【復刻版】伊藤計劃氏によるラース・フォン・トリアー『ヨーロッパ』レビュー

 Amazonに存在している 文字化けした伊藤計劃さんのレビュー を当方個人の手で復元したものです。ファイル整理中に出てきたものの、このまま死蔵しても無意味と考えいったん公開することにしました。ただし、完全な復元が不可能だったため一部補っている箇所があります。予めご理解ご了承の上、閲覧頂けましたら幸いです。

 ヨーロッパ [DVD]
 ラース・フォン・トリアー (監督)


 ☆☆☆☆★ 2002年7月15日
『あなたはだんだん眠くな~る』

「あなたの目蓋は重くなり……」
 と、のっけでマックス・フォン・シドーのナレーションが催眠術仕掛けて来てびっくり。なんじゃこりゃ~。おのれは観客に寝ろゆうとるのか~。ほら、つまらない映画見た時の感想であるでしょう、「寝ちゃった」。
 この監督は上映中、観客に寝ろと言ってるのです。
「あなたの目蓋は重くな~り」とシドーのナレーションが観客を開始直後から奈落の底へ叩き込みます。
 はっきり言って、それは正しい。
 この映画は夢そのもの、夢のような現実。残酷で、筋が通っていなくて、でも現実的。モノクロームを基調としたまったき夢。「テクニックだけで魂のない作家」と言う評もちらほらあるけど、ぼくはこの映画は「技術に拠って立つしかない作家が、それをむしろ魂とすることで生み出せる何か」をぼくらに現前させたかったんだと思う。
 その「何か」ってなによ。それは「夢」なんじゃないかな。
 だからこの映画はすこうし、うっつらうっつらしながら観るのが正しい(いや、寝なくても当然いいのだけど)。その中でぼんやりと見えてきた映像、それが主人公の見た夢なのだから。   (了)

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