバーと、普通に就職するメンバーとが出てきて、いろんな迷いもあり、といった感じの内容。

WAGEはその後、『エンタの神様』などのネタ番組にもちょこちょこ出たりして、私もテレビで見てスゴいなぁと思っていたのですが、結局2006年に解散してしまいました。ところが、それでもお笑いを諦めなかったメンバーの小島よしおさんがピン芸人としてブレイクし、同じくメンバーだった岩崎宇内さんと槙尾ユウスケさんのコンビ・かもめんたるがキングオブコント2013で優勝。我々世代の学生お笑い界のヒーローだったWAGEの活躍ぶりは、本当に嬉しい限りです。

そんなWAGEとの最初の出会いは、長野県の温泉郷で開催された学生お笑いコンテストでした。立川志らく師匠が中心になって立ち上げた大会で、審査委員長は立川談志師匠。WAGEのユニット・ハイデハイデが色物部門優勝で、私のコンビは2位の審査員特別賞でした。

大会前夜、出場する大学生を集めた大宴会場で、学生達に何か話してやってくれと志らく師匠から促された談志師匠が、覚醒剤の使い方の話を始めて、みんなリアクションにめちゃくちゃ困ったのを思い出します。これぞ、談志師匠が常に語っている

「落語は人間の業の肯定」

ってやつだなと思ったものです。「人間の弱さや愚かさを認めたうえで、そうした人間らしさを描き出すことこそが落語である」というのが談志師匠の落語観でした。そして、私はこれは、落語に限らずお笑い全般についての最強の補助線だと思っています。

『キングオブコント2021』は、お笑い大好き人間として、最高に楽しかったです。出場者みんな全力で、人間の業を肯定していました。空気階段1本目のSMクラブ火事ネタや、ザ・マミィ1本目の普通は関わりたくないタイプのオジサンネタなどは、人間の業の描き方が本当に見事で、だからこそ味わい深い面白さがあるなと感じました。

最近のお笑いブームは凄まじいものがありますが、これは世の中全体が人間の業を肯定する流れになってきたことも大きいと思っています。人間の多様性をありのままに受け止めることが大切って、要するに業の肯定ってことですよね。私のお笑いサークルも、業を肯定しまくっていましたし。

もしかしたら、人間の多様性との向き合い方を、社会はお笑いから学ぼうとしているのかもしれません。

何はともあれ、お笑い好きにとっては、本当にいい時代になりました。今日から始まった新しいコント番組『東京03とスタア』も面白かったです。TVerで配信してくれて本当にありがたい。途中ちょっとダレてきたかなと思わせておいて、そこから二転三転してたたみかけてくる演出は、お客さんが簡単には逃げない舞台的な攻め方だなと思いました。何より、それはそれは見事な業の描き方でした。いろんなタイプのお笑い番組が増えてきて、本当に幸せです。