たぶん初夢

ここは平和な村。
明るい色の建物が並ぶ。
中心には噴水があり、そこを人々が陽気に行き交う。
まるで昔のアニメ映画のようだという印象を誰もが受ける。
村の出入り口は大きな門ただひとつ。
その先には御伽の森が広がっている。

森にひとりの娘がいた。
美しい娘は、その美しさゆえに、いつか毒のある林檎を食べることになる。
そんなのは嫌だ。そう思った娘は、暗い暗い御伽の森で林檎を収穫することにした。先に全て食べてしまえば、毒を入れられることはない。
先を見通すこともできないほど大きな木が入り組んだ森に、空が見えないほど茂った葉。そこにたくさんの林檎がなっている。
僕も手伝おうか。
そう言ってみたけれど、自分の手で全てを行うから安心できるらしい。断られてしまった。
しばらく眺めていると娘の姿が見えなくなった。
どうしたんだろう、と木の裏に回ってみる。
ここは御伽の森。
その果実を勝手に消費した娘は、その不思議な根に絡まれて養分にされてしまった。
もう駄目そうだ。
村に帰ろう。

門をくぐると、ここは村。
灰色の建物に、壊れかけた噴水のある広場。
歩いていると住人たちがこちらを見る。何か、害意がありそうだ。
危険を感じたので、適当な建物に入ることにした。
僕はドアを開けた。

そこはどこかの家の玄関だった。
海外ドラマにでも出てきそうな玄関だ。
階段の上から白い服を着た子供が落ちてくる。
それを黄色い服を着た子供が追いかける。指示する緑の子は空を飛んでいる。緑の子だけは楽しそうだ。
いじめと言うには執拗すぎる暴力だ。
力の誇示などではない。もっと確固とした目的がなければ、ここまでのことは起きない。
白い子供は動かなくなってしまった。
あれはもう生きていないだろう。
そう思った瞬間、他の子どもたちが一斉に僕を見る。
目的は自分たち以外の排除か。
僕はさっきのドアから逃げた。

そこは城の一室だった。
男女二人が会話をしている。僕は気づかれていない。
「ねえ、やっぱり金の皿を増やしましょう」
女が言う。
「しかし、あの皿は高価だから簡単に増やせるものではない」
男が言う。
「相手は魔女様よ。ひとりだけ仲間はずれなんかにしたら、金の皿一枚なんて、なんでもなかったと思うくらいの代償を払わされることになる」
女は強く言う。
そこまで言うなら、と男は折れた。
その娘は糸車の錘に刺されて死ぬことも、眠ることもなくなった。
ここはこれでいいな、と僕はドアに戻った。

ドアを開けてすぐに、人魚がふたり立っていた。
「お母さん、私、あれがいい」
娘が指す先には先ほどの男女。
なるほど、愛した人を刺すよりも、泡となって消えるよりも、障害が排された王の娘として生まれる方がいいだろう。
その娘は最初から王の娘だったはずだけど、やはり陸が良かったのだろうか。
僕は彼女たちと入れ違いになるようにしてドアを通った。

僕は何度もドアを開けた。
その度にいろいろな世界があった。
大人たちが何かを企てていたこともあったし、ただ子供たちが遊んでいたこともあった。
突然怪物に襲われたこともあった。
でも逃げるのはそう難しいことではない。
ドアを閉じればよかった。
あの灰色の村に出ることもあった。
でもどこに出ても、安心はできなかった。
自分は排除されるべき異物で、気づかれてしまえば人権は保障されない。そんな気がした。
最初にいた平和な村に繋がることはなかった。

どれほどの世界を渡っただろう。
その部屋に入った時、ずっとあった誰かに追われているような感覚が突然消えた。
この部屋は安全だし、この部屋を拠点とする限り、どこに行っても安全だろう。ドアが繋がる先を任意に選ぶこともできる。自然とそう理解した。
そこは一人で住むにはちょうどよさそうな家だった。
御伽噺の、森に一人で住むおばあさんの家がこんな感じだろうか。
生活感はあるのに、前の住人の痕跡はない。
僕のために生活感ごと作られたような不思議な家だった。

悪夢のような御伽の国からの脱出はできなかったけれど、僕はここを統べる者になったらしい。
少し休んだら、またドアを使ってあちこち遊びに行こうと思う。
僕は眠りについた。



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そのあといくつか世界を回って、安全に旅ができることを確認してたら目が覚めました!
誰か夢診断してくれ〜〜〜〜

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