安保徹氏の訃報、及び風説/陰謀論(後編)

   ( 前編はこちら 

 後編は安保徹氏死後、陰謀論の形成過程を追う。
 ただし、文中の個人、及び団体を糾弾する意図はない。
 その点を留意の上で、目を通して頂けると幸いだ。
 では、順に追って行こう。

   12月6日

 突然のことですが、
 本日12月6日、安保徹先生がご逝去されました。
  安保徹オフィシャルブログ(※リンク先ブログタイトル変更済)

 発端は公式ブログだ。後の講演も予定されていた急死であり、当人のたびたびの主張とは裏腹に、長生きしたとは言いがたい年齢(享年69歳)である。twitterなどのSNSでは、この時点で主に事実のみがつぶやかれている。

   12月8日

「過去の講演会で
「ここだけの話、皆さんだけに言っちゃうんだけっども、わだす狙われてるんですわ。研究室は何度も荒らされてるし もし、突然死ぬようなことがあっだらば殺されたんだと思ってねー!」と冗談半分(本気半分)に話し会場に笑いを振りまいてらしたそうです。」 http://blog.goo.ne.jp/luca401/e/5d965b6302bc49963cb81a18365067f4

 当方の確認できた限り初出の陰謀論。伝聞のため真偽不詳。
 安保徹氏が長生きしなかったことは事実である。
 安保徹の主張は正しくなかった可能性が高い。
 そして、主張への疑問を抱かずに済ませるには、「安保徹氏が殺された」との解釈をとるしかない。

※安保徹氏の主張は全く的はずれであり、数日前のズンズン運動裁判など犠牲者は数知れない。なので、ここではあくまで「信じている側の心理」としてお考え頂きたい

   12月9日

通常、有り得ないことが起こっています。
名誉教授で著名な医学者でもある人物の死去を
ニュ―ス記事にしないなんて、ほとんど考えられません。
少なくとも、検索欄には全く出て来ていません。
皆さんも、検索して確かめてみて下さい。
どう考えても、これはおかしいです。
陰謀論ではなく、常識の話をしています。
死亡日時も大変気になります。
12月6日に突然死ってことで、18の666ですから。
 http://ameblo.jp/64152966/entry-12226985539.html ※強調筆者

 前述の日記では単なる伝聞である。
 この時点で、「新聞に載っていない」との中途半端な事実が加わる。
 名誉教授は事実だが、安保徹氏は医学者として決して著名ではない。
 免疫学の国際的権威が自称に過ぎないことも既に述べた通り。
 だが新聞不掲載は嘘でないだけに、伝聞でも説得力が出てしまう。

※実際は地方紙の紙面に訃報は載っていた。実績上、全国紙不掲載も妥当と考えられる。また、実際の享年は69歳ではない。
※2017年6月訂正:69歳で合っておりました。記してお詫びいたします。詳細は本稿末尾をご参照下さい。

   12月10日

ベンジャミン・フルフォード×リチャード・コシミズ(FB)
https://www.facebook.com/BenKoshi/posts/1260150137397714
非一般ニュースはアカウント凍結
https://twitter.com/kininaru2014111/status/807582780523618304

 この日に付け加えることはほとんどない。
 既に見てきた通り、デマは流通しやすい形になっていた
 そこをフォロワー数の多い人間が紹介し、陰謀を取り上げた。
 かくして12月15日現在、「安保徹氏が殺された」との陰謀が流布するに至っている。

   *

 では、以上を踏まえた上で、安保徹氏ブログの追悼コメント欄をお読み頂きたい。

・正しい事を説いているのに、おかしい世の中です。
・これは終わりではありません/終わりの始まりです
・医療の「当たり前」を、安保先生の言動・書籍によって見直す切っ掛けになりました
・ご逝去についてもなぜニュース等で報道されていないのか、非常に不可解です
    安保先生へのメッセージをお寄せ下さい

 もちろん、安保徹氏の犠牲になった方はここに書き込むことはできない。この場所で犠牲者は最初から排除されているのである。かくして、信仰はますます強固になっていく。

 これを読むあなたが安保徹氏への信仰(およびその信奉者)に近づくべきでないことは、ある程度お分かり頂けることと思う。

   *

 デマは伝播する内に「洗練」され、分かり易さと説得力を増していく。あるいはSNSは、その過程を大幅に短縮しているのではないだろうか?

 これを予防するのは容易ではない。
 と言って、信奉者の説得もまたむずかしいだろう。
 私にできることは、せめてこの過程を残すことだ。
 過程を残すことで、まだ見ぬ方への予防としたい。

 懐疑心を持つのはいい。ただ残念ながら、世の中には懐疑心を逆手にとる者も存在するのだから(了)。

12月21日追記:
現在「安保徹オフィシャルブログ」は、「享年70歳」「急性大動脈解離」との情報を含めて丸ごと削除されている。公式サイトにも一切説明はない。

付記:ここまでお読み頂きありがとうございました。本稿は全文公開の投げ銭方式です。その点ご留意の上で、ご支援頂けますと幸いです。

付記2:
「陰謀論の中でもこれはさすがに……」との文面につきあたりましたので、記録いたします。問題の文章は、兵頭正俊氏のブログです。

 安保徹(あぼたかし)が亡くなった。あまりに突然の死で、周りの人も驚いている。病気もなく、元気だった。しかし、研究室が何度も荒らされたことがあるし、もし自分が突然死んだら殺されたと思ってほしい、と講演会などで、喋っていた。
http://m-hyodo.com/usa-117/(17日20時40分現在、強調筆者)

 これのどこが酷いのでしょうか?
 まず、「安保徹(あぼたかし)」なる誤変換から、兵頭氏が安保徹氏を一切、あるいはほぼ知らないことが分かります。そもそも公式サイトのURLはtoru-abo.comですし、当方の確認する限りではありますが、没後の件で兵頭氏以外にこの誤字をおかしている人はいません。また、漢字変換では通常「たかし」と出ることはありません。
 つまり、この条件を発生する解釈は、

「安保徹」の文字をコピペし、「隆」と見間違えてルビを振った。兵頭氏は生前の安保徹氏を知らないので誤字に気付かない。

 であり、ゆえに後段の「と講演会などで、喋っていた」も伝聞でしかあり得ません。そして、その伝聞がいかなるものであるかは、本稿の前半で触れた通りです。


2017年6月4日追記:
安保徹氏の生年月日、及び享年に裏付けが取れましたのでお伝えします。
1947年(昭和22年)10月9日生まれ、享年69歳」です。
 出典:『読売年鑑』2012年~2016年各号
ちなみに自然科学の項に掲載されています(医者ではない)ので、確認の際ご留意下さい。また、2017年号からは本人死去のため非掲載です。

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