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「ハーフの子を産みたい方に」炎上問題

銀座いせよしの3年前の広告コピーが炎上している。


ピンク色の着物を着た若い女性が、スクランブル交差点の横断歩道を1人渡っている。ポスターの1つは、そんな写真を大きく載せ、こんなコピーが書かれていた。
「ハーフの子を産みたい方に」

これは、店のブログで2016年6月20日に投稿されたポスターの写真だ。
ブログには、計5つのポスター写真が載っており、次のようなコピーのもあった。

「ナンパしてくる人は減る。ナンパしてくる人の年収は上がる」
「着物を着ると、扉がすべて自動ドアになる」

これらのポスターは、コピーライターの女性が制作し、「東京コピーライターズクラブ」の16年度の新人賞に入選した作品だった。

すでにブログ掲載からは3年が経っているが、19年6月18日ごろからツイッターで不快だなどと取り上げられ、翌19日になって、写真が次々に転載されて疑問や批判が相次ぐ炎上状態になった。

既に削除されているが、問題になっているポスターは全て、こちらで見ることが出来る。

元ツイはこちら。


「ハーフの子を産みたい方に」
「ナンパしてくる人は減る。ナンパしてくる人の年収は上がる」
「着物を着ると、扉がすべて自動ドアになる」

博報堂女性コピーライターによるこれらのコピーに対する、ただの言葉好き・コピー好きな私の正直な感想。

全然刺さらない。何を言いたいのかわからない。何がいいのか全然わからない。着物や女性に対するセンスを疑う。これらを新人賞に選ぶ東京コピーライターズクラブの感覚も疑う。とがってもいないし、美しくもないし、着物屋が着物の価値貶めてどうする?

国際結婚し、ハーフの息子がいる自分にとって、特に違和感があるのがこれ。

「ハーフの子を産みたい方に」

は?「着物着て大股ひらいてスクランブル交差点を歩く」のと「ハーフの子供を産む」のにどんな関係が?理解に苦しむ。

このコピー、以下の全てをバカにしていないか?
①着物を着る女性たち
②国際結婚した・する女性とそのパートナーたち
③ハーフ当事者たち
④着物という文化

①着物を着る女性たちをバカにしている

「カッコいい外国人に注目(ナンパ?)され、つきあって、結婚して、ハーフの子供を産む」ために着物を着る人って、実際いるのだろうか。いたとしてもかなりの少数派だろう。なぜなら少し考えてみればわかる。効率が悪すぎる。

着物で大股開いて歩けば、カッコいい外国人が寄ってくる?なーんて考えていないですよね、まさか。

まず、大前提として、外国人がみなカッコいいわけでもないし、人間的に優れているわけでもない。妙な英語コンプレックスが根強い日本人は、英語をぺらぺら話す人間を「頭がいい」と誤解しがちだが、それは大いなる間違いでしかない。誰でも母国語は流暢に話す。日本語をぺらぺら話す日本人が皆優秀なわけではないのと同じ。

「着物で大股開いて歩いた」だけでは、結婚したくなるような素敵な外国人をゲットできる確率は限りなく低い。むしろ、単なる興味本位、日本人女性は落とすのが簡単といまだに信じているアホどもを引き寄せる可能性のほうが高いかと。


②国際結婚した/する女性とそのパートナーたちをバカにしている

「着物姿が魅力的だったから」
「ハーフの子供が欲しいから」

こんな理由だけで長続きするほど、国際結婚は甘くありません。国際結婚歴20年の私が保障する。日本人同士だって価値観の違いで争うのだ。育った国も慣れ親しんだ文化も価値観も違う同士が暮らしていくことの大変さを想像してみてほしい。

国際結婚には華やかでポジティブなイメージがあるのかもしれないが、実際は「ただの生活」だ。生半可な気持ちで決断すると後々後悔するのは目に見えている。「ハーフの子供が欲しいから」という理由で国際結婚したい人は今一度、いや今二度、今三度考え直して欲しい。「ハーフの子供を持つこと=幸せ」とは限らない。


③ハーフ当事者たちをバカにしている

「ハーフの子供が欲しいから」国際結婚するのは本末転倒。一生を共にしたい人がたまたま日本人じゃないから国際結婚になり、ハーフの子供が生まれるだけ。ハーフの子供は母親の付属物でもなんでもないし、ハーフの子供の親になることはなんら自慢できることではないと思う。

もう一度言う。「ハーフの子供を持つこと=幸せ」「ハーフ=幸せ」とは限らない。特に日本で育てる場合は。人気タレントでちやほやされるハーフがいる一方で、疎外され、陰湿ないじめに苦しんでいるハーフはたくさんいる。ハーフに対するいじめ報道をみる度に、胸が痛む。数あるニュースの中から一つだけ紹介する。

ハーフというだけで、まわりと何かが少し違うという理由だけで、いじめられる。そんなバカげたことがあっていいわけがない。いまだに「同じ」であることを強いられる、時代遅れもはなはだしい価値観が蔓延している学校という閉鎖的空間。信じがたいけれど、それが日本の現実だ。

運よくいじめにあわずとも、アイデンティティーの問題で苦しむハーフは少なくない。言葉の習得にしたってそうだ。何もせずにバイリンガルになれるわけではない。私の周りにはたくさんのハーフの子供達がいるが、月から金は現地校、土曜は朝から晩まで日本語(ほか中国語・韓国語等々)学校で過ごす子も多い。

純日本人の子供を育てたことがないので比較はできないが、ハーフの子供はもちろん、ハーフの親もそれなりに大変なのだ。このコピーは、ハーフという存在をアクセサリーか何かのように扱っていて、光の部分と影の部分を併せ持つ「一個の人間」としてみていないところに怒りを感じる。

④着物という文化をバカにしている

日本文化の象徴ともいえる着物のとらえ方があまりにも雑、かつ下品ではないか。この大股歩きには何か意図があるのだろうか。着物屋の広告としては違和感しかない。この会社にとって着物は単なる売り物でしかないのだろうか。

着るものによって所作は変わる。ジーンズを履いている時と、ドレスをまとっている時、同じ振る舞いをするだろうか。「着物を着ること」と「所作の美しさ」は切り離せない。セットでこその着物文化だ。こんなプレゼンテーションをされては、世界に誇れる着物文化の名が泣く。

最後に。こんな意見も紹介しておきたい。

「ターゲットの若年層には刺さる良いコピ―」… いやいや、こんなんが刺さったら困るんだって。若年層女性もずいぶんと見下されたもんだ。

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