見出し画像

乳首芸を談志師匠に披露した時の話

『伊集院光 深夜の馬鹿力』で、キングオブコント2021を見て伊集院さんが特に印象に残ったと話していたコントが、ザ・マミィと非常階段の一本目で、そこに談志イズムを見ました。

談志師匠を敬愛している伊集院さんが、あのコントに惹かれるのは納得です。先日の記事で私も熱く語ってしまいましたが、まさに「業の肯定」コントでした。

伊集院光さんと業の肯定と言えば、伊集院さんもゲストとして出演していた『水曜日のダウンタウン』おぼん・こぼん物語も最高でした。人間のリアルな弱さ、醜さ、つまりは業の深さを等身大に描くからこそ、それを乗り越える小さな一歩の美しさに心から感動してしまうのです。

そんな私が芸人時代にやっていた芸の中に“乳首芸”というものがあります。乳首を立てて、その上にいろんなものを乗せていくという芸です。最初はうまく乗らなくて、「立ちが甘い」と言いだして、その場で一番偉い人にイジらせるというアナーキーさが鍵となる芸でした。

先日の記事で語った、信州の温泉郷で開催された学生お笑いコンテスト前夜、審査委員長の立川談志師匠が大広間で学生達を前に覚醒剤の話をしてご機嫌になった後のことです。

「誰か、芸やれ。」

と談志師匠が言い出したのです。静まりかえる学生達。

そこで、私は勇気を振り絞ったのでした。
ただ、少し勇気が足りませんでした。

温泉郷の大広間にこそ相応しい芸だと思った私は、上半身裸になって、乳首芸を披露しました。ただ、肝心の、その場で一番偉い人にイジらせる部分が、どうしてもできませんでした。談志師匠に乳首イジらせる勇気は…。

ある意味で、代表して生け贄になった私のために、みんなは心を一つにして笑ってくれました。ただ、偉い人にイジらせるというスパイスがないと、画竜点睛を欠くと言わざるをえません。微妙な空気の中、談志師匠が口を開きました。

「悪かねぇな。ただ、本当に服脱いでやっちまうってのは、芸としてまだまだだな。
昔、特に枕が絶品だって有名な名人の師匠がいてな、その師匠の枕で、
『俺のあれはそりゃあ見事にそそり立つから、こんな手ぬぐいなんかぽぉんと弾き飛ばして頭の後ろまでいっちまう。今、ここで脱いで見せてやろうか?』なんて言うんだ。見せてやろうかって言ってみんな笑わせて、結局は見せねぇ、脱がねぇ。脱いで芸を見せて笑わせるのも、悪かねぇが、本当の噺家は、最後まで脱がねぇ、見せねぇで笑わせてこそだな。」

ヘボヘボ学生芸人の乳首芸を、それはそれは見事な芸談にまとめてみせた談志師匠に、学生一同、心から拍手をしてお開きとなったのでした。

あの時、談志師匠に乳首をイジらせていたら、一生自慢できる武勇伝になったのでしょうが…。でも、そんな自分の弱さもまた、愛おしいものです。