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「東京観光日誌」#37|上野|東京藝術大学大学美術館

東京都写真美術館へ訪れた翌日の6月25日(日)、長女ミツの要望で東京藝術大学大学美術館へ行くことになった。取材に出たばかりなので少々疲れ気味だったが、この日が「新しいエコロジーとアート」展の最終日だ。
ミツは芸大の陳列館の方で行われている「素描展」の方を観たがっていたようだが、勉強の参考にするのかな・・まあいい。そして、おそらくミツは芸大を見てみたいのだろう。

・ 夏の上野と芸大への道

今回は事前予約の必要はなく、ゆっくり上野へ向かうことにした。うちは週末の朝食は遅いのだ。
そう言えば、春に桜を観に来た以来か・・上野駅に着くとすでにお昼の時間になっていた。さすがに日差しが強い(写真下)。

JR上野駅公園口前
JR上野駅公園口から芸大へ向かう

夏休み前だが結構家族連れで賑わっている(写真上)。
「国立西洋美術館」もすでに開館していて多くの観客の往来があった(写真下)。近いうちに来たいな。

国立西洋美術館前

上野恩賜公園の中央部にある竹の台広場では何かのイベントが開催されていたが、こういうのはミツはあまり好きではないので素通りし、東京都美術館横の小径を歩いて行く(写真下)。

東京都美術館横の小径
上野恩賜公園案内図

この辺りをよく通ったが・・構造的には変わってはいないものの見慣れない風景があったりした。考えてみると40年近くも経っているんだ・・。
芸大の敷地に差しかかった(写真下)。

道路を挟んで左が美術学部、右が音楽部
上島珈琲店 黒田記念館店

音楽部の敷地にある黒田記念館の建物・・いつからあるのか上島珈琲店(写真上)。こちらは・・「素描展」が行われている陳列館、それから正木記念館、藝大アートプラザへの入口となっているようだ(写真下)。

藝大アートプラザ等の入口

「大学美術館は右手の正門からお入りください」か・・この先だ。
あ、ポスター・・何かお洒落になっているぞ(写真下)。

正門近くのポスター

よく見ると日比野さんが走っている。そう言えば今年の4月から芸大の学長になったんだよね。芸大の学生の頃から段ボールを使った作品で一躍“時の人”になっていた。今でも走り続けているんだな・・。

東京藝術大学美術学部正門

着いた。ここが東京藝術大学美術学部の正門(写真上)。
入ってすぐ右横の建物が芸大美術館ということらしい(写真下)。

芸大美術館入口前
館内1階チケット売場

美術館に入るとすぐにチケット売場のフロアになっている(写真上)。確か・・昔はこの辺り、学食堂があったところだったような気がする・・とミツに言っても仕方ない。

チケット料金は一般1,000円。高校生は無料。写真撮影も可ということだ・・良心的だな。展示室は3階にありエレベータで上がる。

・ 芸大美術館の「新しいエコロジーとアート」展

3階展示場入口前
展覧会のチラシ

まずは「新しいエコロジーとアート」展に入ってみよう(写真下)。

開場入口
3F フロアマップ
展示場内入り口近く

思った以上に広々とした空間が広がっていた。フローリングが爽やかで室内の空気も涼しくて気持ちいい。ミツとは森美術館に行った時と同じように、お互いのペースで鑑賞しようと別行動で館内を巡ることにした。

気になった作品だけ紹介しよう。
目の前の室内中央に置かれた小谷元彦の作品《新しい心臓。新しい発電》(写真下)。

小谷元彦作《新しい心臓。新しい発電》2022

ペースメーカーを体内の永久電池で動かせないか、電気ウナギの生体で発電する仕組みを応用できないか、人類の希望や未来の可能性としての新たな発電の方法。そこには必ず〈自然〉への介入を伴うだろう。これらの関係を日本のヴァニタス画になぞらえ、彫刻とする。 小谷元彦

電気ウナギはアマゾン川に住むウナギである。調べてみると300~800ボルトもの電気を数秒間発生させて、相手をしびれさせて捕らえる、と記されていた。こんな特殊な能力のある電気ウナギ・・自然界の生き物は奥が深い。しかし、作品は妙に生々しい。

川内倫子作《「無題」(シリーズ「Illuminance」「Iridescence」より)2007-2009》

川内かわうち倫子りんこの写真作品は光がテーマになっている。

こちらはHATRA+Synfluxによる新たなデジタル表現の試作。(写真下)。

HATRA+Synflux作《Synthetic Feather》

情報環境に存在する無数のイメージの群れから、GAN(敵対的生成ネットワーク)のアルゴリズムが架空の鳥たちを生成。生成画像をテキスタイル職人との協働によってニットマシンによって出力可能なデータへと変換し、今期のテーマ「仮剝製」を象徴する柄をセーターとして保存した。

Synfluxホームページより

上の9つの図案すべてが同じ6色の原色系から表現されており、生産工程の負担も抑えられている、とのことだ。

大小同じ形の彫刻作品が置かれている(写真下)。これは何だろう?

AKI INOMATA作《彫刻のつくりかた》2018

ビーバーが齧った木と、それを彫刻家が3倍のスケールで模刻したものが並べられている。齧られた木は、時に美しい形状となるが、その作者は誰か。例えば、ビーバーが木の柔らかい部位を齧り取ったあと、木の芯が露出していった場合はビーバーと木のコラボレーションとなる。 AKI INOMATA

小さい方がビーバーの作品で大きいのが作者と・・ユニークだな。
さすがにエコロジーがテーマの展覧会だ。どれもつい唸ってしまう。

渡辺育+井上岳《浮浪庵》2022

映像作品のある暗がりの部屋の片隅に設置された茶室《浮浪庵》(写真上)。

(前略)この茶室は工事現場で足場として使われる単管材と、農業用の布を組み合わせ、仮設的に作られている。床との接地面には車輪がついており、空間内を自由に移動できる。また、半日程度で解体可能であり、車一台で運ぶことができるため、文字通り浮浪する茶室となっている。侘茶わびちゃの精神とはもとい、そのような取り留めなく流れ移ろう時間の中で、ひと時の瞬間を味わうことであったはずだ。茶室は永遠を目指していない。常に生まれたてであり、既に老いている。情報や人工的な微小物質に取り囲まれた私たちの世界は、もう以前のような世界ではないかもしれない。揺れ動く自然の中でそのあわい・・・を感覚する。 渡辺育+井上岳

キャンプでお茶会が開けるかもね。

36分の映像作品「Feel My Metaverse」(写真下)は、気候変動により地球が住めなくなった遠くない未来が舞台となっている。

Keiken作《Feel My Metaverse》

ここ数年の気候変動による被害と照らし合わせると何だか胸が痛い。作品の世界に留まらない現実社会がこの先待っていると思うと、微力でも何かをしないとという気持ちになる。
検索したら短縮版があったので、ここに埋め込んでおこう(写真下)。

会場の奥まで行って戻り、入口の案内係の方から反対の窓側にも作品があることを教えてもらって覗いてみた。

クロエ・パレ作《Arche》2021
坂本龍一+YCAM InterLab 《Forest Symphony》

音楽家の坂本龍一が、2013年に山口情報芸術センター[YCAM]で制作/発表したインスタレーション作品(写真上)。今回の展示では、雪舟庭での展示風景と、メイキングのドキュメンテーション映像を公開している。

木は光合成によって太陽光をエネルギーに換える。人間は、樹木が何を感じているかを直接知ることはできない。本プロジェクトでは、樹木の生体電位を計測する機器を開発し、樹々から取得されたデータを音による体験へと変換する。世界各地の樹木に設置された機器を通して、地球の自転と公転により生じる周期性が樹々にもたらす影響を地球規模で把握することができる。 坂本龍一

この展覧会では意外な方向から表現された作品に多く出合えた。ネットでは今でもバーチャルツアーがあり、会場に入って作品を鑑賞することができる。これは結構リアル。ぜひどうぞ。

2階はミュージアムショップやカフェがあった(写真下)。

写真上:ミュージアムショップ(左)、ミュージアムカフェ(右)
写真下:1階透明ガラス長椅子(左)ロッカールーム(右)

・ 陳列館の「素描展」と藝大アートプラザ

一旦正門を出て、先ほど案内のあった門から陳列館へ向かう。どういう理由かわからないが、わざわざ遠回りをしていることに気が付く。正門の守衛の建物が目の前にあるのだ(写真下)。

守衛の建物の裏側
ロダンの像とその先に陳列館

振り向くとその先の建物が陳列館ということだ(写真上)。
ちょっとモヤモヤしながら中に入ることにする(写真下)。

陳列館入口

陳列館で開催されている「素描展」は入場無料。結構気軽に来てもいい感じだ。
「素描展のあゆみ」(写真下)か・・第1回目は16年前と書いてある。そんなに昔からという訳ではないようだ。

素描展のあゆみ
陳列館の案内図

展示室の案内を見ると(写真上)、館内には1階と2階があり、1階には一部屋大きくとられた空間と手前に展示室が設けられていた。そこは借入作品として日本画家の小林小径の作品が今回展示されていた(写真下)。

小林小径《丘》紙本彩色

芸大の前身、東京美術学校だった頃の教授だった方だ。「丘」という作品の素描に特化した展示となっていた。少しずつ異なる人物の表情や姿勢から、作者の思索の痕跡を見ていく内容となっている。

関連する素描が展示
1階展示室

素描はものを観て、心と手が動くままにさせているように思います。その時は大抵楽しく、気持ちが良いです。素描で見つけたもの、得たものを自分の中の想いと共に、画面に表していくことが日本画なのかなと思っております。
自分がものの何に惹かれたのか、なんで描いたのか、制作しているといつも途中でよくわからなくなります。良いものを描いてやろうという、欲望や我儘な気持ちを無視して制作できるようになりたいです。 
修士2年 曽根美咲

素描のコメントを読むと、時々初心に立ち返ることもあっていいなって思う。ミツもここからいろいろ吸収してほしいと思う・・と、あれ!? どこにいるんだ? もう2階に行っちゃった?

2階へ行く階段
2階展示室

おいおいちゃんと観ているのか? ここはすごく勉強になるところだぞ、と言ってもあまりピンと来ていないようで、さっさと見て回っている。自分が来たいと言っていたのに・・。

この後、藝大アートプラザに立ち寄って販売している作品を見て回った。

藝大アートプラザ

買いたい作品も何点かあったが、今の私の生活環境では作品を楽しむ空間がない。だけど、ここはかなりワクワクできるお手頃価格のギャラリーである。
しかしミツは「お腹空いた~」である。
まあ確かにお昼時間は過ぎていてる・・でも、どうせ私の奢りになるのだ。だから一言言わせてもらおう。
「できれば、浪人はしないでくれよな」

東京藝術大学大学美術館
住所:東京都台東区上野公園12-8
電話:050-5541-8600(ハローダイヤル)
[開館時間/休館日]展覧会ごとに異なる
公式ページ:
https://museum.geidai.ac.jp/

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