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企業がパパ育休を戦略的に活用する道はないのか

6月初旬にカネカ炎上の件で、男性育休が話題になって2ヶ月、男性育休の話題を見かけることは少なくなりました。

が、その間にも、僕個人としては、20名程のパパ育休取得者にインタビューをしたり、男性育休のパターン分類をしたり、企業にとってどういう文脈ならパパ育休を推進することがありえるのか、仲間と議論する日々が続いていました。

ここで、ひとつ方向性が見えてきたので、note に書きたいと思います。

パパ育休は、個人、家族、会社にメリットがあるというけれど...

パパ育休を取得した人は、それが特に良かった経験であればあるほど、パパ育休に多くのメリットを見出します。

社会のことを知る機会になる、妻とのパートナーシップの基盤が整う、働き方と生き方の両立がしやすくなるから長期的なパフォーマンスが向上する、家庭をマネジメントする経験がマネージメント力向上につながる、育休を取得すると会社へのロイヤリティーが高まる、育休は会社の離職率低下につながる、男性育休をとることが会社へのブランディングになる...etc。

めちゃメリットあるのに、「なぜ勧めないの、会社!」みたいな議論になりがちです。実際、僕も初期の頃はそう思っていました。

しかし、が、ここであえて「本当か?」と問い直したいです。

例えば、「離職率」ひとつとっても、パパ育休推進よりも重要度・緊急度の高い施策なんていくらでもあるし、「会社のブランディングに繋がる」といっても、会社のミッションに繋がる事業創造が本丸な中で、なぜパパ育休を今するの?みたいな問には答えられないと思うのです。

男性の育休取得が、権利主張に成り下がったら、誰もハッピーにならない

僕が今危惧しているのは、男性の育休取得が、賃金交渉のように、権利主張になってしまうことです。

もちろん、これは社会制度がアップデートされていくタイミングでは必要な営みだと思うのですが、日常のシーンから見ると、「周りの同僚や上司のしごとが増えることへの配慮も一切せずに好き勝手に、自分だけ休みたいと主張してきた」「会社としては、男性育休は大切だけど、こいつは他の気遣いもできないやつだと認知される。結果的に、キャリアの発展も閉ざされる」といったことが起こることは、容易に予想されます。

権利主張としてのパパ育休が広がると、結果的に「育休を主張してくるのは嫌な奴」という誤ったラベルが広がってしまい、より一層育休を取得することを萎縮してしまう、悪循環がまわり始めてしまいます

優秀な人材確保のための、パパ育休

一部のトップダウンで経営を変えていける優良企業は問題ありません。例えば、メルカリやサイボウズのように、収益構造もよく、生産性も高く、社内の情報がオープンに流通している企業が、企業戦略として、企業が優秀な従業員の採用と確保に投資をする、そのための手段として当然男性育休も大事だよね、とマネジメント層で意思決定と合意形成がすっとできてしまう企業です。

そりゃ、優秀な従業員たちの年齢が上がってきたときに、家族の問題で会社をやめてしまわれたらしんどい、だから優秀で自由に働けるだけの能力と意欲もある人に会社にいてほしい、だから支援もする、その中には当然パパ育休も含まれるよね、という、至極シンプルなロジックです。

ライフスタイル企業が顧客に共感できる組織づくりのための、パパ育休活用

一方で、日本生命・積水ハウスなども、パパ育休を義務化しましたが、僕の仮説として、働き方改革だけではない要素が絡んでいるのではないかと考えています。

すっごくわかりやすくいうと、「家で暮らしていない人が、ママ相手に家売れないよね」という物凄くまっとうな理由だと思うのです。実際に家でママが育児をするときに、何が大変で、普段どんな生活をしていて、どんな苦労をしていて、何があったら嬉しいのか、そこへの共感がない営業マンから、家を買いたくないし、そんなことも分からない人が開発する家は、イケテル気がまったくしないのです。

だから、組織変革のひとつのトリガーとして、自分自身がエンドユーザーになる、エンドユーザーとの接点を持つひとつの方法として、戦略的に、男性の育休を義務化したのではないかと思います。

つまり、パパの育休を義務化することで、全社員が結果的に、しかも会社としては費用負担を一切負うことなく、エンドユーザーへの深い共感をできるようになり、かつパパママコミュニティという新しい顧客開拓になりうる繋がりを得ることができるんです。

コストゼロでってのがポイントで、企業からみたら、国が体験費用を払ってくれる、なんとも、投資対効果の高い施策ではないかと思うのです。

これは、「ライフスタイルを売る」企業にとっては、社員全員が顧客の生活に寄り添えるという意味で、組織変革としては非常に優秀な打ち手ではないかと思います。

改めて、企業が戦略的にパパ育休を活用するとはどういうことか

パパ育休とは、どうしても、「社会としての善」から議論が始まりがちです。もちろん、強いリーダーシップとトップダウンに耐えうる組織力を持った企業にとっては良いことだと思います。

ただ、現実には、「毎週のシフト調整が大変」「人材不足どうしたらいいか困る」という企業がほとんど。そこに対する具体的なソリューションがないと、この日本という社会では、パパ育休が広まりにくいのではないかと思うのです。

企業が、社会への貢献はもちろんですが、血液としての売上と利益をきちんとあげていく。そのために、日本生命・積水ハウスのように、会社の経営イシューと絡めて男性育休を捉え直す、結果的に、社員のエンゲージが高まったり、社会のことを理解して経営しているというブランディングにも繋がる、そういうプロセスではないかと思うのです。

安易なCSR事業のように、パパ育休やってますよといえばブランディングに繋がるなんてことはないし、優秀な人材採用や離職率低下に繋がるなんてことはないのです。

このように、「自社が、男性の育休を、戦略的に活用するためには何ができるのか?」という議論が起きたら、とても健全だなと思っています。政府が育休の義務化を推奨してそれが形になるのかはわかりませんが、受動的にこういった施策を受け取る会社と、積極的にそれを時代と自社にあわせて捉え直し、再定義し、活かしていく会社との間では、将来的に、従業員からの理解も違うでしょうし、経営状況も変わってくるのは当然のことだと思います。

とはいえ、このように、抽象論だけ語っていても仕方がないので、具体的に、どういう企業にはどのようなパパ育休活用の道があるのか、ひとつずつ具体例を探っていきたいと思います。

次の記事では、とある企業との議論で、ひとつのアイディアにたどり着いたので、それを紹介しようと思います。

※ 企業がパパ育休を戦略的に活用する道: 閑散期の人件費の削減と人材育成に繋げる

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