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菅波先生のプロポーズに心の声を補ってみた

コインランドリーちょっと覗くだけと思ったら、ちょうど百音さんいた!ああ、寝顔かわいいなぁ。プロポーズするって決めてきたけれど、僕があなたを幸せにしますって言うのは百音さんの幸せを僕が規定してしまって傲慢で、僕が真に理解できるのは僕の喜びだけなワケで、だから、僕が幸せになる自信はあるとだけ伝えるところまでは決めていて、それってつまり、僕は百音さんと結婚することで僕はこんなに幸せになれますと提示するだけなわけだから、そうしたら百音さんも、僕と結婚することで本当に自分も幸せになれるか検討するためのしかるべき時間が必要なわけで、そのことを考慮すると、早めにとりあえず百音さんに検討をお願いする形にしておく必要があるかもなぁ。そもそも次の段階として自分は結婚をイメージしているけれど、事実婚などの選択肢もあるわけで、そこはふたりでじっくり話し合って…って猫さん鳴き声大きいよ!百音さん起きちゃう!洗濯機のアラーム音で起きる形が一番合理的なのに!もっと百音さんの寝顔を見ていたいし、まだいろいろ決めきれてないのに…

え!?いつ?」

「さっき」

「起こしてくれたら良かったのに」

「疲れてるだろうと思ったから」

本当にどうしよう…。とりあえず中村先生に教えてもらったフレンチの店に明日のディナー予約してあってそこで切り出そうと思っていて、指輪的なものについては、あらかじめ高価なものを準備して相手の退路をふさぐようなやり方はフェアじゃないと思うから、決まってから必要そうなら一緒に選びに行こうと思っているわけで、フェア…、やっぱり検討の時間を十分に与えないで決断を迫るのはフェアじゃないよなぁ…

(モネ、スマホを見て)
「返事ないか…」

「何かあった?」

「実家の方、突風で少し被害があったみたいで」

「大丈夫?」

「うん、大したことなかったって」

「そうか、ならよかった。」

ああ、大きな被害がなかったとしても、これで百音さんは、地元に帰って仕事をしたいという思いをより強くするかもしれないな。そんな百音さんのことが僕は好きだし、百音さんのやりたいことを僕が邪魔してしまうのは絶対に嫌なので、今回のプロポーズによって、百音さんのキャリアの今後を無理矢理ねじ曲げてしまうことだけは何が何でも避けなければいけない。となると、やっぱり検討してもらう時間を十分に取らなければいけないわけで…

「うん。あれ、先生、来週東京…もう来週なってますね。」

「台風酷かったから、まだ仕事忙しいだろうと思ったけど、今日、祝日で僕も休みだし、それに、明日は…」

「あ…」(ニヤニヤ莉子のプロポーズされるんじゃない?回想)

「別に合わせなくていいと思ったけど、こういうのはタイミングだから。」

そもそも結婚という制度にこだわる必要は本来はまったくないと思うわけで、でも、したいと思っている自分がいるのは間違いなくて、そこは正直、自分の中でも決して合理的に整理ができているわけではなくて。ましてや、どのタイミングでプロポーズするかに合理的な答えがあるわけではなくて、ただ、森林組合のみなさんからはずっとまだかまだかと言われ続けているし、正直、百音さんも自分と共に歩みたいと思ってくれている気はしていて、となると、いつ実際に結婚するかという問題とか、そもそも結婚という形式を選ぶ必要があるかという問題とは切り離して、少なくとも自分は百音さんと一生一緒に歩んでいきたいと思っているという意思表示を、とりあえずすることについては、早いに越したことはなくて、それがたまたま百音さんの誕生日になったわけで…って、あれ、僕には、誕生日の雰囲気に便乗することで、百音さんの自由な選択を狭めようとしている下心がないとは言えないのではないか?それってフェアじゃないのでは?

「え、ここで!?」

「え!?」

ああ、百音さんが、すっかり察してしまっている。こうなってしまうと、明日までもったいつけるのは合理的じゃないし、誕生日の雰囲気で百音さんの冷静な検討を阻害するのはフェアじゃないから、もう言ってしまおう!
問題としては、こういうイベントは、ある程度他人に話してもおかしく思われないそれっぽいシチュエーションを用意するのがマナーだし、だからフレンチレストランを予約してあるんだけど、今日はあくまで自分側の思いを早めにカジュアルに提示する場であるという位置づけにして、レストランが正式に思いを伝える場だと設定すれば、マナー問題はクリア出来るはず…

「あ…、ごめんなさい。」

「いや、ここで、ではさすがにないんだけど。今回僕がこっちに来ているうちには、と思っている。…これは、もうほとんど言ってるか…。ああ…、もう、
百音さん!」

「はい。」

「今日、僕がこっちに来たのは」

♪ピーピー

「ああ、大丈夫です。ぜんぜんまだ、ぜんぜんまだ、まだ大丈夫です。」

あれ?洗濯機が鳴ってくれたおかげで命拾いしたけど、カジュアルにとりあえず自分側の思いだけ早めに伝えるって、それこそマナー違反だ。よし、とりあえず、ぼんやりとは考えてあったプロポーズの言葉をキチンと伝えよう!そうだよ、プロポーズは一回だけなんて決まっていないわけで、ましてや返事をすぐに求めるわけではないし、僕はこれから何度だって、自分の想いを百音さんに伝えるつもりでいるんだから、その一回目として、僕は全力で百音さんに、自分の気持ちをキチンと伝えるんだ。レストランではまた今日以上に全力で思いを伝えて、その時のことを周りの方には正式なプロポーズだったって言えばいいだけだ。よし!

「永浦百音さん。」

「はい。」

「僕は、あなたが抱えてきた痛みを想像することで、自分が見えている世界が二倍になった。僕は、あなたといると、自分が良い方に変わっていけると思える。多分、これからも。だから、
……違う」

何かが違う!たしかに、僕が百音さんと共に歩むことでどれほど幸せを感じているかを伝えられそうな手応えはあった。だけど僕は、二人の関係性を、これまでと違う形にしたいと表明しようとしているわけで、それは、結婚という形に限らない、何かしら別の形でも良いわけで、じゃあ、僕はこれから何を百音さんに検討して欲しいと言おうとしているの?というか、結婚とか、事実婚とか、二人の関係性に新しい名前をつけたところで、二人の関係は二人の実際の有り様だけが決めるものであって、そこに付ける名前なんて、理屈としては何でもいいわけで…

「ん?」

「理屈ではそうだ。でも、理屈じゃない。」

「は?」

「何なんだろう?僕らの今の生活、今までの生活、どう思う?あなたは今、どう思ってる?」

「ど、どうって、たしかにずっと登米と東京で行ったり来たりで、時間もなくて寂しいなぁと思うこともありましたけど、まぁ、お互い仕事のことは分かっているし」

「僕だってそうだ!理解はしているし、関係は悪くない、でもそういうことじゃないんだ。顔を見れば嬉しいし、声を聞けばほっとする。離れる時は、もう少しこの時間が続けばいいのにって思う。
…、これだ。この、“感情”がすべてだ!」

そうだよ!百音さんを見ていると湧き上がってくるこの独占欲という原始的極まりない“感情”をいい加減認めてしまおう!森林組合で見せつけますか?って言った時も、百音さんに合鍵を渡した時も、僕は百音さんを自分だけのものにしたいと思ってしまっていた!もちろん、百音さんは百音さん自身のものだ。だけど、僕は独占欲というエゴで、結婚という前時代的な法制度の力で、百音さんを自分の隣に縛り付けたいと思っていることを認めてしまおう!これは決して理性的な態度ではない野蛮な態度だ、だけど、そんな自分の野蛮な願いを、エゴを、見て見ぬふりをしてしまうことの方がよっぽどズルいことだ!

「一緒にいたい。この先の未来、一分一秒でも長く。
結婚したいと思ってる。
…ああ、いや、今は答えなくてもいい。」

ああ、とうとう言ってしまった。決して理性的ではない申し出をしてしまった。大変感情的な申し出であり、感情的であるからこそ、百音さんが感情的に即答してしまうことだけは避けなければいけない。今、自分が伝えたことは、百音さんのキャリアの今後を無理矢理ねじ曲げてしまう可能性をはらんでいることはきちんと認める必要がある。だから、百音さんには、どこまでも冷静に検討してもらう必要があるから、何が何でもこの場で百音さんの答えを聞くわけにはいかない!

「え、あ、」

「いや、いいんだ。明日でまだ24だ。考えたいだろうし、この先のことも。」

「考えますけど、でも、」

「あなたにも仕事がある。地元に戻ろうと思っているなら、なおさら即答はできない。」

「先生、あたし…」

「僕は、東京に戻ろうと思っているし。」

「え!?」

「ごめん、先に言わなくて。中村先生から、大学病院に戻るように言われた。あなたにもちゃんと相談しようと思ってた。」

当初のプランでは、あまり“結婚”という制度に限定し過ぎない形で、二人の関係性を次の段階に進めたいとプロポーズするつもりだったから、先に僕が東京に戻るつもりだと伝えてしまうと、結婚以外に事実婚といった選択肢もあるだけに、別居事実婚という関係性は考えにくく、結局は百音さんに東京にそのままいて欲しいと迫る意味合いが強くなってしまうと心配していた。だけど、二人の新しい有り様を“結婚”という法制度に僕の方から明確に規定してしまったことで、ある意味で百音さん的には、結婚という法的立場の問題と、今後のキャリアの問題という形に整理されて、それぞれ別の問題として考えてもらいやすくなった気がする。いや、当然密接に絡み合う問題だけど、別居婚ってそれなりにあることだし。

「そうだったんですね。」

「5年間地域医療に携わってきて、その重要性は日々感じてる。まだやりたいことも山ほどある。ただ、同時に、医療の進歩も感じていて、一度戻っても良いと思った。」

「先生は東京に戻って、私はこのまま東京にいたら、一緒にいられる。」

「それが理由で結婚を持ち出したわけじゃない。あなたには、自分の思うようにして欲しい。」

ああ!これで良かったのだ。僕は“婚姻届”なんて紙切れに頼ってまで、百音さんが少なくとも法的に僕の隣にいてくれる可能性を高めたいと願っただけなのだ。どこまでも僕の独占欲ゆえの結婚の申し出であるという理解でいいんだよ百音さん。それはそれとして、百音さんには百音さんがやりたいことをやって欲しいと、別居婚という形になってでもいいから貫いて欲しいと心の底から僕は願っているんだよ。結婚という概念に、妻が仕事を辞めるとか、必ず子どもをもうけて妻はキャリアを諦めなければいけないとか、必ず一緒に暮らさなければいけないとか、そういうものがセットになっているとは僕はこれっぽっちも思っていない。もちろん、いつか二人の子どもが授かったらそれはステキなことだと思うし、力を合わせて育てていければと思うけど、そもそもそれは授かり物だし。
一方で、百音さんにももちろん百音さんの結婚観はあるわけで、その結婚観と、僕への感情と、今後の百音さんのキャリアについてじっくり検討した上で答えを出してくれたら良いんだよ。

まさかの月曜日から最大級の菅波ビッグウェーブに襲われて、正気を失って気付いたら4,000字オーバー書いておりました…。そう言えば明日9月21日は中秋の名月で満月です。月の光に導かれ、菅モネが幸せになりますように❤️

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