カルト2.0と虐殺の文法――不明瞭な文章を読み続けると何が起こるか。

※本稿は以下の記事の続編です。単体で読めるよう記しましたが、できればご併読頂けますと幸いです。
https://note.mu/maturiya_itto/n/ne6d95db3ff7f

 本稿は話題の愛国カルトブログを読んでみての個人的記録です。ただし、その内容へは具体的に触れていません。ひどく大雑把に言えば「呪いのビデオに身を晒してみての体験記」みたいなものです。

 普遍性は恐らくそこそこでしかない内容ですが、新手のネットカルトから身を守るために参考になる点もあるかと考え、荒削りながら提示しておくことにしました。

※ただし、元のブログを読むのは絶対にお薦めしません(ゆえに、URLも挙げません)。分かっていてなお、一定確率で洗脳され得る代物だからです。

   ・

 不当懲戒請求に対する提訴が表沙汰になった当初。本件がカルト事件と、そこまで認識されていなかった当時のことです。問題のブログを読んでみての感想に、以下のようなものがありました。

 「とても読めない」
 「キワモノとしか」
 「どうかしている」

 この感想はある意味正しいものです。実際、あのブログを読み通せる人はほとんど居ないでしょう。

 ……問題はだから、本来意味が分からないはずの文章を読み続けた時、読み手に果たして何が起こるか、です。1000人近くが煽動されたのは厳然たる事実。そして1000人に何が起こったのかは、原文を読み通してみればある程度追体験できる可能性が高い。

 そう考え今回、苦痛に耐えながら読み続けていると……あるとき自分の読み方が、次のように変化していると気づきました。すなわち、

意味が分かる/分かりそうな部分を拾い読みする

 中でも、派手で不穏な言葉に反応するようになっていました。読み始めた当初は抵抗があった差別的言辞でも、繰り返される内にあたかもそれが当然であるかのように錯覚していったのです。

 さらに厄介なのが、意味不明な文章を読むことで脳に負荷がかかっていることです。高ストレスを人工的に作り出している、と言い換えてもいい。

 高ストレス下におかれた場合、人はしばしば判断力が低下します。重い病を得た場合は挙げるまでも無いでしょうし、貧困それ自体が判断力を低下させるのも各種の研究からよく知られるとことです。

 加えて、人間は因果関係を上手く推定できてません。より正確には、因果に対し過剰反応するように設計されています。それはそうでしょう、見知らぬ獣に対し「安全かも?」と思っているようでは生き延びることが難しい。かつて必要だったこの設計も、時に弱点になってしまうことがあります。

 高ストレスと過剰反応、そして繰り返しによる慣れの合わせ技……かくして、不明瞭な文章に散りばめられた語句で、煽動されるに至る訳です。

 意味不明な文章それ自体では意味がない。けれども、そこに比較的読み易い煽動を挟むことで、一定確率で読み手の思考を(実際の犯行に至るまで)誘導することが出来る……と、倫理を別にすれば非常に感心しました。

   ・

 この手法は、まぎれもないカルトのそれです。そしてカルトは、純粋にネット越しであっても、忍び寄ることが出来る……そう考えると、ほとんど呪いにでも接した気分になれもしましょう。では、果たしてどうすればいいのか。正直なところ、まだよく分かっていません。

 それでも、無防備に接してしまうよりは、こう言う危険なパターンが有り得る……そう知っておく方が、いくらかでもマシになるはずです。「日常を営む上では、あまり不明瞭な文章に近づかない方がよさそうだ」……とでも、ひとまずは結論づけておくべきでしょうか。

付記:
本稿は全文公開の投げ銭方式です。収益は資料代等に使います。

5月31日追記:
江川紹子氏による記事が執筆されていました。遺憾ながらと言うべきか、実際に不当懲戒へ参加してしまった方の感想とピタリ一致しています。

 体調を崩して休養中、時間がある時に、たまたま問題のブログに接した(中略)読み進めるうちに、「このままでは日本が壊されてしまう」という怒りや恐怖が湧いてきた。そして「なんとかしなければ」という切迫した思いにかられた。そういう時に、懲戒請求の呼びかけがブログでなされた。女性も「これをやれば、日本を守ることになる」という気持ちになって、参加した。
 江川紹子『歪んだ正義感はなぜ生まれたのか…弁護士への大量懲戒請求にみる“カルト性”』 「懲戒請求を行った50代女性は」
http://biz-journal.jp/2018/05/post_23534_2.html

2019年付記:
まさかの「続編」を公開しました。
https://note.mu/maturiya_itto/n/na80bd48a0e9d

ここから先は

0字

¥ 300

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?